231 サキュバスとテコ入れで探偵ものなのにバトル
人魚伝説の残る清廉島で殺人事件に巻き込まれた僕とアンドナ。
第二の事件が発生し、二人で死体を検死をしていたわけだが、その最中、犯人をメイドのメイさんだと疑った男が発狂、メイさんに襲い掛かった。
が……これをメイさんはガーターベルトに仕込んでいた暗器で華麗に撃退。
脳を揺さぶられた野々宮息子は、糸が切れた人形のように、力無く前のめりに倒れ込んだ。
この間、およそ三秒。
「メイさん、中々やるじゃない。(設備メンテナンス用であろう)工具をそうやって使うなんて」
「恐縮です」
「メイドと言えばガーターに暗器っ。今はメイドな僕も何か仕込みたいねっ」
「お金でも挟んどけば?」
「こらっ、いかがわしくなるだろアンドナっ。でもなんかこう、細い鉄の棒とかで静かに暗殺したいよねぇ」
「急に快楽殺人犯にならないでね? せめて、襲われたから反撃する、みたいな大義名分は持ってね?」
「でも鉄の棒ってどこに売ってんだろうねぇ? たこ焼きグッズとか? ホムセン? ドンキ? 今すぐに用意出来るのは竹串とかだけど……」
「君の場合は木製の(獲物の)方が危険なんだよなぁ……どうせここじゃもう使う機会ないよ」
「ほら、今回の黒幕が襲って来た時とか」
「『その心配は要らない』と思うけどなぁ」
アンドナのやつ、もう事件は起きないと油断してるな。
その油断が命取りだというのに。
「で、この人(野々宮)どうする? 縛る?」
「逆にその方が安全かもね。自害されても困るし」
「丁度ビニール紐があります」
「メイさんのそのスカート四次元ポケットみたいでいいなぁ」
キュッキュ(縛)
「さて、と……次は何が起きるかな?」
「不謹慎だなぁ。何も起きないのが一番でしょ?」
「そりゃあそうなんだけど、『人魚様』は黙ってくれてるかね?」
ドォンッ!!!
「お? 今の爆発音は……豆ちゃんのいる神社の方か!? 黙ってくれないみたいだぜアンドナッ」
「楽しそうだね……」
「行こうメイさんっ、主のピンチだっ」
「はい」
タッタッタ
神社へと戻って来た僕達。
そこで見たのは……
「おお、主ら。そちらはどうじゃった?」
「青なんとかさんとおばさんがヤラれちゃってたよー」
「そうか……それは災難じゃったな」
「で、豆ちゃん、この状況は?」
神社の本殿手前、鳥居の奥では、腕組みして立っている豆ちゃんと、地面に膝をついている山田さんがいた。
クールで淡々としたイメージのあった彼女だが、今はハァハァと肩で息をし、豆ちゃんを睨んだりしていて、感情の迸りを感じた。
そういえば、周囲が少し荒れている。
この焦げ臭さは、あの一部分が黒くなった鳥居の匂いかな?
砂利道も、スコップで掘ったように抉れて土が見えている。
「見ての通りじゃな。現在ワシは襲撃されている最中じゃ」
「ふ……ふ……襲撃とは、言ってくれますね」
「ふむ。なにかおかしなことを言ったかの?」
「見ての通り……貴方は被害者になどなっていませんよ!」
バッ!
懐から一枚のお札を取り出した山田さん。
ブツブツブツブツと早口で何かを口ずさみ(高速詠唱)豆ちゃんへと投げつけた!
ヒラヒラした紙に見えるのに、ヒュン! と刃物のように鋭く飛んで行くお札!
ザクッ! 豆ちゃんの足元の地面に突き刺さって……
ドォン!!
爆音! 爆炎! 爆煙! が境内に響く!
「殺ったか!?」
「君がそれ言うんだ……てか、この状況になにか言う事ないの?」
「探偵ものがバトルものになるとかテコ入れみたいだなー、って不満はあるよ?」
「言うほど探偵ものだったかな……」
「しっかし、モノホンの霊能者ってこんな戦い方するんだねぇ。初めて見たよ」
「人によりけり、じゃないかなぁ」
爆発を起こした謎のお札。
土埃が視界を悪くするが……
フワリ
突然風が吹き、煙が払われる。
「けほっけほっ……ふぅ。全く、騒がしいな客じゃな」
巫女服をフワリと翻し、何事も無かったように現れる豆ちゃん。
「これでもダメですか。やはり、想定以上の『化け物』ですね」
「いきなり襲ってきて化け物とは失礼じゃろう。霊能者だと聞くが、この奇怪な術の数々……主が一連の事件の犯人なのか?」
「犯人? とぼけないで下さい。全て、貴方が仕組んだ事でしょう」
「ほぉ、面白い。その根拠をお聞かせ願おうか。そこにいる者どもも、何故ワシが襲われているか知りたかろうて」
「それは、貴方を『祓った』後やりますのでお構い無く。一秒でも、貴方のような邪な存在は……」
ダッ!
走り出す山田さん。
ジャラリ!
再び、懐から何かを取り出す。
それは、茶色い数珠。
その数珠を、メリケンサックのように拳に巻き付け、
ヒュッ! ボクサー並みのフックを豆ちゃんに振るう。
が、その拳は届かなかった。
拳は、豆ちゃんの顔面寸前で止められている。
山田さんの慈悲?
かと思いきや……フッと、山田さんの足が、地面から離れ始める。
少しずつ、身体が浮き始めたのだ。
「地に足がつかないとはこの事か」
「それ言いたいだけでしょ」
「しかし、まさか山田さんには空飛ぶ力があったなんて……霊能力、僕も教えて貰おうかな……」
「アレは彼女の力では無いんだけど……君は、デカい鳥呼べば飛べるでしょや」
自分の力で空を自由に飛びたいなって話なのに。




