21夏祭り
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「ぅぅ……は、恥ずかしい姿を店員さんに見られてしまいました……あそこ行きつけなのに……もう行けません……」
「いつまで落ち込んでんだドスケベ妹め」
「す、スケベじゃありませんっ……!」
二時間ほど漫喫を満喫した僕達は、店を出て街をぶらぶら。
時刻は一八時過ぎ。
昨日、カヌレともこの時間街にいたなとふと思い出す。
「まだ帰らなくて平気なん?」
「ま、まだ平気です。家の者は位置情報を私の持つスマホで把握してるでしょうし……」
「過保護だねぇ。まだ平気だってんなら今日僕んち泊まってく?」
「そ、そこまで平気では無いですっ……! い、行きたいのは山々ですが……」
アンドナと対面させたかったのになぁ。
自分と瓜二つのサキュバスを見てどんなリアクションを取ってただろう。
「ふんふーん」
気分が良いのか、何かの曲の鼻歌を口ずさむわらびちゃん。
街のネオンでしっとり輝く夜色の長髪。
周囲には他にも浴衣姿の男女が多く居るのに、皆足を止めて彼女に見惚れている。
本人はその視線に気付かないほどに、鼻歌を漏らすほど僕とのデートに惚けてるようだけど。
「そんなに歌いたきゃ、さっきの漫喫でカラオケすれば良かったのに」
「え? い、いや、それは……ウカノさんの前で歌うのは、恥ずかしいです……」
「恥ずかしい事は進んでやる癖に」
「ぅぅ〜……」
「今度カヌレも呼んで三人で行こっか?」
「ね、姉さんも、ですか……? ……多分、姉さん、カラオケ嫌がると思いますよ……?」
「なんで? 実は凄いオンチとか? 確かに、そういや歌出したり歌うシーンはテレビでも見た事ないね」
「わ、私も、実際聞いた事は無いですから……」
「なら今度無理矢理連れてって無理矢理歌わせるかな」
「き、鬼畜の所業です……!」
そのまま、街の人の流れになんとなく流されてると、いつの間にか大きな公園付近に。
普段から土日など大きなイベントも行われるこの場所では、何やら人が多く蠢いていて。
「ど、どうやら今日ここで夏祭りがあるから、浴衣姿の人が多かったようですね……」
「おー、出店が一杯あるよ。少し見てこっか」
「わ、分かりました。……思えば、浴衣で祭りを回るだなんて、いつ以来でしょう……」
「何食べよっかなー、さっきポテト食べただけでお腹減ったし。おっ、夏のじゃがバターも乙だねぇ」
「ま、また芋……」
焦げたソースや醤油、はたまたアメやカステラの甘い香りが漂う魅力的な空間。
当たらぬと分かっていても、くじ引きや射的をやるのも楽しいかもしれない。
何から手を付けようかと辺りを見渡していて、
「あれー? ウカノくーん?」
「ウカちゃんもお祭り来てたんだ? 浴衣かわいいっ」
おや、制服姿のJKに声を掛けられた。
ナンパかな? と声の主らの顔に意識を向けると、
「なんだ、誰かと思えば、名もなきモブ先輩二人か」
「名前あるよっ」「確かにモブだけどこれでもウチらそれなりにモテるんだからねっ。さっきも道中何度もナンパされてるからっ」
まぁ確かに顔は悪く無い。
描写するつもりはないけど。
「って、隣にいる着物美人……まさかわらび?」
「一瞬、カヌレの奴いつの間に『早着替え』したんだ? なんて思ったよー」
おや?
二人はわらびちゃんを見て言った。
「ご、ご無沙汰してます……」
「わらびちゃん、知り合い? って、そうか。カヌレと双子なら君も僕より年上だったね。お姉さんならもっとしゃんとしろ」
「す、すいませんっ……!」
「一目で二人の関係性がわかるなぁ」「変身と言えばウカちゃん、わらびの奴さぁ、前に罰ゲームで『カヌレと一緒にエッチなコスプレ』を」
「わっ、わっ……!」
ワタワタと慌てるわらびちゃん。
「なにその萌えキャラみたいな動き(笑)『いつもとキャラ違うくね(笑)』」「……あっ。てかこの状況、『不味くない』?」
「不味い?」
訊き返す僕。
ーー不意に。
ゾクリ 背中に寒気。
「ウカノ、君?」