2-5 丹波の国
結界は一面しか作れない。
田んぼを箱のように覆う計画は頓挫する。
う~ん。
俺は更に考える。
そうか!閃いた。俺は天才かもしれない。
箱型で覆うのではなく、ドーム型で円く一面で覆えばいいんだよ。
俺は深く呼吸をしてもう一度田んぼの前に立つ。
・・・。
「結界、広がれ!」
と言いながら、両腕で円を描くように動かす。
バリンッ
出来た!
ドーム型の円い結界。
が、小さい。
田んぼが結界からはみ出ている。
・・・・。
足りねーよ。
集中力が足りないのか?
もう一度、田んぼ全体を覆う結界を作ってみる。
「結界・・・広がれ」
バ、バ、バ
と、さっきより大きな結界が作られるが、途中でフッと消えてしまった。
まだまだだ!
俺はもう一度やってみる。
バ、バ、バ、バ、
あと少しのところでまた消えた。
だが、さっきより手応えを感じる。
もっと、もっと集中するんだ。
俺は深く息を吐き、雑念を取り払う。
頭の中心部に光を見る。
今だ。
「結界、広がれ!」
バ、バ、バ、バンッ
田んぼ全体を覆う結界が出来た。
これを見ていた村の人間が
「お前、やるじゃないか!」
と、結界を触っている。
見たか!これが俺の実力。
「これで田んぼからカッパが来ることはない」
カカカ!と俺は笑っていたが、この後に大変な戦いになることなど全く想像していなかった。
カッパは、比較的夕方から夜に出てくるらしい。
太陽が嫌いなんだろう。
光秀が言っていた通り、空は今にも雨が降りだしそうな色だ。
もうすぐ日が暮れる。
戦いが始まる。
村は沢山の木の棒と、火を燃やしてカッパの襲来を警戒する。
援軍が来るまであとどれくらいだろう。
俺は先頭に立ち、薄暗くなる周りを見渡した。
チャポン
水の音。
田んぼを見るとカッパが三匹、水の中から出てきた。
来た!
ところが、結界があるためカッパは出てこれない。
よし。と思った時、結界の外を歩くカッパを発見。
・・?
カッパは田んぼから来るとは限らない、と、今さらながらに気付く。
俺はダッシュしながらカッパの背中めがけて両手から炎を出す。
ボンッ!
ところが、カッパは身を翻しこれを避けた。
!?
何という身のこなし。
動きが早い。
カッパは地面を蹴ったかと思うと、俺にめがけて飛びついてきた。
俺は高くジャンプして避けながら、カッパの後ろ側に回り込み首を捕らえ締め上げる。
気持ち悪い!でも、この首は離せない。
ちょっとヌメッとしている感触が俺の腕に伝わる。
まさか、忍者になるために鍛えたこのアクロバティックな動きがこんなに役に立つとは。
ギュエー
へんな叫び声を上げながらカッパが苦しがっている。
その声を聞きつけてなのか、他のカッパが現れた。
マズイ。
他のカッパに気をとられていると、首を締め上げているカッパの手が俺に向かって伸びてきた。
鋭い爪が目の前に。
俺はカッパから離れながら、右足で強烈なキックを繰り出す。
カッパは吹っ飛ぶが、くるっと回転し着地する。
この身体能力の高さ。
人間を遥かに上回る。
俺の、両手で繰り出す炎のスピードが遅い。
もっと、手裏剣を投げるが如く飛ばせられないのか?
考えているうちに二匹が俺めがけて飛びついてきた。
牙の生えた尖った口を大きく開けて、俺に噛みつこうとする。
こんなのに噛みつかれたら重傷を負いそう。
俺は右手で一匹のカッパの喉元に突きを入れながら、左足で回し蹴りをしてもう一匹に反撃する。
カッパは吹っ飛ぶが、何のダメージも無さそうだ。
そう思っているうちに、更に二匹が近寄ってきた。
四匹。
マジか。
俺は一か八か、炎を手裏剣のようにして投げてみる。
両手を合わせ、炎の熱さを感じた時に手裏剣を持つように右手で炎を持ち、飛びかかろうとしているカッパ目掛けて投げた!
バシュッ!
「ギャア!」
俺が放つ粘着性を持った炎が、見事カッパの顔に命中し、みるみる炎がカッパを包む。
やった!
よし。炎の手裏剣だ。これなら戦える。
仲間が火だるまになっているからなのか、明らかに警戒する三匹。
すると、ガサガサと更に三匹、四匹と、カッパが現れた。
そのカッパたちは、村人の方に向かって歩いている。
村人たちは、木に火をつけて反撃しようと待ち構えている。
ダメだ。
火の着いた木の棒を振り回したところで、動きの早いカッパは軽々避けてしまうだろう。
どうすればいい?
俺は考える間もなく、村人の方へと走った。
「皆、集まれ!!」
大声で叫び、腕を大きく動かし叫ぶ。
「結界!!守れ!」
田んぼの結界は今さら必要ない。
村人を結界ドームの中に入れた。
瞬間、田んぼの中で閉じ込められていたカッパが俺めがけて走ってくる。
1、2、3、・・・
数えられないが、今俺を狙っているカッパは10匹くらいはいるだろうか。
10対1。
圧倒的に不利なこの状況。
しかも、ドームの中から叫び声が聞こえる。
「女と子供たちが家の中にいる!連れてきてくれ。
この中に入れて助けてくれ!」
そうか。外で戦おうとしていたのは男達だけだ。
女と子供は家の中で身を潜めている。
10匹のカッパを相手にして、どうやって女と子供達を連れてくるのか。
しかも、一匹でも俺の相手をせず家に向かったら即、皆すぐに殺される。
だが、考える時間はない。
飛びかかってきたカッパの顔を左肘で打ち砕きながら、地面を蹴り回転しながら炎の手裏剣を二匹に向かって投げる。
バシュ!
バシュ!
二匹共にに命中する。
ゴウッと燃え上がるカッパ。
はぁはぁ。苦しい。
あと、8匹。
飛びかかってくる8匹からとりあえず避けるように、木の枝に手を掛け、回転するように枝に飛び移る。
高い所に登ったせいで見えてしまった。
新たに現れた小柄なカッパが数匹、子供たちがいるであろう家に走っていく姿が。
待て!!
そっちに行くな!