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184 殺し屋と気遣い

とある場所へと向かうバスの中。

わらびがウカノに『その場所』へと向かう理由を訊くと、話は昨日の『動物園編』まで遡って…………



「でね。昨日もこのバスに乗って動物園に向かってたんだ。そん時にさぁ、一人の困ってる女の子を見つけてね」


「…………はぁ」

「怒った?」

「は? 何にです?」

「『私以外の女に粉かけて』って」

「私がそんな可愛らしい女に見えます?」

「ふふ……まぁ、困ってる女の子が居たわけよ」

「なんで笑ったんですか」


「場所的には、僕の逆側の窓側の席だったかな。困ってるってのは、彼女が何かに怯えてた感じだったんだ。だからよく見ると……居たんだよ。彼女の隣に、髪の長い女性が」

「はぁ。それは生者ですか?」

「んー……その辺の定義は僕にはよくわからんね。その女性はさ、彼女の耳元で囁くんだよ。


『チガウ チガウ ナンデ ナンデ』


って」

「生者ならば相当な変質者ですね」

「周りにもチラホラ客はいたけど、誰も反応してる感じは無かった」

「生者ならば関わりになりたくはありませんからね」


「次に女性は『カエセ カエセ カエセ』って囁き出した。チガウ と カエセ を交互に繰り返してたよ。言われてる女の子は相当に怯えてたね」

「まぁ怖いでしょうね。なぜ自分なのか? と」

「だからイケメンな僕は助け舟を出したんだ。運転中だったけど席を立ち、迷惑女性のとこまで行って、女性の肩を掴んだ」

「掴めたんですね」

「すると ゆらり 女性は僕に振り返る。その顔に、僕はハッと息をのんだ」

「何故語り部口調に」


「その目には眼球が無く、虚ろな眼孔からはウゾウゾとムカデが這い出て……指には爪は無く、手は地面を掘り返したように土がこびりついていて……そして何故か、口の周りも泥だらけで……」

「なんというか、分かりやすいですね、造形が」

「痛々しかった…………それはそれとして僕は女性に説教した」

「はぁ」


「『その子困ってるでしょ。チガウとかナンデってなんですか? 主語を言いなさい主語を。ナンデナンデナンデナンデナンデそんなに人を困らせるんですか。ナンデナンデナンデ』」


「貴方の方がよっぽど怖いんですが」

「そんな風に同じ事してやって気持ちを理解わからせたんだよ。そしたらその女性は僕から逃れようとモゾモゾし出した。けど僕が肩に置いてる手からは離れられないようでね。そんなに強く掴んでるつもりはなかったけど、非力だったんだね」

「貴方に掴まれた時点で詰んでますよ」


「すると ボコッ と、何かが崩れる感触が手に伝わって来た。まるで、軽く触れただけなのに凹んじゃうスフレとかシフォンケーキのように。見れば、女性の方はボコリと『抉れて』いた。僕の手の中には、抉れた彼女の肩パーツが」

「まぁそうなるでしょうね」


「『お、俺は何もやってねーよ!』と訴えるが時すでにお寿司。アアアアアと女性は断末魔を上げ、抉れた肩の部分からサラサラ崩壊していく。そして、恨みがましい顔を僕に向けながら空気中に霧散していった……」

「貴方と同じバスに乗ったのが運の尽きですね」


「ぼ、僕は人を殺めてしまった……彼女は色んな意味で繊細な体質の人だったのだろう」

「まだ人と見ますか。普通に悪霊ですよそれ」

「まぁこの世は弱肉強食なので僕との戦いに彼女は負けただけの話なのだ」

「いいんじゃないですかその考えで」


「しかし……彼女は一体なんだったのか……いまだに分かりません」

「よく見る雑なホラーの締め方ですね」


「コレは後日談…………女性が消えた後、僕は存在を忘れていた女の子の方を見た。女性に付き纏われていた子だ」

「数分後の話を後日談というのはどうなんですかね」

「彼女は魚のように口をパクパクさせ、呆然としていた」

「普通であれば救世主ですが、彼女の場合は一難去ってまた一難ですね。いや百難ですか」


「僕は言ったよ。『災難だったねお嬢さん。けれどあの女性はもう嫌がらせ出来ないと思うぜ?』すると女の子は答える。『ほ……本当? 私、動けなくなって……てか、アンタ一体……』」

「別人の女声上手すぎません?」

「『名乗るほどのもんだけど、これ以上僕と縁を深めない方がいいぜ。日常に戻りな』……ふっ」

「ドヤ顔を向けられても。まぁ貴方のその判断は彼女にとって良いと思いますよ、本当に」


「バスの運転手さん『車内ではお静かにお願いします』僕『ああん? 見せもんじゃねぇぞ! おっ、丁度目的地に着いたな! 僕は降りるぜっ』」

「騒がしい客ですね。周りには一人で騒ぐ変人に見えた事でしょう」

「しかし……女性に付き纏われていた彼女はなんだったのか……今でも分かりません」

「雑なホラーの締め方好きですね」


…………ノンストップで話していたがここでフゥと一呼吸。


「その後、僕がバスを降りると同時に、彼女もバスを降りた。格好良く締めた僕からしたら締まりが悪いんで特にその子には絡まずカヌレのいる動物園へと向かった。彼女からの視線は背中に感じてたけど……結局、アレ、彼女は何だったのかね」

「さぁ。ですが、その少女が陥っていた状況は何となく把握出来ます」

「どーゆー状況だったん?」


「恐らく、その少女は悪霊に体の自由を奪われ操られていたのでしょう。そしてバスに乗らされ、どこかへと導かれていた。その先でどんな目に遭わされる予定だったかは想像に難くありません。悪霊の常套手段ですよ」

「そーなん? あの女性が悪霊だったとしても、あの時乗ったバスに取り憑いてたってパターンは無い?」

「ありますよ。だから憶測です。人が一人一人違うように、悪霊も千差万別。ですが、全てに共通している部分は『引き摺り込もうとする』、です」


「迷惑な話だねぇ。引き摺り込んだ先が楽しい場所なら大歓迎だけれど。いや、もしかしてあの女性霊は、バスの終点でもある『今から向かう先』に引き摺り込もうと?」

「あり得るんじゃあないですか。『あそこ』はいわく付きですので。寧ろ、今向かってる理由もさっきの話が関わっていたのでは? その為に話したんでしょう?」

「だったかな……不明だ……なんで僕は『あそこ』に向かおうとしている……? まさか、これも悪霊の誘導……?」

「いや、貴方の場合、ただの気紛れですよ」

「人を計画性の無いテキトー男みたいに言いやがって。しっかし、操って誘導かぁ。君らサキュバスと同じだね」

「無理に関連付けようとしないで下さい」



…………サキュバス?


いや……またウカノのバカ話の一つだろう。

わらびが、ウカノの話に合わせてやってる感じだ。

どういう間柄なのかは知らんが、あのわらびに気を遣わせるだなんて、やはりウカノはタダモンじゃない(褒めてるわけじゃなく)。

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