7お風呂
映画はじっとり進んでいく。
二人の女主人公がそれぞれ別の場所で怨霊の被害に遭い、このままではあと数日で呪い殺されてしまう。
それを霊能力者に相談すると、『怨霊同士を戦わせて相討ちを狙おう』とぶっ飛んだ発想を提案。
果たして、物語の結末とは……
「ーーふう。中々どうして、評判の通り、コミカルでネタ的なB級映画臭を漂わせつつ、最後はキッチリ恐怖と理不尽さで締める……エンタメホラー映画の教科書のようだった」
「(ガタガタガタ……)」
「いつまでマッサージ機になってんだお前は」
「(ビクッ)お、終わった……?」
「もー。目瞑ってちゃー感想語り合えないでしょー」
料理中の時とは逆で、彼女は後ろから僕に抱きつき、ずっと目を瞑って震えていた。
「感想なんて知らないよっ。だから見たくないって言ったのにっ」
「見てない癖に、ホラー映画定番の ドンッ て音でキャーキャー騒ぎやがって」
「ビックリ演出で驚かせるのキライ!」
「それには一部同意出来るけど」
「も、もう! かいた汗がすっかり引いたよ!」
「じゃ、そろそろお風呂行って来な。『一人で』ね」
「意地悪!」
その後、僕に促された通り、お風呂に向かうアンドナだったが……
「ちゃんといるー? (チャプチャプ)」
「いるよー」
アンドナのやつ、『扉の前に居て!』とまるで子供みたいな頼みごとをしてきやがった。
お風呂の扉の前、である。
断る理由は特に無かった。
僕は風呂の引き戸に背を預けて体育座りをしながら、
「全く。付き合ってあげてる僕はなんて優しい男なんだ」
「むぅ……元はと言えば君があんな映画見せたから……それで感謝もして貰いたいだなんてマッチポンプだよっ」
「お風呂でだるまさんが転んだとか言っちゃダメだよー。頭の中で思うのもねー」
『何の話!?』
「頭洗ってる時も、背後に人の気配感じようがそれは気のせいだからねー」
『変な事言わないでっ』
「天井も見るなよー。水場の四隅に『集まりやすい』らしいからー」
『なにがっ!?』
「(ガラッ)あ、シャンプー切らしてたかも」
「(バッ)ガッツリ扉開けないで! 来るとは思ってたけど!」
「チッ、まだ湯船の中だから見えやしねぇ。次は髪洗う時にまた開けるか」
「口に出し過ぎ! 湯船の中で全身洗うからね!」
アンドナは隙を見せず、そのまま入浴を終えた。
まぁ僕も本気で覗こう(ガン見)しようなんて思わなかったけどね。
見たいなら普通に一緒に風呂凸してたし。
ーー僕も入浴を終え、タオルで髪を拭きながら、
「たくよー、風呂のお湯抜きやがってー。僕ァ一人暮らししてるんだから節約に協力しろよー」
「う〜、悪かったよぉ〜。で、でも自分が入った後のお湯とかやっぱ気になるしぃ。そ、そうだっ。節約ってんなら、次は私が食材持って来て、またご馳走するからっ、ネ?」
「ふん、まぁ許してやるか。懐の深い僕に感謝するんだよ?」
「なんだかモヤっとする……」
「んー、それで」
僕は両腕を天井に向けて伸びをし、体をコキコキ鳴らした後、
「この後どうする?」
「ど、どうするって……」
目が泳ぎだすアンドナ。
「今日はいつまで居られる感じ?」
「そ、それは……特にいつまでってのはないけど……」
「そもそも(ホラー映画見た後で)この後一人で帰れる?」
「え? ……ハッ! は、謀ったね!」
「いや、流石にそこまで計算はしてないけど」
「な、なんて卑劣な作戦! そうやって何人もの女の子を泣かせて来たんだねっ」
「そんなプレイボーイな過去は無いけど、不法侵入して来た淫魔にまさか倫理を諭されるとは」
「女の敵! せ、成敗してくれるっ。えいっ」
ガバッ
飛び込んできたアンドナ。
なす術なく押し倒された。
コロンと、ジュースが半分入ったペットボトルにぶつかり、キッチンの方に転がっていく。