172 妹と僕とまだ見ぬ謎の少女
なんだか学園に来るのも久し振りな気分。
学園祭が終わって一日休みがあっただけなのにね。
今はお昼休み。
お昼の放送で、生徒会長カヌレの赤裸々な内容が流れたが、それをおかずに米が進む進む。
「うーん、良い放送だった」
「ウカ」
「おや? 愛しの妹者じゃないか。僕の城(屋上)へようこそ」
「学園の設備を私物化すな」
「今更過ぎるなぁ。中庭時代とやってる事は変わらんし」
「この神社(学園祭の時の名残)みたいなのもどうするつもり」
「僕がいない時は一般開放してやってるぜ? 飽きたら片付け(させ)るよ」
「早く片付けて。放っとくと変に『格が付いちゃう』から」
「なにそれ。神様でも降りちゃう?」
「人以外にも変なのが寄り付くようになる。学園を護る為」
「サラッと人外の存在を示唆したな。お、そうだ。カヌレ(と多分わらびちゃんも)、サキュバスだったんだぜ?」
「知ってる」
「情報通だなぁ。あっ、(今日の庭担当の)フルーツバットちゃーん。適当にフルーツ持って来てー」
「グァッ」
ライチむきむき パクッ
「(もぐもぐ)彼女の実家にあったアルバムには昔の姉妹と昔の僕らが写ってたんだ。覚えてる?」
「ウカと違って記憶が良いから」
「僕の記憶力は君が持ってったんだなぁ。まぁ、それが判明してどうだという話じゃあないけど」
「そう」
ランサ(見た目はジャガイモな南国系フルーツで中には葛餅のような果実)むきむき パクッ
「(もぐもぐ)ここ最近は日常に変化が多くてね。忙しくて君との時間も減ってる気がするよ」
「別にいい」
「嘘つけー。他の奴らには君の顔の変化はわからんだろうが、僕にはむすっとしてるのが分かるよ。ほら、(座ってる)僕の脚の間に来んしゃい。誰も来ないよ」
「む……(ストン)」
「素直だねー。後ろからハグハグー」
ジャボチカバ(蜜に集まる虫みたいにブツブツブツと密集して木に生える巨峰のような見た目の木の実で味はこれまたライチ系)パクパク
「あーん」
「兄をアゴで使う強欲な妹よ。あーん」
「(モグモグ)私も今期で辞める」
「生徒会?」
「(コクリ)」
「そっかー。カヌレ含む美少女が名物だった生徒会も壊滅だねー。カアイソカアイソ。部活でも始めるのかい?」
「何もしない」
「兄と一緒でだらしない妹よ。生徒会役員のブランドが消えたら君なんてただのダウナーっ娘だぜ」
「どーでもいい」
「せやね」
ふぅ……
あ、そういえば、いまだ、朝の占いであった出逢いがなんたらかんたらは無いな。
これからかな?
僕の放課後の予定は確か……ああ、『あそこ』に行かなきゃだ。
「うーん。一応、電話で『あの子』との放課後の約束、取り付けよっかな」
「どうせ今の時期は忙しい」
「誰にって言ってないのに。しかし妹よ、今の時期ってのはどういう意味だい?」
「夏はお盆だったり肝試しだったりで『活発』、トラブルが多い」
「ふぅん。人手不足って事かぁ」
それを解消出来れば、会える時間も増えそうだ。
2
放課後。
↑↓
「落としたよ」
「え?」
振り返る。
そこには、嘘みたいに綺麗な奴が立っていた。
綺麗……というより、神秘的で、透明感があって。
まるで、木漏れ日が射す森に迷ったような感じ。
「ポケットから落ちたメモ、君のだろ?」
「え……あ、ああ。悪いな」
クスリ
奴は小さく微笑んだ。
ヒヤリ……背中に走る悪寒。
なんというか、綺麗を通り越して、恐ろしい。
不吉の塊。
これが……同じ人間か?
まるで宇宙人と向かい合ってるよう。
「じゃーね。わー、知らないJKと話しちゃったよ」
ヒラヒラと手を振り、去って行く宇宙人。
……善人に対して、私から離れてくれた事に安堵するのは失礼なのかもしれないが。
出来ればもう関わりたくない。
私が、ああもあっさり背後を取られるなんて。
ブルルッ
ポケットの中で揺れるスマホ。
チッ……
私は心の中で舌打ちしながら通話をタップ。
『そろそろ仕事の時間ダ。〇〇事務所で指定したデータを取得。パスワードはメモのトオリ』
「るせぇな、今向かってたんだよ」
『健闘をイノル』
電話先のボイチェン音声に返事する事なく通話を切る。
気分が沈む。
いつまでも慣れる気がしない。
辿り着いたそこは、普通の雑居ビル。
件の事務所は五階にあるらしい。
パーカーをかぶって顔を隠し、エレベーターのスイッチを押す。
ウイーン……
昇るエレベーター。
夕方のこの時間、ひと気は少ない。
チーン
途中誰かが乗り込むことも無く、目的の階で止まるエレベーター。
向かってる先は、カタギとはほど遠い奴らの事務所。
出来れば『穏便に』済ませたい所だ。
私が言うセリフじゃ無いが。
事務所に入ってから、やる事も簡単だ。
メモ指定の場所にあるPCのとこに行って、メモ通りデータをUSBメモリに移す。
中身を何に使うかは私の知るところではない。
事務所の扉の前まで来る。
ふと。
鼻先を掠める生臭い香り。
嫌な匂いだ。
好きな者も居ないだろう。
こびりつくような、鉄くさい香り。
出処は分かっている。
ガチャ
ノブを回す。
扉の奥は静かなものだ。
キイ
と、扉を開く。
隙間から漏れる、例の不快な香り。
それが、むっと強くなった。
赤 赤 赤
部屋の中は、ペンキをぶちまけたような赤い光景。
色の発生源は、そこいらに倒れてる男達。
死屍累々 という言葉が当て嵌まる。
こんな仕事をしてると見慣れた光景ではあるが、慣れたいものじゃない。




