57 一家団欒
ドリンクバーから戻った僕は席に座り直し、
「はいアンドナ、アイスコーヒー」
「あ、ありがと……、……なんかシュワシュワしてない?」
「しまったっ、コーラって言って渡すんだったっ」
「(コクコクッ)……炭酸入りのコーヒー……まぁ飲めなくは無いね」
「くそ! 無難な反応だっ」
「ウーくぅん、ママンにはー?」
「あ? 普通のコーヒー飲んどけ(ドンッ)」
「もっとママンを虐めてよー」
「需要ねぇわ。つか話を逸らすな。一体、いつまであんな動画投稿続けるつもりよ? 動画の収入は良いみたいだけど、金には困ってないっしょ」
「趣味みたいなもんだからねぇ。あと、『広報』としての役割もあるからやめられないよ」
「やんなくても既に知名度あるでしょ『あそこ』は」
「あそこは『常に進化』してるからね。日々変わる情報はこまめに発信しないと」
「あ、あの……『あそこ』って?」
僕の服をつまんで訊ねて来るアンドナ(かわいい)。
「ママンの仕事場だよ。このダメダメ中年女はこんなんでも色んな会社や『テーマパーク』の取締役や代表だのをしててね。今注力してるのは、『植物園』さ」
「植物園……」
「つまんなそうって思ったかい? アンドナちゃん」
「え!? い、いえっ、そんな事はっ」
「人のツレに圧掛けるんじゃねぇっ」
「掛けてないよーもう。ま、普通植物園なんて聞いたら地味なイメージ持っちゃうだろうね。けど、ウチのは『一度行ったら忘れられない』強烈なインパクトがあるんだ」
「『トラウマ的な意味』でね(セレス)」
「セレちゃん、それは『ルールを破った人限定』だよ」
「す、凄い場所だというのは今の会話で分かりました……」
「お待たせしましたー(店員)」
テーブルに並べられる和風キノコパスタ、海老ドリア、ハンバーグ&ステーキセット、マンゴーパフェ。
ママンは飲み物だけでいいらしい。
「てかアンドナ。重いものキツイって言っときながらドリア? 重くない?」
「そ、そうかな?」
「ならこのハンバーグもいけるね。フォークに刺してっと……はい、あーん」
「えっ、ここで!? き、君の家族が見てるし……」
「だからだよ、あーん(威圧)」
「ぅぅ……あー(パクッ)……んっ……味なんて分かんないよ……」
「じゃー次っ、僕にドリアッ」
「ん……あーん」
「んっ! (パクッ!)あふひ(熱い)!」
「……(カチャカチャ)もぐもぐ」
「むっ! テメェセレス! 勝手にステーキ食うな!」
「熱いうちに」
「ならそっちのキノコパスタも寄越せ!」
「手出したらフォークで刺す(パクッ)」
「マンゴーパフェも食うな!」
「んふふふーほほえまー(ジー)」
「だからスマホで撮影すんなっつってんだろババア!」
戦場のような食事の場も、十数分後には治り……。
「ふぅ……(コトリ)さて、ウー君。こっちも真面目な話をするよ」
コーヒーカップをテーブルに置き、僕を見据えるママン。
「なに? 説教するつもり? 今のママンの言葉は僕には響かないよ」
「いつも適当に聞き流されてる気がするから独り言だと思って聞いて」
「めんどー」
「話は『昨日の件』だ。シフォンちゃんから色々報告は貰ってるよ」
「あーはいはい。あ、てかシフォンさんに双子の娘がいた事なんで教えてくれなかったん? 『昔から知り合えてたら』幼馴染みとしてもっと早くに『楽しめた』のに」
「んー? そうか。『今はもう』あの二人と仲良しさんなんだね」
「あん? シフォンさんからそれは報告されてないん? 僕が昨日暴れたのは姉妹に伸びた悪の手に天誅を下す為だったのさ」
「君らしい行動原理だよ。逆に言えば、好きな子の為以外じゃ君は動かないし、普段動かない分遠慮無しに暴れちゃう」
「愛の力は凄いわね(しみじみ)」
「けれど、少しは『力』を抑えて貰わないと。協力してくれた多くの動物さん達の事はシフォンちゃんとこの『夢先一家』が世間に広まるのを上手く抑えてくれたけど、『二度目は無いですよ』って昨日怒られたんだから。ママがさ」
「頼んでないけどあの子達が駆け付けてくれたんよー。少年漫画のような熱い展開だねー」
「その主人公オーラを抑えられるようコントロールして欲しいんだ、ママはさ」
「クソッ、僕が主人公過ぎるばかりに……でもコントロールの仕方なんて知らないぜ?」
「【いいもの】がある」
ピラッ
ポケットから取り出した数枚の【チケット】。
「なんだい、件の『植物園』のじゃないか。僕なんて顔パスで行けるっしょ」
「君はね。コレは君が『連れて行きたい子』に渡したまえ」
「僕の知り合いならその子も顔パスにしろよー。ま、貰っといて損は無いか」
あの植物園に変な『こだわり』がある。
『世界観を守る為』だかって理由で、予約制入場人数制限をしているのだ。
世間の評判を聞くと、行った者は皆、絶賛の嵐。
テレビや雑誌の取材も全て断っているので、園内の様子は行った者の口コミとママンの宣伝動画くらいでしか分からない。
結果、希望者は殺到。
チケットは手に入り辛くなり、オークションサイトでは高値で取り引きされてるのだとか。




