5ガーデン
カヌレ会長、体型もあのサキュバス【アンドナ】とそっくりだから『もしや』と思ったけど……まだ分からんな。
真面目な会長があんなドスケベなコス、するとは思えないけど。
僕はベンチに座り直し(キツネも膝に戻り)、
「お近付きの印に何か食べる?」
「な、何か?」
「見ての通り、野菜からフルーツまでなんでもござれだよ」
会長が、僕の周囲を右から左へ視線をスライドさせ、
「いつ見ても壮観だね、君の庭は」
「そうかな?」
僕は何気なくベンチの下に手を伸ばし、【イチゴ】を摘み、口にポイッ。
もむもむ、いつも通り、甘い。
イチゴに限らず、ベンチ周囲の芝生には【メロン】やら【スイカ】などの果実がゴロッと実っており、野菜関係だと【オクラ】やら【枝豆】などニョキリと伸びていた。
「不思議、だよね。こんな狭い範囲に色んな植物が実るだなんて。しかも、旬もバラバラ。君が、何か特殊な栽培法を行ってる、とかじゃあないんだろ?」
「そだねー。食べた後テキトーにその種その辺にプププッて吐いたら数日で実になるねー」
「色々と自然界の法則を無視してるね……君、周りから『なんて呼ばれてるか』知ってるかい?」
「さー。んっ、そうだ。数日前に植えたのがそろそろ……あった。キツネちゃん、アレ、お願い(指差し)」
「ニャー」
お願いすると、キツネは膝の上から起き上がり、僕の体を上って、肩からピョンとジャンプ、後ろの木にしがみつく。
それから器用に木をのぼってって……『実った果実』をもぎ、戻ってきた。
受け取った果実を--ベンチの横に置いてるキャンプ用品一式から取り出した--ナイフで剥き、食べ易いサイズに切り、飯盒の蓋に置いて。
「はい、ラフランスお待ち」
「あ、ありがとう……随分、賢いキツネだね。この前見た時は【フクロウ】だった気がするけど……?」
「ここに集まるアニマルは日替わりだからね。ウサギだったり、ヤマネコだったり。ダブる事は無いからみんなでシフトで決めてんじゃない? ……にしても会長、よく『こっちを観察してる』んだね?」
「え!? い、いやっ……き、君は『ある意味』目立ってるからね。ふ、フルーツ、頂くよっ」
爪楊枝なんてシャレた気遣いはせず、手掴みで食えとばかりずいっと寄越す。
困惑しつつ、カヌレ会長は細い指先でラフランスをつまみ……口に運ぶ。
ぬらりと果汁で濡れる唇……セクシー。
「す、凄く濃厚な甘さだ……こんな洋梨は現地でも食べた事が無い」
「でしょー」
反応に満足しつつ、頑張ってくれたキツネにもお裾分けすると、『ンフー』とご満悦顔。
「和梨が食べたい気分」
セレスは文句言うなら食うんじゃねぇ。
ーー会長は、僕の背後にある木を訝しげに見上げ、
「コレは、そもそも洋梨の木、なのかい?」
「元はね。僕が入学したての頃、中庭最奥にあるこのベンチが一目で気に入ってー、洋梨を食べてー、その種を後ろにぺッてしたら、数日後にはもう『今ぐらいの木になってた』ー」
「……特殊な土壌、だったとしても異様だね」
「土は普通だと思うよ。『アパート内の庭』でも適当に種撒いたらすぐ成るし。たまたまいつも『不思議な種』が僕の手元に来るんだろうねぇ」
「ああ……『あの木も君が』……」
「ん?」
「い、いや、独り言だよっ。そ、そう、木だ。この木、加えて『何種類もの果物が同時に実る』不思議な木と来たもんだ」
「お得な木だよねー。今は他に、【イチジク】、【栗】、【シャインマスカット】が収穫出来るよー」
「マスカット、もう一日置いた方が甘くなるかも(ムグムグ)」
「あっ、てめーセレスッ、勝手に食うなっ。……もうっ、お前には守護者もスルーだからなぁ」
言いながら、僕は頭上の巨大な【ハチの巣】や【クモの巣】を見上げて、
「あっ、一応会長も気を付けてね。言ってくれればあげるけど、ここから無断でブツを取ろうとしたら『酷い目』にあうから」
「……どうなるか、想像に難くないね」
そうだね。
ハチは滅多刺しにしようとメッチャ襲ってくるし、クモも強力な糸で木に吊し上げたり毒の牙で噛んで来るからね。
でも普段はいい子達なんだよ?
蜂蜜欲しい時は分けてくれるし、服に穴開いてたりボタン外れてた時はクモちゃんが補修してくれるし。
「不思議な植物地帯に、従順な生き物、そしてそこの主である君の儚げで透き通る出で立ち……まるで、『楽園にたたずむ精霊』……一枚の美しい絵画のような存在だね、君は」
「ポエミーだね、会長」
「みんなも呼んでる君の二つ名だよ。他には【妖精】だの、【女神】だの」
「知らんかった……人を勝手に人気ヒロインの属性みたく呼びくさりやがって」
「てか会長。今更だけどコイツ、中庭私物化してるのはいいの? 結構生徒会にもクレームが来てる」
「セレスこの野郎裏切り者めっ」
「……い、一応ウカノ君は園芸部として登録してるから。クレームを出してるのも、蓋を開けてみればここの作物を摘み食いしようとした子達みたいだし」
「やったぜ。流石は会長だ」
「会長、コイツに甘過ぎ。厳しくいかないとどんどん付け上がる。いつもみたくビシッと」
「うっ……でも、この子の前だとどうも私は……」
「僕が今まで付け下がった相手がいないのはよく知ってるだろセレス?」
「確かに」
「君は説教を右から左に流すタイプだろうしね……」
ふと。
「あの会長が翻弄されてる……」「流石は精霊……」「間に挟まりてぇー」
気付けば、なにやら周りに注目されていた僕達。
そんな外野の中から、
「おー? カヌレー? なにやってんのー?」
「あーん? 生徒会長様が、よりにもよって中庭の精霊を引っかけるだなんて隅に置けないねー」
おや、昨日、僕に唐揚げとおにぎりをくれた女子生徒二人だ。
どうも先輩だったらしい。
「べ、別にひっかけてなんて……」
「あはっ。あの生徒会長様がこうもしおらしくなるだなんて、ウカノ君たらホント罪な子だねぇ」
「カヌレー、あんたなら『昨日みたいな格好』すれば男子はイチコロだよー?」
「き、昨日の話はするなっ」
「なんの話?」
「お、ウカちゃん気になる?」
「実はねー(コショコショ)昨夜『この子んちでパーティーしてこの子にエッチなコスプレを』」
「ええいっ! 黙れと言っている! 離れろっ」
ズイッと僕らの間に割り込む会長。
「あはっ、カヌレ必死過ぎー(笑)」
「嫉妬乙〜(笑)」
「もうこれ以上口を開くなっ」
「エッチなコス気になるなぁ、見たいなぁ」
「わ、忘れてくれウカノ君っ」
「あっ、そー言えば、肝心のウカノ君は実際、カヌレの事どー思ってるー?」
「前から気になってるよ」
「ーーえ?」
「「キャー!!」」
「はぁ」とため息を吐くセレス。
クァ〜とあくびを漏らすキツネ。
今日のお昼休みはいつもより騒がしかった。