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8押し倒し

「やん。どう成敗してくれるのかな?」

「よ、余裕の顔がむかつく……」

「ふふ、色々理由付けて僕とくっつきたかったんだよね。可愛いじゃないか」

「ぅぅ〜……」


見下ろす彼女の大きな胸は重力に従い、僕の胸にズシンとのしかかる。

小玉スイカのような重量感。

お互いが一枚だけの薄着だから、風呂上がりの熱い体温が伝わり易くって。


サラリ

「んっ……」


それは愛撫。

腕を伸ばし、アンドナの髪を手櫛で這わせると、気持ちいいのか擽ったいのか、彼女は目を瞑る。

しっとりと、夜の空のような半乾きの黒髪。

長いから、垂れ下がったのが僕の顔にペタペタ当たって少し鬱陶しいけど。


「ぁ、はぁ……」


目蓋を開いたアンドナの瞳は、トロンと蕩けそうに濡れていた。

サキュバスの魔眼。

それを直視した者は一瞬で骨抜きになると凡ゆる書物(漫画)に書かれてある。

確かに、彼女の瞳は宝石のようで魅力的だ。

この早くなる胸の鼓動もそれのせい。

スッーー

殆ど力を込めてないのに、アンドナの後頭部に手を置くと、彼女の顔がこちらにゆっくり落ちて来た。

唇の着地点は互いに確認するまでもない。

自然な流れ。

彼女は、再び目蓋を閉じて……


カチャカチャ ガチャン


「あ、誰か来たかも」

「ッッッ!!!???」


バッ! と顔を離すアンドナ。

それからすぐ、周りをキョロキョロし……サッと、押し入れの中に消えた。


キィ


鍵を使い、扉を開け、誰かが部屋の中にまで入って来た。

いや、その誰かが僕の知り合いじゃないなら恐怖でしかないけど。


「はぁ。……、……ん?」

「こんな夜に来なくてもいいのに」

「……(キョロキョロ)」

「なに? 気になるもんでもあった?」

「誰かいた?」

「その心は?」

「一人分じゃない洗い物、落ちてる長い黒髪、テーブルにある二つのコップ、あと他人の残り香」

「コレがホントの(思わせぶりを意味する)『匂わせ』ってやつか」

「匂わせどころか、証拠が残り過ぎてこびり付いてるシミレベル」

「君は感が鋭いからなあ」

「はぁ」


彼女はため息をつき、台所に行って、家から持ってきたタッパーを冷蔵庫にしまって行く。


「誰来てたの」

「んー。エッチなお姉さん」

「誰よ。怪しい販売員とかじゃないんでしょ」

「妖しくはあるけど、まぁ楽しい子だよ」

「なにそれ」

「ま、僕の当初の目的は達成されてるから良いんだよ」

「目的?」

「一人暮らし始めた目的だよ。平均的な男の夢さ。女の子部屋に連れ込んでイチャイチャするっていう、ね」

「下らない。それ、ママが知ったら部屋即解約。『自分探し』だの言って説得した癖に」

「だから、頼むからママンにはチクらんでくれよぉ?」

「こっちはアンタが家にいなくて快適。チクるメリットがない」

「それもそれで悲しいなぁ」


戻って来る彼女。

ふと。

一点に視線をやっている。

その方向には、アンドナが隠れている襖。


「アンタ、制服最後に着たのいつよ」

「制服ぅ?」


ああ、確かに視線の先、壁際に吊るしてたな。

クリーニングから帰ってきた状態そのままのカバーに覆われた夏制服を。


「入学式の時ぐらいじゃないっけ。別に、学校で体操着姿でも問題ないっしょや。動きやすさが一番」

「そのせいで何度女生徒に間違われたと思って」

「それも別に慣れてるし。土いじりするには最適な格好なんだよ」

「ジジイみたい。折角高い金出して買ったのに、勿体ない」


彼女は制服に近づく。

ーーと。


「む」


不意に、彼女が下げた視線。

その先には、コンセント。

差し込まれているトリプルタップ。

スコンと、彼女はそれを抜き取り。


「コレ、ウカが買ったやつ?」

「んー? どーだったかなー。それがどしたの?」


「コレ、【盗聴器】」

「なにっ」


耳を疑う僕。


「なんで盗聴器ってわかんの?」

「生徒会に似たのがあったから」

「凄い説得力だ。でもなんで僕の部屋に。いつからあったのか。前の住人の忘れ物かな?」

「犯人に心当たりは?」

「過保護なママンくらい」

「ありえそう」


言いながら、彼女は盗聴器をポケットにしまい。


「もう帰る」

「あっさりし過ぎや。心配とか労いの言葉とかないんか」

「無い。少しくらい怖い目にあえ」

「なんて奴だ」


そうして、彼女は本当にそのまま部屋を出て行った。

家も近いし見送りはいいか。


「(スゥ)い、イッた?」


押し入れの中(下の段)からひょっこり顔を覗かせるドラ◯もん(アンドナ)。


「行ったよ。てか別に隠れる必要なくね?」

「……この格好で『セレス』ちゃんに会うのはちょっと。今の私、不審者っぽいぢゃん」

「自覚あったのか。てか、あの子の名前『知ってた』んだね」

「そっ、それはっ(アセアセ)」

「なに焦ってんの? 悪魔パワーで僕ら『兄妹』の記憶覗いたとかでしょ?」

「う、うん、まぁ、そんな感じ……、……【妹】か……仲が良くて……羨ましい」

「うん?」

「ぅ、ううん。独り言」

「あっそ。ほい」


手を差し出すと、アンドナは数秒それを見つめた後、「えいっ」と気合を入れるように掴んだ。

ジトリと、少し汗ばんだ手。

夏の押し入れだ、暑いに決まってる。

折角お風呂に入ったのにね。

グイッと、彼女を引っ張り出して、


「さ、ついでだし、【中の物】引っ張り出すよ」

「中の物? (後ろを確認して)ま、まさか!?」


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