221 エピローグ1
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「ぶあっくしょい! うー……」
クールに空木ちゃんの家を去った僕だけど、我ながら可愛くないクシャミが出てしまったぜ。
「しかしこの感じ……この後僕の噂を誰かにされる感じのクシャミだな。置きクシャミってやつだ」
「変な造語を……」
「おや? その声は?」
ピタリ 足を止めて振り返ると……
『黒い着物』。
「やっぱり、さっき居たよね? セポネさん」
「はい。お久し振りです、ウカノ坊ちゃん」
彼女はママンの部下、セポネさん。
どこぞの宿泊施設の女将をしているお姉さん。
「こっちで会うのは珍しいけど、この家に何か用でもあった?」
「ええ、まぁ。冥子……寝ていた老婆と関わりがありまして」
「ふーん。…………ん? せぽね? なんかどこかで聞いた気が?」
「ええ。実の所、今回坊ちゃんが解決したおまじない関連。私や冥子が関わっているのです」
「おまじない……ああ、思い出した。確か、おまじないの中に『せぽね様』って言葉があったね。あれ? 『ゔぇる様』だっけ? まぁ、どっちも同じ意味か。で、関わってる、ってのは?」
「話すと複雑な事情なのですが……」
要約するに。
あの婆ちゃんこと冥子さんは、セポネさんとこの宿泊施設の元従業員で。
あのおかしな世界を作ったのは、セポネさんが餞別として彼女にあげた【ある物】のせいだと。
「ある物って?」
「【カメラ】、ですね」
「あーアレかぁ」
色々と繋がってくる。
「あのカメラはなんだったの?」
「……不思議な力のあるカメラ、です」
なんでも、写した写真の風景のある場所へいつでも行き来出来る便利なカメラ、なのだと。
行き来するのは『意識』のみ。
それは、過去であろうと戻れるという。
「そんな不思議グッズ、あり得るの? ドラえもんじゃねえんだぞ?」
「『あの』環境で生まれた貴方がいまだに非現実的なものを信じてない、というのも逆に凄いですね……」
「まぁ変な世界に行ったのは事実だから、そのアイテムがマジという前提で進めよう。しっかしセポネさん、何でそんなもん渡すかなー。人生は一度きりだから意味があるんだぜ?」
「私なりの考えがあるんですよ…………しかし、冥子がそれを使う事は無かった」
へぇ、立派な人だ。
空木ちゃんのおばあちゃんというのを考えたら、確かに使わない気がしてくるけど。
「そもそも、使い方は教えたのかい?」
「教えてませんよ」
「じゃあそれじゃねぇか」
「仕事を辞めた者には干渉しない主義なんです」
「ならあのおばあちゃんが宿に顔出しに戻って来た時教えたとか?」
「いえ。宿を辞めた者の記憶は消しています」
「やり過ぎじゃない?」
「しかし問題はありません。辞めた者の手に『確実に渡る』ようにはしてますし、触れた瞬間脳が使い方を理解出来るようにしたりと……色々仕込んでいます」
「普通に渡して説明した方が早いな」
辞めた相手に会うのが気恥ずかしいんだろう。
面倒くさい人だ。
「で、そのカメラが原因ってのはなに? カメラに世界を作る力でも?」
「本来の使用用途はそれではありませんが……それが可能なだけの魔力は有ります。あの子にとって、従業員としての時間に、思う所があったのでしょう」
「んー……つまり、『もう戻れなくなったお宿を不思議な力で再現した』、ってこと?」
「本人からすれば無意識に、でしょうが」
無意識に、アレほどの場所を作れるなんてねぇ。
「……ん? でもおかしくない? 働いてた時の記憶は消してるんでしょ?」
「ええ。ですが……魂のどこかに、こっそり、こびりついていたのでしょう」
「しつこい汚れみたいだなぁ」
「しかし……曖昧な記憶で生まれたのは、歪な世界」
それが、おまじない関連に繋がるのか。
「かねこりの館を再現する為に、その世界はまず、子供を集めようとした」
「何で子供を?」
「従業員は幼児から十代半ばまでの子供ばかりなんです。女限定ですが、偽りのあの世界には確か男児もいましたね」
「労基はどうなってんだよっ。てか元従業員だっていうおばあちゃんの十代の頃とか、何年前の話?」
「……まぁ、子供を集める手段は、おまじないの内容で察しが付くでしょう」
「スルーかい。まーいいや」
確かに、今思えばおまじないは、子供を集める為のシステムだったのだろう。
男女を出会わせ、夫婦にし、子供を産ませ、捧げる。
何ともまぁ、随分と回りくどい作戦。
遊園地に遊びに来た子供を拐う、みたいなマトモ(?)な手段に出ない所が、一層気持ち悪さを覚える。
おまじない側からすれば、全て『善意』だったのかもしれない。
まるで、人の心を理解出来ないAI。
歪なシステム。
「その事を、おばあちゃんはどこまで?」
「……自身だけが扱えるカメラが原因だとは、冥子自身も気付いていたでしょう。霊能者のような事をしていたのも、解決策を探る為だったのかもしれません」
「んー、でも、『壊せば』終わってたんじゃね? 実際、昨日はカメラ壊して終わったし。あの時、『壊せ』って教えてくれたの、セポネさんでしょ?」
あの世界で、あの時、ポツリと聴こえた声。
今思えば、アレはセポネさんだ。
もっと早く言えよという話だが。




