261 ラウンド5
遂にぶつかった、バカ王子と私が異世界から召喚んだ『彼女』。
唯一の攻撃と防御手段だった子ドラゴンを休ませ、バカ王子と対峙する彼女。
彼女が何か攻撃手段をまだ隠していると期待し、バカ王子は突っ込んで……
ただ、単純に。
彼女は、バカ王子を『力』で捩じ伏せた。
…………
……
「姫」
「え?」
「姫、あれは、一体……」
「え、ええ。バカ王子が足を滑らせて転んだ……ように見える?」
「どうでしょう。偶然が重なれば、あのような光景に至らなくも無さそうですが」
「で、無いとするならば……あの子が、単純に、地力で、バカ王子を組み伏せた、と?」
「【ラブレター】で、彼女を召喚んだ際の条件は、覚えておいでですか?」
「ええ。『バカ王子より強い子を』……よね」
「つまりは」
「……まだ、判断するには早いかもだけどね」
バカ王子の頭を掴んでいた彼女は、
「あちゃー」
と言いながら手を離し、その場から数歩離れる。
……待てよ?
この状況は……
「なにやってるのっ、追い討ちよ!」
つい、私は叫んでしまった。
周囲が私に注目する。
「ふ、ふざけるな!」と、近くに居たバカ王子の従者も顔を真っ赤に。
……ええいっ、もう構ってられないっ。
「そのままバカ王子の頭蓋を踏み潰しなさい! それで終わりよ! 千載一遇のチャンスでしょ!」
叫ぶ私に、彼女は……『うわぁ』と、明らかに引いたように、
「無いわー。人の心無いんか?」
「私達は魔族よ! 寧ろヤれる時にヤらない方が馬鹿にされるわよ!」
「僕はスポーツマンシップに則っていてねぇ。『ルール違反』な今の行動だって、『やっちまった』と自戒してるとこなんだぜ?」
「ルール違反ってなによ!」
「この試合は『魔法で戦わないとダメ』、でしょう?」
「は……はぁ?」
「これは魔法バトルだからねぇ。だから僕、子ドラゴンちゃんに任せてたんだよ?」
「そ、それを馬鹿正直に守って、今まで貴方自身は何もしなかったと?」
「子ドラちゃんに指示はしてたでしょ。まぁ、さっきからどうにか魔法を出そうと、王子君を『観察』やら『考察』をしてたわけだが」
「考察ってなによっ、それなら私達に訊けばいいでしょっ」
「いや、やり方訊いたら負けかな、と」
「なんのプライドよ!」
『あっ! あの普段は氷のようにクールな姫が声を荒げています! そしてどうやら! Uは魔法も使えずにあの場に立っているという事になります! では! 彼女は魔力で身体能力強化もしていないっ、という事になるのでしょうか!?』
そうだ。
実況者の決闘管理委員が言うように、彼女からは殆ど魔力が感じられないんで、身体能力強化は出来ていない、という現状。
それは分かっていた。
だが……考えれば、それはおかしい。
彼女は、子ドラゴンの機動力をもってバカ王子の攻撃は防げていた。
だが……身体能力強化をしていなければ、そもそも、バカ王子の放った数々の炎魔法の熱にも耐えられなかった筈。
あの子ドラゴンは、まだそういった『魔法防御魔法』などの補助魔法は使えない。
では、一体、どうやって……?
ドォンッッッ!!!
『おおっと!? リングが爆発したぁ!?』
突如、リングからの爆炎。
その規模は、子ドラゴンが放った火球の威力の比ではない。
まるで煙突のように、爆炎や爆煙が防壁魔法の上部から勢い良く漏れ出す(元から上部だけ空いている)。
煙が晴れ、リングの中央にはドーナツのような大穴。
こんな真似が出来るのは……ただ一人。
「やぁ、起きた?」
「……もう殺す」
「寝起きにしては物騒な第一声だねぇ」
全身から炎を吹き出すバカ王子。
ただ炎を纏って鎧としているわけではなく、大河の激流のような魔力の迸りも感じられて……
確信する。
アレは『本気』のモードだ。
私も初めて見る、アイツの激昂(遊び無し)。
最早、あの状態であれば細かな魔法の攻防など必要無い。
敵に接近し、殴るのみで戦闘が終わる。
いや、大抵の相手であれば、触れるどころか、リングの範囲内にいるだけで蒸発させられるだろう。
だからこそ……何故、『彼女は平気な顔』なんだ?
「貴様、この太陽男まで引き出させおって……最早! 影すら遺さん……!」
「技の名前は立派だねぇ。それより、ごめんね、リングに埋めちゃって」
「未だ余裕を見せる胆力は認めよう。そして、貴様の謎の地力も、な。だが……俺がこうなったからには、容易に触れようなどと思わん事だ」
「もうルール違反(暴力に訴える)はしないってー」
ドンッッッ!!!
炎の化身が、彼女という敵目掛けて突っ込む。
一瞬で距離を詰め、相手を滅ぼさんと、全身という凶器を無慈悲に振るう。
最早、目では追えるスピードでは無く、バカ王子が通った路に残る炎の残像しか追えない。




