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19ソフトクリーム

「芸能界といえば、さっきは人に囲まれて大変だったねー。でも、姉が突然謎の引退を宣言した後だ、安全考えたら迎えでも呼べば良かったんじゃ?」

「えっと……ふ、普段から、迎えの車で登下校をしてたんです……けれど、今日は送迎の人が急遽来られなくなって……」

「電車やらバスやらを使おうとした、と。それが思った以上の騒ぎになったんだねぇ」

「は、はい……甘く見ていました……、……そういえば、あの時の虫や動物さん達は……?」

「ああ、あの子達? 多分僕が離れたらすぐに解散したんじゃないかな」

「そ、そうですか。ウカノさんには、お知り合いの動物さんが多いのですね……」

「いや? 初対面だと思うよ? なんてーか、昔から僕、動物に好かれてる、から?」


僕自身も曖昧な答えしか返せない。

昔から、僕が怒れば『皆』が加勢に来てくれた。

『そういうもの』として育って来た。


「な、なるほど……、……何というか、あの動物さん達からは『個』ではなく『全』を感じました。まるで、『地球の意思』のような……」

「わらびちゃんはポエミーだねぇ」

「ッ! す、すいませんっ、気持ち悪い事を言って……」

「いーよいーよ」


言いつつ、僕は手を伸ばして彼女の背中をポンポンと叩く。

良い肌触りだ。

布越しの女の人肌の素晴らしさは名状し難いね。


「ま、それはそれとして、だ」


僕は仕切り直して、


「話を戻すけど、登下校限らず、君はさっきのように、暫く不快な思いをしそうだなぁ。ーーあ、そうだ」

「え?」

「君もこっちに転校して来なよ」

「え?」


(頭をズラして乳という遮蔽物の先にあった)そのぽかんとした顔は、昨日のカヌレとそっくりだ。


「君もこっちに転校して来なよ」

「き、聞こえていますっ……! な、何故転校を……?」

「そりゃあ、君を目の届く距離に置いときたいからだよ。変な輩からちょっかい掛けられないようにね」


ーーすると、わらびちゃんは顔を伏せ、子犬のように体を僅かに震わせた。

その振動が、膝枕越しの僕にまで伝わる。


「……どうして、そんなに目を掛けてくれるんですか? 私が、カヌレの妹だから、ですか?」

「ふむ」


カヌレにも似た様なこと訊かれたな。

いや、アンドナだっけ?

そもそも訊かれたっけ?

まぁいいや。

どっちにしろ答えは同じ。


「一目惚れだよ」


「…………ええ!?」

「君の豊満な躰に」

「ええ!?」

「よく驚く子だねぇ」

「うぅ……嬉しくないわけでは無いですけれど……複雑です」


贅沢な不満を漏らすわらびちゃん。


「何が複雑なもんか、最大級の賛辞さ。それは君の生まれ持った才能だよ」

「才能……?」

「いいかい? 人は見た目で無く中身だとか言うけれど、綺麗事でもそれは間違いじゃあ無いけれど、なによりも大切なのは『見た目の第一印象』さ」

「そ、そうですけれど……」

「『顔が良いから』、『良い躰をしてるから』って理由でパートナーを選んだと言ったら、何故か一般人は揶揄する風潮がある。意味が解らないね。どうも奴らは『事実』から目を背けたいらしい。『嫉妬』とも言える」

「ま、まぁ、ヒトは暴力的なまでの正論を嫌いますからね……」

「野生を見てみなよ。君は虫や動物達の求愛行動を知ってるかい?」

「え? えっと……クジャクさんが綺麗な羽を広げたりするアレですか……?」

「そ」


僕は寝転がりながらPCのマウスを握り、


「アレには威嚇の意図もあるけどね。他にも、同じ名を持ち綺麗な体毛を雌に見せてアピールするクジャクグモや、虹色の羽を持ち空を踊るように飛んでメスに求愛するライラックニシブッポウソウ。求愛とは少し違うけど、魚? だとタツノオトシゴは繁殖期に肌の色を美しい白から黄色へ(婚姻色という色に)変化を果たしアピールを受け入れた雌と三日間もダンスを踊る(その後色々あって出産は雄がやる)」


PCを操作しつつ長々と説明してやると、わらびちゃんは「は、はぇー」と感心していた。


「ま、僕が何を言いたいかと言うとね、彼らは『全力で生き全力で繋ごうとしている』、という事だ」


そこには建前も羞恥心も無い。

子孫を遺す為に文字通り必死に異性にアピールする。

それら全てが本能。

強ければ、美しければ……それだけで、特性を受け継いだ次世代も子孫を残すのに有利になれる。


「そんな全力な彼らを、僕は尊敬し、リスペクトしてるよ」

「は、はぁ……改めて考えると、生き物は凄いですね……」

「そんなわけで、僕も堂々と誤魔化さず伝えよう」


僕はキッと鋭く細めた瞳で彼女を見つめる。

「はうっ」と顔を赤らめるわらびちゃん。


「君がカヌレの妹だとか、『過去』現在未来何があるとかあったとか、関係無い。僕は君の容姿や躰に一目惚れしたんだよ」


僕の素直な告白。

しかしわらびちゃんは小さく唇を尖らせ、


「……『貴方にとっては』今日会ったばかりの女、ですよね? じ、自分で言うのもアレですが、綺麗で、む、胸の大きな女性なら皆に言ってません?」

「捻くれてるなぁ」


まぁそんな部分も嫌いじゃない。


「安心して。不思議な事に、今まで色々なムチムチべっぴんさんを見て来たけど、こんな気持ちになったのは君とカヌレ(と不法侵入サキュバス)くらいさ。逆に僕が理由を知りたいよ」


とは言っても、太ももと胸は大小問わず女の子のはみんな好きですけども。


「ま、一目惚れってのは容姿以外で起こり得る可能性も無くはないよ。人を助けたり、頭が良かったり……そんな現場を目撃して『中身を評価する』一目惚れもアリだ。優秀な遺伝子を持ってる事には変わりないからね」

「い、遺伝子っ……」

「なに照れてんだよ。黒髪眼鏡地味っ子はムッツリスケベって相場が決まってんのに」

「へ、偏見です……!」


ムニっと軽く、僕のホッペをつまむわらびちゃん。

そういう仕返しはしないタイプだと思ってたけど、僕の思い込みだったか。

ふと、『アンドナを彷彿』とさせた。

何はともあれ、随分と緊張がほぐれたようだ。


「ひひはいほほはまーあう(訊きたい事はまだある?)」

「い、いえ……もう、大丈夫です」

「そ。ならソフトクリーム食べさせてー、あーん」

「えっ? あ、はいっ(ソォー)」

「あむっ。んー、もう殆ど溶けかけー。てか、この膝枕の体勢だと食べづらいんですけど?」

「ご、ごめんなさい……?」

「全く(ムクッ)(ムニュン!)グヘッ! こらっ、起き上がろうとしたら下乳に妨害されてまた膝枕ぞっ」

「ぅぅ……理不尽です……」

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