192 殺し屋と謎の村
それはそれとして、消えた彼女達はというと…………
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「……は?」
フッ と。
急に、背中を物理的に押していたウカノの手の感触と気配が消えた。
いや、さっさと離れて貰いたかったのは本心だが、思っていた感じと違う。
それに……ここは、お化け屋敷の中だったよな?
いつのまに、私は『村の中』に移動したんだ?
村。
土の地面、古びた家屋、錆びた灰色の空気と自然の香り……
明らかに、ここは外だ。
異様……これだけでもう異様なのに、説明を付け加えると。
そこは日本風の家が建つ村ではなく、昔の海外の田舎を再現したような、ログハウスの数々がある村。
お化け屋敷の扉の先には、こんな映画撮影用っぽいセットがあったのか?
この村の中で、本格的なホラー体験を楽しめと?
……ホラー。
そういう意味なら、ここはおあつらえ向きだ。
どんよりした曇り空は気分を下げるし、生温かい風はまるで吐息のよう。
生き物の気配は感じないのに、やたら視線は感じる。
ここは……何かおかしい。
オカルトを馬鹿にしてた私でも、やべー場所だと本能が告げる。
肌がピリピリと粟立つ。
殺しの現場でさえ、ここまでゾワゾワした気持ちにはならない。
「な、何ここ……?」
……どうやら、私一人ではなかったようだ。
遊園地のゲートにいた女。
美兎、だったか? そいつも、現状に混乱していた。
「え? 明るい? 外は夜だった筈なのに……」
ああ……そういやそうだ。
薄暗くはあるが、それは曇り空なだけ。
改めて上を見る。
……空を模した天井の塗装……じゃあない、よな。
ハリウッド並の技術があれば可能、なのか? 手先の器用な従業員の仕事か?
それとも、曇天の映像でも天井に流してる?
天井全体が巨大なディスプレイとか、プロジェクトマッピングだとか、そういうやつか?
……分からんから、今は考えるのはよそう。
今は、何が出て来ても対応出来るよう、集中を切らすな。
「ね、ねぇ……貴方、幽霊を祓える人、でいいのよね?」
「……あ? 私に何かを期待してんのか? なら、悪いが『こっちは』素人だ。素直にウカノが来るのを待った方がいい」
「そ、そう……」
失望させたろうが、知らん。
さっきの綿菓子レベルの幽霊ならまだ守ってやれるが、それ以上の化け物だと自分以外の安全の保証は出来ない。
「話は聞いてたかもしれないけど……私の目的は、この遊園地で消えた子と話して、出来れば救う事なの。さっき出て来た幽霊の少女がその子よ。だから、出来れば、今ここに現れてもすぐに祓わないで欲しい……そういう意味で言ったの」
「……そうか」
簡単に言ってくれる。
「そのガキが無害なら意向は汲んでやれるが、私はそんな加減出来るほど強くねぇ。襲い掛かって来たら、問答無用で抵抗する。それでいいな?」
肯く美兎。
話はまとまった。
…………さて。
今の所、村の中は静かなものだ。
このままウチらも静かに過ごしてた方が賢明だが……ちゃんと来るよな? ウカノ。
希望的観測に頼るのは情け無い限りだが。
「ね、ねぇ、【あれ】……」
ふと。
美兎が指差す先。
十メートルほど先。
その指先は震えている。
地面に、何か突き刺さってた。
『さっきの綿菓子幽霊』に、何本も、棒状の凶器が突き刺さっていた。
「……ここで待ってろ」
数秒、離れた場所からあの幽霊の様子を見たが、ピクリとも動かないのを確認し、ゆっくり近付く。
死んだフリ、の可能性も警戒。
油断して近付いた所を……という可能性。
元々死んでる奴に、死んだフリもなにも無いが。
「……ぅ」
幽霊の側まで来た私は、反射的に吐き気を覚える。
幽霊は、やはりヤられていた。
全身、滅多刺し。
子供向け絵本みてぇな見た目のキャラが、子供には見せられないショッキングな有様に。
凶器は……
竹馬、けん玉、ホッピング
それらは、子供の玩具の数々。
まるで、遊んだまま放置したようなその光景。
無邪気で残酷な子供が、虫で遊んだ後のような光景。
素人の私でも、一眼で解る。
これはもう、動かない。
ヒトの死体なんて山ほど見て来たし、もっと凄惨でグロいのだってあった。
しかし、この亡骸は血が一滴も出ず原型を留めているのに、今までで一番クるものがある。
ジトリと背中を濡らす寒気。
異常だ。
幽霊が、恐怖に満ちた顔で殺されているという、異常。
得物も、こんな洋風な場所には合わない日本の玩具なのも、気持ちが悪い。
サララ……
不意に、どこからか生暖かい風が吹き、幽霊の亡骸が、砂の様に崩れて消えていく。
その一度だけ吹いた風で、後には散らかった玩具だけが残った。




