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300 職員と一般通過カップル

「おっと。そろそろ帰らなきゃ。君もさっさと帰りなね」



「う、うん」


反射的に頷く私。

酔っ払いのおっさんから助けてくれた彼女(?)は、自身の名も告げず、


「じゃあね」


と、あっさり、その場から去って行った。


……よく見れば、その手には私と同じ様に、プラプラ揺れるポリ袋。

買い物帰り、だったらしくって……


「……あっ」


咄嗟に、申し訳程度に伸びる私の手。


だが、その手は空を軽く切るだけ。

あの子を引き留める力も、職務も、やる気も、今の私には無い。


『職員』時代は、『異常存在』を見つけようものなら、なんとしてでも保護か、拘束か、無力化、が鉄則だった。

その場合は『組織』から応援を呼んだり、場合によってはモノ(『異常存在』)を使ってでも仕事を遂行していたわけだが……


だが……


「ふんふんふーん」


遠ざかって行く彼女(?)。

ご機嫌なのか、鼻歌を奏でている。


その歌は、どこか心の中を空っぽにしてくれるような……そんな心地良さで……


ギリッ


唇を噛み、痛みで意識を保つ私。


素直に聞き惚れるな。

警戒を解くな。

相手は『音を扱う異常存在』の中でも『最上位』。

その鼻歌でさえ、容易に『世界を狂わせる力』があると思え。


「ふんふふーん」


その背中が見えなくなるまで、私は彼女(?)を見届けた。


…………

……


「…………はぁ」


自然と漏れる、深い深い溜め息。


まるで、森の中で『捕食者』が去るまで隠れていた時のような緊迫感。


実際、状況は似たようなものだ。

戻って来る前に、早く場を去ろう。

そこで『止まってる』おっさんは……放っといていいか。



「ドラッグストア行くとさ、線香の箱をパッとみ〇〇〇ー〇の箱と間違えるよね」

「いや、知らないけど……」



……下品な会話をするカップルとすれ違った。

顔はよく見えなかったが……何となく『関わらない方がいい』気がする。

今の私は、さっきの彼女(?)との邂逅で、危険センサーが麻痺しているし。



それから、帰宅後…………


チャプ チャプン


「ふぅ……」


浴室。

狭い浴室の中の、狭いバランス釜のお風呂で、今日一日の疲れを濯ぐ私。


疲れ……正確には気疲れか。

気というよりは魂が疲弊した感があるが。


とは言っても、こんな脚も伸ばせない浴槽で、疲れなど取れるわけもなし。


「引っ越してぇ」


実際、私の今の蓄えなら、こんな狭いアパートじゃなくもっと良い部屋に引っ越せる。

だが、それは『兄がいた頃』は出来なかった。


まぁ兄からすれば私はただのバイト学生なわけで。

急に、預金通帳に溜まった大金を見せても『どんな悪さをした!?』と混乱されるわけで。


少なくとも、兄が帰ってくるまで引っ越す予定はない。

そう思えるほどに、ここには愛着がわきすぎた。


「……綺麗、だったな」


思い出すのは、今朝学園に来たエルフのプランと……

そして、さっき目にした、ミルクティー色髪の彼女(?)。


『異常存在』……

それらは基本、顔を顰めるほどに醜いモノ、か、息を忘れるほどに美しいか、のどちらかになる。

あの二人は当然後者。

まさに人外レベルの美貌。


人間というものは、『自身にないモノ』を持つ相手に惹かれる傾向にある、らしい。


そう考えると、『何もかも違う』アレら『異常存在』に、私達一般人が惹かれてしまうのも必然なのであろう。


「……『綺麗な声』」


声 というものは厄介だ。


視覚より、触覚より、味覚より、嗅覚より


私にとっては、聴覚で得た情報が一番、脳に刻まれやすい。


彼女(?)の能力か、それとも生まれ持った特性スキルか。


あの声が、頭から離れない。


大抵の場合、『音』に関する『異常存在』は、その発生源を絶てば無力化出来る。


『人を死ぬまで演奏させるピアノ』

であれば、そこに人を近寄せられないよう部屋に収容すればいいし、


『人から発生能力を奪うインコ』

だって、無音室に収容すれば、害などもたらさない。


しかし……

『あの子』に関しては、『口を塞ぐ』だとか『無音室でなら』……なんて、思わない方がいい。


「まさか、日に二人も、超弩級の『異常存在』とあいまみえるとはね……」


勿論、あのエルフことプランにも『相手を虜にする声質』は標準で備わっているんだろうが……


さっきの彼女(?)の場合、その『音』という特性一本に、全ての力が振られているように感じた。

そしてその特性一本で、『プランと同じ次元』に立っているだろうと、私は推測する。


「『異常存在』に、日に、二人、かぁ」


『職員』時代ですらそんな事はなかった。

任務であれば、低・中危険度の複数の『異常存在』に関わる機会はあったが……


そも、危険度と『見つかりにくさ』は基本的に比例するもの。

危険な『異常存在』ほど、その身を日常にうまく溶け込ませているのだ。


だというのに、日に二人、だ。


これを全て偶然……と片付けていいのか?


「(パチン)いかんいかん、また仕事脳になってる」


もう『職員』ではないのだから、仕事に絡める必要は無いのだ。


私が考えるべきは、明後日、何としても『現地(あの場所)』で兄と会う事、それだけ。


プランはまだしも、あの彼女(?)とはもう会う機会もないだろう……


いや……近所に住んでる可能性もあるが、それでも……いや……ううむ……



結局、その日は考える事が多過ぎて眠れず…………翌日の学校は寝坊で遅刻した。

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