第9話 ギルド長は呆れられる【side:ガイアック】
「おい、このクズ素材の山をなんとかしろ」
俺はキラに命令する。
「む、ムリですよ……」
「は? どっかにひきとってもらえ」
無能はすぐにムリと口にする。
こいつも捨ててやりたいくらいだぜ。
「そんなのできませんよ。捨てるしかないです」
「ならせめて、まともな素材を売る商人を連れてこい」
幸い、金ならまだ余裕がある。
新しく素材を買いなおせばいいだけだ。
「は、はい」
キラは急いで部屋を出ていった。
今度はまともな商人がくるといいがな……。
はたして無能なアイツにそれができるだろうか。
◇
「商人のノルワイアさんをお連れしました」
「おう、入れ」
ほどなくして、キラが新たな商人を連れてきた。
名前は何と言ったかな。
長くて聞き取れなかった。
まあ、商人の名前なんて覚える気もないがな。
「あなたがギルド長のガイアックさん?」
「ああ、よろしく。座ってくれ」
「それで……ポーションの素材を買いたいとのことで?」
「そうだ。ゴミ品質のものじゃなくて、ちゃんとした素材を、だ」
「でしたら……ランク(C)のものでいかがでしょうか」
「ふん、まあそれならいいだろう」
ランク(B)や(A)だと大量に使うには高すぎるからな。
かといって(D)や(E)だとポーション自体の質も悪くなるし、調合も失敗しやすい。
「でしたら……薬草(C)2000個で、85000Gです」
「は? なんで薬草ごときでそんなにするんだ……?」
「え? 普通に相場の値段だと思いますが?」
「いままでは10000Gで買ってたぞ? お前も10000Gで売れ」
「無茶言わないでくださいよ。それは薬草(F)の値段でしょ? このランクのはこの値段じゃないと売れないよ」
「は? ふざけるな! なんでポーションの素材ごときがそんな値段するんだ? ただの草だぞ? そんな値段だったら、俺のギルドは赤字になっちまう」
俺が声を荒げると、商人は立ち上がって興奮しだした。
なまいきなヤツだ。
商人としての心得ができていない。
そもそも貴族で医師の俺が、商人ふぜいを相手にしてやっているんだぞ?
感謝しろ!
なのに……っ!
「あのねぇ、あんたら医術師はポーションを使いすぎなんだよ。そりゃあ、それだけかかるにきまってるだろ! こっちも慈善事業じゃないんだ」
「……っち。話の通じねぇヤロウだ……」
「あんた、メリダさんにも酷い対応をしたって言うじゃないか」
「は? 誰だ、ソイツ?」
「……なっ!?」
「先日の商人のことです。ギルド長が追い返した……」
レナが耳打ちで教えてくれる。
頭は悪いが気が利く女だ。
「メリダ……? ああ、メリダね。あのバカなら俺の言うことを聞かないから追い返したよ。まったく、いけ好かないヤロウだ。俺を騙してクズ素材を売りつけやがった。あんたもアイツには騙されないように気をつけな」
「いけ好かないのはアンタだ!」
「なに……!? 商人の分際で、なんのつもりだ!」
「商人たちはみんなうんざりしているんですよ。アンタのような貴族にはね! もうアンタの悪名は商人界隈に広がっているんですからね? もう誰もアンタとは取引しないだろうよ。少なくともまともなところはね」
なんだ!?
商人というのはどいつもこいつも。
金があればいいんじゃなかったのか?
誰が金を出してやっていると思ってる?
「悪徳貴族め! アンタなんかいなくても、善良な貴族とだけ取引していれば、十分に利益はでるんだよ! もう二度とアンタの顔は見たくないね!」
「うるさい! 商人のクズめ! 出ていけ!」
俺は手当たり次第に、そこらの物を投げつける。
いつのまにか商人はどこかへ消えていた。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫ですか……? ギルド長」
「これが大丈夫に見えるか?」
「す、すみません!」
「くそっ! とにかく素材は必要だ。他の商人を呼べ」
「ですが、もううちのギルドと取引してくれるようなところは……」
「なぜだ!?」
「それは……ギルド長が追い返したりするからです」
「俺のせいだというのか!?」
「い、いえ……」
くそ……。
どいつもこいつも。
俺のことを追い詰める。
なぜだ……。
いつからおかしくなったのだろう?
アイツを追い出してからか……?
ポーション師のヒナタ……。
いや、そんなはずはない!
あんなゴミクズ一人いなくても、俺のギルドは安泰だ。
「とにかく商人を連れてこい! どんなヤツでも構わない! 裏のルートからでも引っ張ってこい!」
「は、はい!」
そうだ……。
なにも表の商人だけが商人ではない。
特に、医師なんかは、裏の世界と通じてる者も多いと聞く。
臓器売買や、人身売買なんかで……。
それができてこそ、一人前の医師だとかも言われていたりするほどだ。
とうとう俺も、一流の医師の仲間入りというわけだ。
「ふっふっふっふっふ……」
◇
「ギルド長、商人のダクワさんをお連れしました」
今度こそ、まともなヤツなんだろうな……?
「よし、入れ」
裏の商人は、いかにもな怪しい見た目の男だった。
「よろしくお願いいたします、ギルド長。どうやら表の商人たちからは総スカンだそうで」
「うるさい。薬草を売るのか売らないのか、どっちなんだ」
「まあまあ、落ち着いてください。商品でしたらいくらでも売りますよ。私ども裏の商人は、細かいことは気にしないんでね……」
「そうか、それはよかった。俺も細かいことは好きじゃない」
裏の商人たちは、独自のルートをもっているそうだ。
そして、汚い方法とかも使って仕入れをしている。
だから格安で売ってくれたりもすると聞いている。
俺は内心、期待していた。
「で、いくらなんだ? 薬草(C)を2000個だ」
「はい、それでしたら……100000Gになります」
「なに!? 表の相場よりも高いじゃないか! 裏の商人のくせに、なんでそんな高いんだ!」
「文句があるなら、表の商人から買えばいいじゃないですか。ああ、売ってもらえないんでしたっけ?」
「キサマ……! 足元見やがって……!」
「いえ、別にいいんですよ? 値段に納得いかないのであれば、買わなくても」
くそ、そんな値段……おかしいだろ!
元の値段より高くなってる……。
あのとき素直に表の商人から買っていれば……。
いや、それだけは絶対にない。
俺はムカつくヤツには絶対に媚びない!
「ギルド長……。多少高くても、この人から買わないと……。ポーションが作れなくなります」
レナのヤツが俺に耳打ちしてくる。
「うるさい! わかっている」
「それで、買うのですか? 買わないのですか?」
「もういい! その値段で買ってやろう……。少々癪だがな……仕方がない」
「まいど! お買い上げ、ありがとうございます」
裏の商人は、ニヤリとアコギな笑みを浮かべた。
まったく……散々な目にあったぜ。
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こうして、結局ガイアックは、ポーションの素材に、大量の出費をするハメになったのであった。
そしてこれがきっかけとなり、とんでもない事件が起きるのである……!




