335 職員とパーフェクトプラン
「で、探してるのは自衛のアイテム、だっけ? どんなタイプのが良い?」
「た、タイプ?」
「うん。自衛って言っても、解釈は様々じゃん? 相手を『暴力で無力化』するのか、相手からの『暴力を防ぐ』のか、相手の『戦意を無くす』のか、相手と『関わらないように』するのかとか、色々さ」
「そ、そうか、ううん…………変な人と関わらないように、ってのが一番、かな?」
出来るだけトラブルは起こしたくない。
既に、最大級の引力を持つ同行人が目の前に居るというのに。
「つまり『回避系』ねー。僕的には能力で捩じ伏せる『パワー系』とか、相手の能力を反射する『カウンター系』が見てて面白いんだけどな」
全然面白くなどない。
一般客をなんだと思ってるのか。
それから、慧音さんと共にデバイスに従い、目的の『異常存在』があるという露店に到着。
「しゃっせー」
「えーっとねぇ……おっ、あったあった。店員さん、ちょっと触らせて貰うねー」
慧音さんはしゃがみ、敷物の上に置かれた商品群の中から、二つのモノを摘み上げる。
片方はキラキラした緑の液体の入った小瓶、もう片方はキラキラした青い宝石の付いた指輪。
一応、どちらも前もってデバイスで検索した通りのモノだが……
「どっちがいい? 飲むタイプか、装着るタイプか」
「ええと……因みに、どっちかが上とかあるの?」
「それは使う場面にもよるけど、単純な持続力とか強力なのはって話なら、断然前者(飲むタイプ)だよ。理由はなんとなく分かるでしょ?」
「……薬で身体を変質させるというリスクがあるから?」
「実際、リスクというほどのリスクはないんだけどね。でもまぁ、なんとなく嫌じゃん? 薬飲むとか。そういった意味で強力らしいよ」
『で、どっち?』と目で急かしてくる慧音さん。
……それぞれの『異常存在』の効果はこうだ。
指輪タイプ……【リョーセイバイ】は、危機を察知したら『身体が透明に』なって難を逃れられ、
飲むタイプ……【トーメイコーソク】は、敵意を向けられた相手から『敵意を無くす』という平和的な効果がある。
前者にリスクは無いが、後者には『逆に好意を持たれてしまう場合も』というリスクがある。
「……指輪の方で」
「冒険しないねぇ。お、こっちの指輪の効果は……っと、丁度いい。そのデバイスのカメラモードでコレ、撮影して見てよ」
「さ、撮影?」
言われるがままにパシャリ。
すると、すぐに画面の下部に文字が浮かび上がり……
「これは……商品説明?」
「そ。そーゆー検索も楽でしょ。因みに、効果はなんて?」
「……『ビーム』が出せる指輪、らしい」
「ええやん。買わない?」
「い、いらない……」
人間相手ならまだしも、ここの住人を一撃で無力化出来る威力も無いだろうし、下手に反撃をすれば、それこそどちらかが死ぬまで収拾が付かなくなる。
そう考えると、この『不戦の指輪』はとても都合がいい。
出来れば、薬の方も飲んで二重に万全を期したい所だが、流石に後が(体調的な意味で)怖いので……もう少し、効果が弱くても良いから、別の薬も検討したい。
いや、わざわざ薬タイプでなくとも、この指輪のようなアクセサリータイプのを追加でいいのだが。
「ありあとしたー!」
デバイスで会計を済ませ、店員から指輪を受け取る。
ここの責任者であるあのエルフ(のような見た目の)プランから直接招待されたからか、デバイスに初めからチャージされていたお金は潤沢にある。
まぁ、これだけのお金でも買えないような商品もあるんだろうが。
「指に着けないでネックレスみたいにして貰ったんだ」
「う、うん……こういうアクセとかあまり着けないし……」
「これを機に着けてみればいいのに。サイズは使用者に合わせて可変してくれるよ?」
「ま、まぁ、このままでも問題なく使えるみたいだし……」
「早速使ってみれば?」
「そ、そうは言っても……敵意のある相手が居ないと発動しないっていうし、そうそう相手に敵意を持たれるなんて場面も無いし……」
「確かに。あっ、そーいや『敵意を持たれる香水』があそこに売ってた気が?」
「ほ、本末転倒……」
ここで『試しに僕が襲いかかってみるね』なんて言われなくって良かった。
指輪の力で透明になれると言っても、息遣いなどの気配や体臭が消えるわけではない。
この街中ならまだしも、植物園などの野生下で、五感の鋭敏な獣達相手にどれだけ誤魔化せるのやら。
他にも、この市場にだって嗅覚や感覚の鋭い者もいるだろうし。
それになにより……
目の前のこの人、慧音さんからは『何を用いても』逃げられる気がしない。
例え私が、他の『異常存在』を用いて気配や体臭を消したとしても、この人相手のかくれんぼに勝てるビジョンが見えない。
(それに、いまだ私は、慧音さんの事を何も知らない)
分かっているのは、彼女の名前と、そして、『恐怖』だけ。
その恐怖は、不快感や威圧感を匂わせてくるようなソレとは違う。
言うなれば『根源的恐怖』を、彼女は感じさせてくるのだ。
暗闇や火、高所などと同じ、周囲に当たり前に存在している恐怖のカテゴリー。
彼女の特徴に合わせるなら……『音』に対する恐怖。
今もこうして、普通に会話出来ているように見えるが、実際は集中など出来ていない。
彼女が声を発する度に、頭の中の脳みそをこねくり回される感覚。
なにか、こう、『逆らえなくなる』ような、陶酔に似た感覚。
恐怖と陶酔……それは、相反するようで、殆どはセットだ。
歴史上の『為政者』が皆、持っていたモノ。
即ち、『王』となる資格を持つ者だろう。
直感だが、彼女の『異常性』は、この市場で買えるような『異常存在』を摂取したり身に付けたりして『発現』出来るものでは無い、気がする。
それだけで、彼女を量産出来るとは到底思えないから。




