255 会長(不在)と転生もの
カヌレと健全な一泊二日の温泉旅館デートを楽しんでいたわけだが……
僕は外で、怪しげな赤い封筒を拾ってしまう。
直後、別世界にワープさせられる僕。
なんと、その世界は【魔界】で。
その場所は、【魔王城】だった。
そこでは、魔王の娘こと竜族の姫【タルト】ちゃんが僕を待ち構えていた。
彼女は僕を婚約者にして、周りから決められた婚約者であるイケ好かない王子【モレク】との婚約を解消したいらしい。
彼女の考える、その婚約解消の手段とは……強さで名を上げた王子を、僕がコテンパンに倒す事。
それから僕らは、その王子が居るであろう場所(魔王城から魔法学園)へと場を変え……
そうして、学園の高級レストランにて、件の王子と邂逅。
王子からイヤミなんか言われつつ、その場で『一時間後に決闘すぞ』とトントン拍子(予定通り)にコトが運んで……
今は、王子がお土産で持って来たレッドドラゴンの生首を鑑賞中。
「ドラゴンならワンチャン、(不思議な力で)復活するかなと思ってたけど」
「伝説の『不死鳥』なら、生き返られるんでしょうけど、こうなってしまってはドラゴンといえど、どうにもならないわ」
「僕の実家にある『自然治癒を高める薬』が手元にあれば、まだ間に合ったんだけどもねー」
「この状態から助かる魔法薬なんて聞いた事ないわよ。いいから、この子は任せておきなさい。ジージョ」
「はっ。ドラゴンの身元を割り出しておきますね」
「ちぇー。魔法の世界だってのに、死者が甦らないなんて夢が無いなぁ」
「魔法は万能では無いの」
さっきの話に出た【不死鳥】がこの場に居たらなぁ。
このドラゴンも助かって……
「……姫。これは」
「え? なに? どうして、『タルの中が光って』……熱っ! ジージョッ、何かおかしいわ! タルから離れなさいっ」
ボッ!
ジージョさんがタルから手を離した瞬間、タルの中から火柱が上がった。
「なにこれ? 王子様の時間差火の魔法?」
「有り得ない話じゃ無いわね……あのクソ王子が……!」
「……おや? 姫、何か『聞こえませんか』?」
「え?」
グルルル……
それは、獣の呻き声。
音の出所は、『火柱の中から』で……
「よっ(ズボッ)」
「ちょっ!? 貴方なにしてるのっ」
「火中の栗? んー……ほっ(ズルッ)」
「……グアッ!」
なんとなんと。
火柱の中に手を突っ込み、何か太くて手触りがゴツゴツした蛇みたいのがいるなと思い、掴んで引っ張ると……中からは『ミニドラゴン』が。
ドラゴンちゃん本人は、何事も無かったようにお目目をキラキラさせている。
「見てみぃ復活したやないけっ! 少し縮んでるがなっ」
「……なにが、起きたの? そういう手品……?」
「飲み込みが悪いぜタルトちゃんっ。ドラゴンちゃんが首から復活したんだよっ。小さいのは首だけ分の重さだからだっ。ねー」
「グァッ」
「……有り得ないわよ……そんなの、本当に『不死鳥の転生の力』じゃないの」
ガシッと、僕の手からドラゴンを奪い取るタルトちゃん。
「グエー」とドラゴンちゃんは目をバッテン(×)にする。
「やめて! その子に酷い事しないで!」
「人聞きの悪いっ。……さっきのと同じ個体、ね。変に細工した感じもない。知能も見た目、相応まで低下してるけど……アレは、本当に死んでいた」
「だから言ったっしょー、同じ子ってー」
「……貴方、実はネクロマンサー?」
「へー、魔法って『そんな事まで出来る』んだ」
「……その反応だと、そういうわけじゃなさそうね。ネクロマンス(反魂)なんてのは名ばかりで、実態は、死体を魔力で操り人形にする技術に過ぎない。ここまで、魂の存在を感じるような反魂技術を使えるネクロマンサーなんて、聞いた事も無い」
「僕がそうなのかもよ? 『無意識に』天才ネクロマンサーとしての才能が開花したのやも」
「それならそれで、何か恐ろしい物の蓋が開いたような気がしてくるわ……」
「グアー」
子ドラゴンちゃんはジタバタと身体を揺らしてタルトちゃんの手から逃れ、すぐに僕の肩に移った。
ゴロゴロスリスリゴスロリ、僕に懐いてくれたようだ。
「実の所、僕は昔からドラゴンとは縁があるんだ」
「ふぅん。人間界にもいるんだ、竜族が」
「なのかな? 本人は『異世界から移住して来た』とか胡散臭い事言ってたけど。その人も、自分を『魔王』だと自称してるよ」
「変な人なの……?」
「『強さは本物』かなぁ。君みたいなドラゴンっぽい見た目の特徴も無い人だけど、僕の『ケンカの師匠』でもある」
「つまり、喧嘩慣れしてる、と」
タルトちゃんは、一考するように顎に手を添え、
「なら、決闘じゃあすぐに殺されない、って事でいいのね? ある程度逃げ回ったら降伏しなさい。後は私がどうにかするから」
「おいおい、なに言ってんだい。『勝つ』為に僕を呼んだんだろう?」
「そうは言うけど、貴方、戦う手段あるの?」
「『ある』けど『ない』」
「クイズやってるんじゃないのよ」
「まぁ僕の活躍は見てのお楽しみさ、『面白いもん』見せてやんよ。というか、別に、勝ってしまっても構わんのだろう?」
「その自信はどこから来るのよ……」
「あっ。僕はカッコよく勝っちゃってさっさと帰るけど、惚れて僕を追って来んでくれな?」
「いっそカッコ悪く負けて欲しくなって来たわね……」
「たまには魔王城に遊びには来て貰いたいですね。姫に気を遣わない同世代の方は貴重ですので、ご友人として」
「ジージョ! 余計な事言わないっ」
僕は落ちてる(王子に捨てられた)木の実を拾い、フッと、埃を飛ばすように息を吹く。
それから、パキリと片手で、木の実を割る。
中には、クルミのような白くて栄養の多い仁(食用部)がぎっしり。
ソレを指で摘んで引き抜き、ドラゴンちゃんの口元へ。
ドラゴンちゃんは疑う様子も無く、パクリと木の実を口に運ぶ。
「ソレは栄養満点だからねー。転生直後にはピッタリだよー」
「グァッ」
「ホント呑気ね、これから死ぬかもしれないってのに」
「せめて、決闘までの時間、わたくしが手合わせの相手を致しましょうか? それで立てられる作戦や方針も生まれるやもしれません」
「ジージョさんも戦える人?」
「伊達に、姫の侍女はしていませんよ。炎の魔法も多少は使えます。当然、実力は姫の方が上ですが」
「手合わせかぁ。確かに、魔法ってやつは直に見ておきたいねぇ。あ、ならタルトちゃんも参加してよ」
「参加? 別々に相手しろって?」
「いや、二人同時に来ていいよ」
それから、一時間後…………
闘技場にて、決闘の火蓋が切って落とされた。




