269 会長と参上
圧倒的な存在感と絶望的な破壊の力を持つ『彼女』。
そんな『彼女』を、南(私達側)に引き込めれば……
私達は、北の魔界を容易に制圧出来る。
「彼女が協力してくれるのであれば、確かに、我々には勝利が確約されるでしょう。彼女一人でも、制圧は容易。ですが……手を貸してくれるかは未知数です」
懸念を口にするジージョ。
「そうね。気分屋のようだし」
「今は友好的ですが、我々は彼女の事を知らな過ぎます。容易に首輪を付けられる相手ではありません。断られるだけならまだしも、気分を損ねて南の魔界を『崩壊』させかねない……爆弾と同じです。せめて、交渉するのであれば時間を掛けて……」
「時間なんて無いでしょう? もう一度彼女を喚べるか不明だし、ただでさえ悪魔の招待状は貴重。こちらから人間界に行く手段も『判明していない』」
「ならば、どうします」
「私を捧げるわ」
「……は」
「そもそも、彼女は私の『伴侶』として喚んだのよ? 何もおかしくはないでしょう」
「それは…………まぁ(彼女にも事情があった気がしますが今は)細かくは突っ込みませんが、姫は自身を『供物扱い』されるのを嫌がってませんでしたか」
「親とはいえ他人にそんな扱いをされるのは、ね。私がそれを『よし』とするならその限りでは無いわ」
「……、そこまでして、北の魔界を制圧したいと」
「制圧したいという目的、という意味なら、実際は半々ね」
「半々」
「魔族が『強い相手を好きになる』。それは自然な事でしょう?」
「…………成る程」
「ついでに、『世界の半分をやる』とでも言えばノるんじゃないかしら、彼女なら」
「そのまま手持ち無沙汰な北の魔界をやる、と」
「彼女が創る混沌とした世界……気にならない?」
「この世の地獄が出来るのでは」
「ふふ。地獄だなんて、いかにも魔族らしいじゃないの」
ズ ド ン ッ ッ ッ ! ! !
ド ド ド ッ ッ ッ ! ! !
ビ ュ ン ! ギ ュ ン ! ! !
『うおおおお凄い戦いダァ! Uは世界樹を操って枝を音速の鞭のように振るい! 更には貴重な世界樹の実を弾丸のように乱射! 世界樹が産み出す魔力をも惜しげもなくレーザー放射! 対する精霊プロメ! 先程見せた以上の炎魔法で対抗! 焼き! 燃やし! 溶かし! しかし! アレほど圧倒的な精霊の力でも! 世界樹の表面を焦がす程度だあああ!!!』
「あのクソ野郎実況で楽しみやがって! こんなとこで本気で暴れられるか!」
「なら広い場所に移動する? プロメさん」
「まだやるのぉ!? どうせこのまま相打ちで勝負なんて着かないよ!」
「自信満々だね。けど、僕には今思い付いたとっておきの裏技があるぜ? これならプロメさんを消滅させられる!」
「私の事嫌いなの!?」
「どうせ死なないっしょや。んじゃあ! いくぜ!」
ピトリ
彼女が世界樹に触れると、
ゾ ゾ ゾ ッ
世界樹が震え、一瞬で、その青黒かった色を『赤色』へと変えて行く。
見るからに、明らかに、穏やかではない警告色。
火の赤よりも恐ろしい『何かへと変化』したのだと、本能的に察する。
「酔ったドリーかよ!」
「へっ、世界樹ちゃんに一瞬で生成させた果実酒(果物と酵母を作って貰って発酵させた)を本人に与えた! フェーズ2だ!」
「その暴走状態になったらここら一帯から命が消えるよ!」
「精霊ならば民を護って見せろ!」
「魔王みたいなこと言いやがってえええ!!!」
シュルシュル
世界樹は、腕のような枝を何本も増殖させ、触手のようにしならせ……
私達を含む周囲全て吹き飛ばすように、
ブ ォ ン ! ! !
振るっ────
「氷結世界」
キィン
……
…………ガラス同士が、擦れたような音。
これは
『こ 凍っています!? 我らが世界樹が! い、一体これは……!?』
こんな芸当が可能なのは『彼女自身』……
だが、
世界樹を暴走させた本人が、寸前で止めた?
「ああん? 誰だぁ僕らの激闘に水……いや、氷を差すのわぁ?」
「何が激闘だ。人の気も知らずこんな所で遊んでて」
「うん? その声は……まさか!」
彼女が嬉しそうな声を上げて注目するのは……
凍り付いた世界樹の、その触手の上に立つ【誰か】。
さららと風で揺れる『黒い髪』。
宝石のような『紅い瞳』。
資料で見た事のある『人間界のラフな服装』。
アレは……
『あの女』は……!
「わーっ、数時間ぶりだね【カヌレー】」
↑↓
『カヌレ……? なんと! あのカヌレ王女!? 北の魔界の! 王の娘の! 今まで南の魔界に関わらなかったそんな彼女が! 何故いまここに!?』
「……あの実況してる人、もしかしてツルギさん? なんであそこにいるの? すごい初対面みたいな台詞を言ってるんだが」
「まぁそこはいつものあの人の『ノリ』だから気にしないで。それよりカヌレ、降りてこーい」
「全く……」
スッ スタッ
そこそこの高所から顔色も変えずに飛び降り、静かに着地するマイハニー。
怪我をしてないのは身体能力強化魔法の類だろうけど、魔力のコントロールとやらを、呼吸と同じような自然さで使いこなしておる。
や、それとも単純に、平気なのは魔族としてのスペックだろうか。
「言いたい事は山ほどあるけど、今は不問にしてやるよ」
「それは私のセリフだっ」




