248 会長(不在)と魔界
カヌレと健全な一泊二日の温泉旅館デートを楽しんでいたわけだが。
二日目のチェックアウト後……
観光地の滝を堪能したあと、僕は怪しげな赤い封筒を拾ってしまう。
その直後、僕の視界から、温泉地が消えていって…………
フッ
「お?」
目の前の光景に、僕は現状を整理する。
ここは……なんだろう。
例えるなら、『城の中』?
壁が石だし、蝋燭? 松明? が燃えてるし、薄暗いし……
そういうコンセプトのテーマパークの中?
おかしいなぁ……さっきまで温泉地にいたのに。
「もー! いつになったら『来る』のよっ」
「ですから、もう少し『レベル』を下がるべきですよ、『タルト姫』」
「嫌よ!」
おや?
テーマパークのキャストさんかな?
どこぞの学校の制服を着た少女と、着物姿の付き人? 侍女? さん。
どちらも同世代に見える見た目年齢。
にしても、制服少女が着ている服は、いかにもなコスプレっぽいデザインだな。
分かりやすく例えるなら、エ◯ゲの学園に出て来そうな感じのゴテゴテした制服。
下のスカートは矢鱈短くて、上は乳袋が出来るタイプのやつ。
姉妹に着せたいなぁ。
「レベルを下げたら、あの『バカ王子』に勝てないじゃない!」
「しかし、運良く『誰か』が来たとしても、あの王子に勝てる逸材など……」
「来て貰わないと困るのよ! 私あんなのと『結婚』したくない!」
ふむふむ。
何やら、ミュージカルの練習中かな?
状況は把握した。
ワープした理由は分からんけど。
練習中なら、声掛けたらダメやろか……?
「今日までにあのバカ王子にプロポーズの返答しなきゃだってのに! なんとかしてよ!」
「なんとかと言われましても……」
「こんちはー。バカ王子って誰っすかー?」
「はぁ? そんなの、南の小国のバカ王子の事に決まってるでしょ!」
「炎魔族の王子モレク様。彼が放つ魔法は、既に王宮魔導軍以上とされ、特に炎の魔法は大地を焼き尽くす災害レベルと言われています。既に、次期『南の』魔王候補として名が上がっているほど」
「はえー。そういう話ね。説明ありがと。それはそれとして、出口はどちらで?」
「出口って……」
ハッ!!
ここで、二人が僕の存在を認識した。
バッと、二人は僕から距離を取る。
「あ、貴方誰よ!」
「タルト様、私の後ろへ」
「ふんっ、バカにしないでジージョ! 護衛など不要! 私の魔力は知ってるでしょ! 侮辱よっ」
おや。
僕に対して一気に敵意を向けて来た。
練習の邪魔をしたからかな?
「二人が言いたい事は分かるぜ? 僕に『舞台』に立って欲しいんだろう?」
「何の話よ!」
「舞台……? 姫、もしかしてこの方は……」
「耳を貸さないでジージョ! 城の者や私達にも気付かれずに侵入して来るような強者よ! 私達を人質にして何か要求する算段かもしれないわっ」
「へへっ、もう開始ってんのかい? いいぜ。僕は悪役って配役だねっ」
「言ってる事が支離滅裂で何をするか見当も付かないわっ」
「いえ、姫。あの方の手元を見て下さい」
「けひゃひゃ! 吾輩は地獄の王ウカノン! 少女の羞恥する姿を見るのが何よりの喜びな気高き王よ! 二人には今から幼少期に着ていた服を無理矢理着てもらうっ」
「やばい奴よ!」
「姫、手元を」
「……え? 待って、貴方、それは……」
と。
姫と呼ばれた少女が、僕の手元に視線を向ける。
僕の手にあるのは……なんだ?
ああ、赤い封筒か。
「もしかして貴方、『旦那』様……?」
「旦那? もしかして告白かい?」
「ちょ、調子に乗らないでっ」
「姫様。タルト様。説明が先かと」
「わ、分かってるわよっ。……それはね、『悪魔の招待状』なの」
「悪魔の招待状?」
オウム返ししつつ、赤い封筒に目を落とす。
よく見ると、閉じ口には『悪魔のシルエット(バイ◯ンマンのような)のシール』が貼られてあって。
ペリリ 封を切り、中身を確認すると、入っていたのは、一枚の紙。
髪の毛やらお金やらは入っていないみたい。
「えーっと(ピラリ)えー……『貴方は南の魔界を治める魔王、ベルフェが嫡子、第一王女タルトの婿に選ばれました。つきましては、こちらが指定した場所へとご案内致します』……と」
「状況は読めたかしら?」
「んー……大体はね。てか、『魔界』?」
「はい。貴方は『人間界』からいらした方ですので馴染みは無いでしょうが、ここは魔が治める世、魔界でございます」
「成る程、ここがねぇ。まぁ『馴染みが無いわけじゃあない』けど」
知り合いに魔界出身者がいるわけだし。
チラリ、窓が視界に入ったので外の様子をうかがうと……建物の外は真っ暗で、よく見えない。
僕が温泉地にいた時は昼前だった筈だけど、時差があるのかな?
「魔界は常に闇の世界。人間界のように陽の光が射す事はございません」
「その様子だと、えーっと、侍女のジージョさん? は、こっち(人間界)に来た事があるんだ」
「ええ、まぁ。……このまま立ち話もなんですので、こちらに」
「うぃ」
ジージョさんについていく僕。
そんな僕を、タルトちゃんは何か言いたげに、ジーッと睨んでいた。




