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295 職員とお昼

アリガトウゴザイマシター


と販売員さんからスタミナ弁当を受け取り、その場を離れる私達。

空木は何も買ってない。

その手には『手作り弁当』があるから。

なんでも、『祖母』が作ってくれたらしい。

仲の良い家族が居るのはいい事だ。



私達はその足で、学園の屋上……というには少し語弊がある、三階の屋外テラスへとやって来た。


風通しが良く花や緑が多くて日陰もあり、一方虫は寄って来ないので過ごしやすいとはいえ、季節は夏……お嬢様方の利用者は少ない。


別にお互い人嫌いでは無いが、単に、ここなら静かに話せるという意味で、お昼は此処にしているのだ。


「で、お前はどうすんだ?」


「え? なにが?」

「『行くか』『行かないか』、だよ」


あのプランの関わっている『観光施設』へ、という意味だろう。


「う、うーん。興味はあるから、どうしようかと悩んでるよ。ユキノは?」


なんて、無難に返す私。


「私か? ……あまり、気は進まねぇな」


「へぇ。なんで?」

「単純に行きたくねぇというか、『そこ』には『会いたくねぇヤツ』が……いや、何でもねぇ」

「ふぅん」


思う所があるんだろうが、彼女なりに、『本能的』に、『観光施設』を避けているのかもしれない。

ユキノも『プロ』であるなら、あんなあからさまに怪しい場所、近づきたくも無いだろう。


……ぶっちゃけ、私は、ユキノから『似た匂い』を感じている。


それは、『裏の顔』、という意味で。

裏。

それは、つまり、ユキノも『一般人カタギでは無い』という意味で。


直接彼女に訊いたわけでもないし、訊けるわけもないから根拠など皆無だが……強いて理由を挙げるなら、『空気』。


『前職』の経験から、諜報員なり宗教家なり『殺し屋』なり、様々なタイプの人間を見て来たのもあって、私には変な目利きスキルがついてしまった。


まるで間違い探しの間違いを見つけた時のように、一般人との違いが自動的に分かってしまうのだ。


ユキノの一つ一つの細かな動作、普段の立ち振る舞いは……『平和ボケした日本人』のそれとは違う。


その、巧みな気配の消し方と、体育などで見せるしなやかな筋肉の使い方……

それを『活かせる仕事』を考えると、ユキノの裏の顔は……


「いつものそこ(屋根付きテーブル)でいいだろ?」

「そうだね」


まぁ。

この学園は私やユキノのような、そんな『訳アリの子達は珍しく無い』んだけどね。

あの【プラン】に圧倒されないアマンさんやわらびさんが飛び抜けて『異常存在』なだけで。


それぞれのお弁当をテーブルに置き、対面になるように椅子に座る。


「お嬢様学校に通う奴に言うのもアレだが、リーズナブルとはいえ毎回弁当買ってて大丈夫か?」


「あん? お金の事なら問題無いよ。『バイト代』がたんまりあるから。もう『辞めた』けどね」

「バイトしてたのか、初めて聞いたぜ。今までそんな話しなかったろ?」

最近さっきまでバイトしてた事を『忘れてた』んだよ」

「どんなピンポイントな健忘症だよ。ヤベーバイトでもしてて変な薬でも飲まされたのか」

「そんな感じ」


パカリと弁当箱のプラ蓋を開ける。

作り立てだからか、まだ温かい。


「実際、自炊すると惣菜買うより高く付くって言うじゃん? なら私がやってる事は間違ってないよね」


「自炊が面倒くさいだけのやつが皆言ってるやつだろそれ」


「今流行りのタイパ(タイムパフォーマンス)ってやつだよ。映画を倍速で見るみたく、自炊の時間を自分磨きに使うんだ」


「自炊する事が自分磨きに繋がるんじゃねぇか?」


「うるさいなぁ。自炊しても肉ばっか買うから野菜不足に陥るだけだよ。それに引き換え、ほら、お弁当には最初から野菜がたくさん」


「焼肉の下に申し訳程度に敷かれてるレタスとミニトマト一個だけじゃねぇか」

「きんぴらごぼうがあるでしょっ」


「ソレを野菜食ってる判定はしっくりこねぇな……フライドポテトやケチャップを野菜判定してるメリケンみてぇなもんだ」


「グチグチとうるさいなぁ。家族にお弁当作って貰ってるだけのヤツがマウント取るなっ」


パキリと割り箸を割り、ご飯にオカズにと口に運ぶ。

この安心感すら覚えるいつもの濃い目の味。

まるで育ち盛りな高校球児になった気分だ。


「自炊なら私も出来るんだよ、一人暮らししてた経験も長いからな。けど、最近はババアが勝手に用意しててだな……」


パカリとプラスチックの(〇ッキーのロゴ入り)お弁当箱を開けるユキノ。

アスパラの肉巻きやら玉子焼きやら炊き込みご飯やらと、栄養バランスや彩りも良い感じのお弁当。


「おばあちゃんに愛されてるねぇ」


「ババアのボケ防止に付き合ってやってるだけだよ。この年で介護なんて御免だからな」


「はいはい。はぁ…………私だって今みたいな『一人暮らし状態』じゃなく『兄貴』がいれば弁当くらい……」


「兄貴? 居たのか?」

「…………ま、今は『家を出てる』んだけどね」

「ふぅん」


パクリ お弁当を口に運ぶユキノ。

特に追求しないのが彼女らしい。


「しっかし、バイトだっけ? お嬢様がバイトしてるってのも変な感じだが」


「今時代、社会勉強か何かでお嬢様だってバイトするでしょ。てか私はお嬢様じゃないっての。お嬢様学園に通ってるだけの女だよ。私だって場違いなの自覚してるんだから」


「ならなんでここ選んだんだよ」

「……ま、成り行きさ」

「ここは『変な学生』結構受け入れるからなぁ」

「その言葉そのまま返してやるよ」

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