表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

210/369

192 殺し屋と謎の村

それはそれとして、消えた彼女達はというと…………




↑↓


「……は?」


フッ と。


急に、背中を物理的に押していたウカノの手の感触と気配が消えた。

いや、さっさと離れて貰いたかったのは本心だが、思っていた感じと違う。

それに……ここは、お化け屋敷の中だったよな?


いつのまに、私は『村の中』に移動したんだ?


村。


土の地面、古びた家屋、錆びた灰色の空気と自然の香り……


明らかに、ここは外だ。

異様……これだけでもう異様なのに、説明を付け加えると。

そこは日本風の家が建つ村ではなく、昔の海外の田舎を再現したような、ログハウスの数々がある村。

お化け屋敷の扉の先には、こんな映画撮影用っぽいセットがあったのか?

この村の中で、本格的なホラー体験を楽しめと?


……ホラー。


そういう意味なら、ここはおあつらえ向きだ。

どんよりした曇り空は気分を下げるし、生温かい風はまるで吐息のよう。

生き物の気配は感じないのに、やたら視線は感じる。


ここは……何かおかしい。


オカルトを馬鹿にしてた私でも、やべー場所だと本能が告げる。

肌がピリピリと粟立つ。

殺しの現場でさえ、ここまでゾワゾワした気持ちにはならない。


「な、何ここ……?」


……どうやら、私一人ではなかったようだ。

遊園地のゲートにいた女。

美兎、だったか? そいつも、現状に混乱していた。


「え? 明るい? 外は夜だった筈なのに……」


ああ……そういやそうだ。

薄暗くはあるが、それは曇り空なだけ。

改めて上を見る。


……空を模した天井の塗装……じゃあない、よな。


ハリウッド並の技術があれば可能、なのか? 手先の器用な従業員の仕事か?

それとも、曇天の映像でも天井に流してる?

天井全体が巨大なディスプレイとか、プロジェクトマッピングだとか、そういうやつか?

……分からんから、今は考えるのはよそう。

今は、何が出て来ても対応出来るよう、集中を切らすな。


「ね、ねぇ……貴方、幽霊を祓える人、でいいのよね?」

「……あ? 私に何かを期待してんのか? なら、悪いが『こっちは』素人だ。素直にウカノが来るのを待った方がいい」

「そ、そう……」


失望させたろうが、知らん。

さっきの綿菓子レベルの幽霊ならまだ守ってやれるが、それ以上の化け物だと自分テメェ以外の安全の保証は出来ない。


「話は聞いてたかもしれないけど……私の目的は、この遊園地で消えた子と話して、出来れば救う事なの。さっき出て来た幽霊の少女がその子よ。だから、出来れば、今ここに現れてもすぐに祓わないで欲しい……そういう意味で言ったの」

「……そうか」


簡単に言ってくれる。


「そのガキが無害なら意向は汲んでやれるが、私はそんな加減出来るほど強くねぇ。襲い掛かって来たら、問答無用で抵抗する。それでいいな?」


肯く美兎。

話はまとまった。


…………さて。


今の所、村の中は静かなものだ。

このままウチらも静かに過ごしてた方が賢明だが……ちゃんと来るよな? ウカノ。

希望的観測に頼るのは情け無い限りだが。


「ね、ねぇ、【あれ】……」


ふと。

美兎が指差す先。

十メートルほど先。

その指先は震えている。


地面に、何か突き刺さってた。


『さっきの綿菓子幽霊』に、何本も、棒状の凶器が突き刺さっていた。


「……ここで待ってろ」


数秒、離れた場所からあの幽霊の様子を見たが、ピクリとも動かないのを確認し、ゆっくり近付く。

死んだフリ、の可能性も警戒。

油断して近付いた所を……という可能性。

元々死んでる奴に、死んだフリもなにも無いが。


「……ぅ」


幽霊の側まで来た私は、反射的に吐き気を覚える。

幽霊は、やはりヤられていた。

全身、滅多刺し。

子供向け絵本みてぇな見た目のキャラが、子供には見せられないショッキングな有様に。

凶器は……


竹馬、けん玉、ホッピング


それらは、子供の玩具の数々。

まるで、遊んだまま放置したようなその光景。

無邪気で残酷な子供が、虫で遊んだ後のような光景。


素人の私でも、一眼で解る。

これはもう、動かない。


ヒトの死体なんて山ほど見て来たし、もっと凄惨でグロいのだってあった。

しかし、この亡骸は血が一滴も出ず原型を留めているのに、今までで一番クるものがある。

ジトリと背中を濡らす寒気。


異常だ。

幽霊が、恐怖に満ちた顔で殺されているという、異常。

得物も、こんな洋風な場所には合わない日本の玩具なのも、気持ちが悪い。


サララ……

不意に、どこからか生暖かい風が吹き、幽霊の亡骸が、砂の様に崩れて消えていく。

その一度だけ吹いた風で、後には散らかった玩具だけが残った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ