162 会長とみにくいアヒルの子 ※R15
カヌレがお泊まりする事になったので、一緒にお風呂に入る事に。
世話焼きな僕は彼女の脱衣までやってあげる。
しかし、下は自分で脱ぎたいと変な拘りを見せる彼女で……
カチャカチャ スル……スル……
焦らすように、僕の前でデニムパンツを下ろすカヌレ。
徐々に見えて来るパンツの柄は、ブラと同じようなメイド服っぽいフリフリ。
パンツが見え、それから白い太ももが露わになる。
彼女のイメージカラーが黒だからこそ、この白さは余計に映える。
ストン……
脱ぎ終わったデニムパンツを地面に置くカヌレ。
顔も肌も真っ赤だ。
「ふぅむ、今更ながら、可愛い系の下着着けるんだね、君。大人っぽ、いや、エロいの着けそうなイメージなのに」
「言い直さないでいいから……」
「でも今のカッコ、考えたら水着と変わらなくね? そこまで恥ずかしいもんかい?」
「男の君には一生分からないよ……」
「こうやってメイドのヘッドドレス着ければ(カポッ)ほら、思った通り、水着メイドっぽい」
「なんでこんなのあるの……」
「さっ、下着姿も余は満足じゃ。さっさと全裸になれぃ」
「クッ……こ、このっ、次は君の番だっ」
ズイッ!
カヌレは距離を詰めて来て、僕のクソダサ白熊Tシャツに手を掛け、一気に取り払った。
無抵抗な僕。
「僕の脱衣シーンとかどこに需要があるんだ」
「私にはあるから…………あっ」
すん すんすんっ
裸体(短パン一丁)の僕に鼻を近づけるカヌレ。
「まぁた嗅ぎ始めて」
「ここは……余計な匂いがしない……君だけの香り……」
「でも汗くさいでしょ」
「君由来のなら……汚くないしクさくない……花の濃い香りみたいで……(フーフー)」
「おいおい、そのまま唇がくっつきそうなくらい近いぜ?」
「……(チロリ)」
「うひゃっ」
彼女の舌先が、ヌルッと、僕の首辺りを撫でる。
ゾゾッと、舐められた部分が粟立つ感覚。
むず痒さと快感の狭間。
全身を舐められた暁には骨抜きにされてしまうだろう。
『あの子』と同じ、生まれ持っての性質。
サキュバスという種族の技。
僕の肌を味見した彼女は……ぺろりと恍惚の顔を見せた。
輝いていた瞳の色が、逆に、血のように、深く濃くなってゆく。
「アカ舐めか君は。せめてお風呂上がりにしてっ」
「洗い流すのは勿体無い……凄く濃厚なのに……」
「それでもおあずけっ。どこまでしゃぶるつもりだ?」
「……逆に、どこがだめ?」
「こいつ……◯ん◯んまで躊躇なく舐めそうな勢いだ……! このっ」
それなりに強い力で何とか僕の体から離し、ペチンッと両ほほを同時に叩くと、ハッと、彼女が正気を取り戻したように目の色を戻す。
「ほら、僕はお風呂に行くからさっさと脱いで来いよ」
「ぅぅ……」
下着メイドを全脱ぎさせるのは今度の機会だ。
ちゃぽん……
「ふぅ。いやぁ疲れた疲れた」
目まぐるしい一日を振り返る。
朝はアンドナとモーニング、昼過ぎからはわらびちゃんと生放送、その後はカヌレと動物園。
しかし、一番の衝撃は『現在進行形』、かな。
充実した休日、ではあるけれど、持ちターンを使い過ぎだ。
明日は学校休んでターン回復に専念しようかな。
「プープー」
プープー
湯船に浮かべていた黒いアヒルのおもちゃを指で凹ますと、そんな間抜けな音が鳴った。
今日動物園でこっそり買ったやつだ。
醜いアヒルの子を模した黒いフォルム。
なんでそんなのを売店に置いてたのかは知らないが、深い意味は無いだろう、赤とか青のもいたし。
しかし僕は、この黒いのを見てビビッときた。
醜いアヒルの子。
他の兄弟と違った姿な為に色々苦労して育った黒いアヒルの子が、実は美しい白鳥だったと知る……
そんなオチで有名な童話。
おさまりの良い話ではあるが、怖い話でもある。
美醜という指標は、他人からの評価で決まる。
もしも、アヒルの兄弟らが白鳥らを見て醜いと言っていたら、黒いアヒルの子もそういう価値観で育ち、自身を白鳥と知った後でも救われなかったろう。
これが、人間社会だったら?
もし、整った顔が不細工という価値観の世界だったら?
前に読んだ漫画で、そういった価値観の星が出たのを思い出す。
作中一の美少女ヒロインがブサイク扱いされてたっけ。
アレはギャグ漫画だったから良かったものの、現実の世界が急にそんなのに変わったら……考えるだけで恐ろしい。
イケメンだと思っているが故に堂々とした態度が取れている僕。
そんな基盤があるからこそ物怖じせず『ヒロインズ』に積極的に絡んでいける僕。
自信……それは僕の九割を占める物質だ。
それが一切無いパラレルワールドの僕は、きっと気弱な少年のまま育つのだろう。
彼女など夢のまた夢。
独り身な僕。
なんと恐ろしい世界か。
まぁ、容姿とモテるモテないが必ずしも比例しないのは分かってる。
とある部族では子供を沢山産めるぽっちゃり女性がモテるし、イケメンで無くとも頼りがいさえあれば幸せな家庭は築ける。
全ては本人の心持ちと行動次第。
ブサイクだから、モテないから自信を無くし何もしない……そんな僕の考えは、甘えでしかない。
この醜いアヒルは僕だ。
これを眺めていると、僕のそんな弱い心が浮き彫りになる。
弱くて、醜い心を写す鏡。
だからといって、目を背けてはならないのだ。
…… …… ……ふむ。
無計画に黒いアヒルから色々話を広げたけど、いい着地点かな。
弱い僕? そんなの存在しないが? 無敵だが?
ガララ……
と。
風呂の扉の開く音。




