292 職員と太っ腹
お嬢様学校【山百合学園】にて、朝会中、突然謎の女性がステージ上に乱入して来た。
そこにいた生徒会長や在校生らは、混乱を隠せなぬ様子で…………
「申し訳ございません。一応、学園の責任者の方には『挨拶済み』なので」
「そ……そうなの、ですか。我が校の責任者が貴方を通した、という事であれば、問題はないのでしょう。不審者扱いしてしまい、申し訳ない」
「いえ。このタイミングで来れば不審者と疑われても仕方ありません。それに、間違ってはいませんので」
「……それで、何か告知でも? 出来ればその前に、一つ、貴方自身についての紹介もお願いしたいのですが」
「そうですね。では、みなさん」
彼女はマイクの前に立ち……いや、そのマイクのある演台より前に立ち、私達を見回す。
その振る舞いが、まるで『王』のようで、様になっている。
思えば、彼女は現れてから一度も、マイクを使ってはいなかった。
生徒会長の近くにあるマイクも、彼女の声を拾う事は無かった。
大声で話していたわけでもない。
なのに……不思議と体育館内に広がる彼女の不思議な声。
「とりあえず、私の事は『プラン』とお呼び下さい」
彼女は自身をそう名乗り。
そして、現在はとある『観光施設』の責任者だと説明した。
それは分かった……が。
そんな彼女が、何故、この山百合学園に……?
「本題ですが。皆さんをその『観光施設』へと招待したいと思っています」
シーン……
思ったよりも『まとも』な提案に、周りはリアクションが出来ない。
まだ『学園は乗っ取った』と宣言してくれた方がしっくりくる。
「……あの。今は修学旅行や社会科見学のシーズンでもないのですが。先の話、ですか?」
「いえ。明後日などいかがです?」
「直近過ぎますっ! こちらにも部活動や学園側の事情がっ」
「一日あれば十分です。調整はこちらで致しますので」
「……そうは言っても、移動などの時間もあるでしょう? 場所は近いのですか?」
「すぐに行ける距離ですので」
「は、はぁ……どちらにしろ、私一人の一存で今すぐには決められません。しかし、何故、私達の学園を招待しようと?」
「ああ。それは、抽選です」
「抽選……?」
「ええ。全国の学校を無作為に選び、交通費諸々遊戯料諸々無料で招待しているのです」
「な、成る程……?」
「なんとも胡散臭い言い訳を」
「まぁ、意図的に『ここ』を選んだのでしょうね。そして、恐らく、プラン様の言う観光施設とは『あそこ』の事……」
観光施設……
まぁ、一日だけなら、学園側もどうにか調整出来るかもしれない。
というか、あのプランという女性の頼みを断るのが怖い。
しかし……なんだ?
『なにか』引っ掛かる。
なにが?
プラン、に関しては、引っ掛かる部分だらけだから、この際置いておくとして……
なんというか、これは、言うなれば、
『既視感』?
「毎度このように、当選した学校に、責任者の貴方が挨拶に?」
「はい。責任者たるもの、お招きする生徒さんの顔を『一人一人覚える』のは当然です」
「そ、そうですか……」
「当然ですが、参加は自由。しかし、滅多に招待出来る場所では無いと、予め申し上げます」
「今更ではありますが、その『観光施設』とは……?」
プランは、『その場所』を口にする。
直後、騒つく体育館。
そこが、色々な意味で有名な場所であったからだろう。
世間知らずなお嬢様方でも、その存在を知らぬ者は居ないという反応。
その場所は、予約の取れない事でも有名な施設。
お金持ちのお嬢様と言えど、チケットが取れないという話も有名。
お金で揺らぐ『団体』では無いという証左。
そして、同時に、皆は思い出しただろう。
プランが、『有名人』である事を。
『その場所』が有名になったのは、ある日、『公式チャンネル』が投稿した、一つの紹介動画から。
まるで、ファンタジー世界のようなそこの光景に、皆は最初、CGだのヤラセだのと反応した。
だが、その後投稿された動画や、体験レポなどで、『本物では?』と囁かれ始めて……
決定的なのは、実はその場所が、『十数年前』から存在ったという事実。
『懐かしいなぁ』『なんでお前ら知らないの?』『CMとかテレビでやってたやん』
と懐かしみだす、親世代のネット住民。
当然、ネット世界は困惑する。
昔から在って、昔から有名で、なのに、何故かネットでは一切情報が広まらなかったその場所。
そんな『矛盾』と『不気味さ』に、皆は『そこ』に注目し出した。
そして、あの責任者、プランだ。
ネット住民が、『その場所』が本当に存在すると信じた説得力の中には、プランという、その神秘的な存在もあったろう。
同じ人間とは思えぬ美貌とその存在感。
施設の紹介動画は当然として、彼女自身、ネットではVtuberやら顔出し配信者としても活躍しているようで……
そう、『有名人』、なのだ。
皆が『観光施設』とセットでプランを覚えているぐらい、には。
なのに……
皆の反応を見る限り、その『観光施設』とセットで、プランの事も『忘れていた』という、そんな体育館の空気。
逆に言えば、『観光施設』を思い出せたから、プランも思い出せたという、そんな空気。
あり得るのだろうか?
そんな偶然が。
皆が同時に、まるで『特定のワード』の記憶を失う催眠でも掛けられたかのような、そんな偶然が。
「あの方のこの話、長くなると思います?」
「さぁ。気まぐれな人ですからね。帰りたいと判断したのなら止めませんよ。因みに、この会話もあの人には筒抜けです」
「まぁ。地獄耳。命が惜しいので留まりましょう」




