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209 謎の世界と謎の女の子 10

男が目覚めると、そこは見覚えのない山の中。

近くにある宿泊施設の従業員、着物少女の冥子めいこに起こされ、なんやかんやあって『おもてなし』される流れに。

夜、お祭りを満喫した後は、謎の祠の中にあったインスタントカメラを持ってお散歩。

『仕掛け人』が用意した矢印の道筋に沿って、俺らは進んで行く。



「なんだかこれ、夏の定番の肝試ししてる感じだなぁ」


「肝試し? なんだそりゃ」

「え? やった事無い? 暗い場所とかに行って、見えない幽霊に怯えつつ根性を試す遊びだよ」

「幽霊ねぇ。存在は本だかで知ってるが、見た事はねぇな。ウチのガキどもも別に暗いとこは怖がらねぇし」

「ほんと、冥子さんの話だけでもここの子達がみんなタフなのは伝わって来るよ……」

「あ。幽霊は知らねぇが、たまに『魍魎ちみの類い』が、かねこりの周りを彷徨いてたりするな」

「……魍魎?」

「お袋がそう呼ぶんだよ。本に載ってる『妖怪』のイラストに近い、ヘンテコな見た目の連中だ」

「……そいつらは、どうしてるの?」

「みんなで追っ払ってるよ。というか、『叩き潰して』るかな。頭を潰すと、風船みたいに萎れて面白いぜ?」

「へー」


……流石に冗談だろう。

肝試しの話題だったから、彼女なりのホラー話をしてくれたのだ。

妖怪が出てくる話なんて、可愛らしいじゃないか。

ほっこりした気分になる。


ああ、俺はなんて恵まれているんだろう。

夏の夜に女の子と二人きりでデートだなんて、男の夢だ。

この、静かでのんびりとした田舎の世界。

自分だけいつまでも終わらない夏休みの世界に取り残されたような、そんな感覚。


けれど……『終わり』は近付いている。


確信は無いが、なんとなくそれは分かる。

この矢印の先。

そこで待っているのは、俺が考えているような『答え』ではないだろう。

それでも、陽が昇れば必ず沈むように。

終わりは待ってはくれない。



「おー。こんな場所があったなんてな」


このまま道が終わらずいつまでも歩き続ける、なんて事はなく、辿り着いたのは高台。

矢印の看板はもう見当たらない。


ここが、看板を立てた相手(推定女将さん)が、僕らを導きたかった場所?


気球に乗った時のように、高台では、この世界が一望出来た。

あの時と違うのは、空の色。

眼下に見えるのは、屋台、そして、かねこりの館の灯り。

どこか温かで、寂しい光。


「で、なんだってんだ? こんなん見て楽しいのか?」

「俺は好きだけどね、この夜景。俺の住んでるとこのとは大違いだ」

「そうなのか?」

「街の近くには山があってね。付近には動物園とか遊園地もあるんだけど……高い場所からだと、夜の街を一望出来るんだ。星空みたいにキラキラしててね」

「ふぅん。それなら見てて面白そうだな。今度案内しろよ、お前の住んでるとこ」

「そうだね…………あっ」


小さく息を漏らす俺。

なんだか、自然と思い出せたな。


自分の生まれや街を。


だが、大した驚きも動揺も無い。

忘れた買い物を思い出したくらいの、なんて事ない話。


そして……俺が『ここに居る理由』も。


ヒュー

ドンッッッ!!!


「おおっ!」


夜空に咲くのは大輪の花。

これを見せたいが為に、『仕掛け人』は俺達をここまで誘導したのだ。

ドンドンドンッ!

続けて打ち上がる花火は、連続で花を開かせる。


「見ろよっ。あんなん見た事ないだろっ」

「……こうやって人と見るのは久しぶりかな?」

「んだよー、初めてじゃねーのかよー。私は数年ぶりに、姉貴が客の相手をした時ぶりだってのに」

「そうか……前回も同じように……まぁ、ウチのとこだと花火は夏とか毎日色んなとこ(全国)で上がってたりするけど、何度見ても飽きるものじゃないよ」


特に、誰かと見れば感じ方も全然違ってくる。


「すげーなーお前んとこはー」


憧れの眼差しで見られるが、別に俺は何も凄く無い。

そんな、何者でもない一般人の俺の為だけに、ここまでやってくれるとか……女将さんには頭が上がらない。

会って礼を言いたい所だが、なんとなく、会えない気がする。


……とは言ったものの。


女将さんからすれば、俺は『オマケ』みたいなもの。

今回のもてなし、実の所、メインは冥子さん、だろう。


そう感じた切っ掛け……例えば、目の前で上がる花火。


これは、俺にとっては花火は見慣れてる(というほどでも無いが)ものだ。

当然、それは女将さんも分かってる。

その上で、女将さんが俺に期待した役割は……


目の前の冥子さんに、街(世界の外)の魅力を伝える事だ。


つまり、女将さんの狙いは………………


いや、これらは全て、憶測でしかない。


だが、女将さんの従業員に対する愛情の深さは、今日来たばかりの俺でも理解出来る。

客なんかよりも、女将さんは従業員を優先するのは当然だ。


「どうしたんだ? そんなに感動してるのか?」

「……うん、そうだね……やっぱり、花火はいいね」

「おいおいっ、泣くほどのことかよっ(笑)」


少しずつ、俺は記憶を思い出していた。

いや……無意識に蓋をしていた記憶。

思い出したくなかったんだろう、この世界が美し過ぎて。


俺の仮説が正しければ、この世界は……

そして、冥子さんやその他の従業員、女将さんの存在は……


「……お? 花火終わりか?」

「うん。終わりだね」


途端 シィン と静かになる世界。

いまだ花火の残響が耳の中に残るが、それもいずれ消えるだろう。

寂寥感、の一言。


それは、夏の終わりのないこの世界に、夏の終わりを感じさせた。


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