155 会長と一年前 3
モテモテなカヌレには、しかし心に決めた相手がいるようだった。
相手は、来年入学してくるであろう後輩君らしい。
その子にカッコイイ姿を見せたいが為に、生徒会選挙に出るというカヌレ。
結果…………
彼女は一年生ながら生徒会選挙でぶっちぎりの勝利。
芸能界の仕事をしながら、会長の仕事も立派につとめる。
そうして一年が経ち……翌年……つまりは今年の入学式。
予定通りであれば、例の後輩君もこの場に来ているはずだ。
そーいえば、周りが『凄い新入生が来てる』なんて噂をしていた。
何が凄いかまでは耳にしてないが、もしかしたらその子が件の……かもしれない。
「在校生代表挨拶。夢先カヌレさん」
「はい」
今年は生徒会長として、彼女がスピーチする番だ。
そして今年も、ステージへと向かう彼女は周囲を魅了する。
たまったものじゃないよね。
去年ですらそうだったのに、新入生は更に一年成長した彼女の姿を見るんだから。
また告白される日々を送る羽目になるから大変だなぁ……と他人事。
ステージに上がった彼女は、全体を見渡すように顔を動かす。
一見、周囲に目を配っているという演出に見えるが、多分、アレは誰かを探してる動きだ。
誰か? 決まってる、例の彼君。
そうか、考えれば今年から彼氏というガードがあるから、ナンパの心配は無くなるのか。
「……ッ!」
キィー ン
黒板を引っ掻いたような音。
マイクのハウリング。
スピーカーとマイクが近かったり、使用してるマイクの数が多かったり、音量が高かったり……様々な原因で起きる現象、だった気がするが、いつもその辺に気を遣ってる彼女が見落とすなんて珍しい。
余程、他の事で頭が一杯だったか?
「失礼。では……」
話し始める彼女。
いつもの堂々とした語り口。
皆、彼女の言葉を聞き入ってる。
だが、私の興味は別の所。
先程、ハウリングの直前、カヌレが『何かを見つけた』位置。
視線の位置は、手前。
つまりは、前の方にいる新入生ゾーン。
そこに、彼女を動揺させた存在がいる……!
………………
…………
……
違和感の正体に、やっと気付けた。
違和感とは、彼女に向けられる熱い視線。
それが、少な過ぎた。
去年より、ますます魅力が増したというのに。
いや、彼女に落ち度は無い。
現に、私から見て『左側』の新入生ゾーンは、今も生徒会長様に釘付けだ。
新入生は左右のゾーンに分かれ、真ん中には人が通るスペースがあるのだが……そう。
問題は、私から見て、右側の新入生ゾーン。
なぜ、そっちには気付かなかったんだろう。
アレだけ目立っているのに。
それは、防衛本能だったのかもしれない。
理解出来ないものを、脳が、意識する事すら拒んだ。
簡単な話。
生徒会長様へ向ける周りの意識が少ないのは、単純に、同等かそれ以上の『ナニか』の存在が原因という話。
……二人、隣同士で座っていた。
分かりやすい特徴を挙げるなら、どちらも、綺麗な銀髪。
長いのと、短いのと。
後ろ姿だけで、普通じゃないと理解る。
普通なら、外人を連想するだろう。
けれど、直感が、違う、と答えを出した。
良い言い方をすれば、あの二人は『神秘的』で。
悪い言い方をすれば、あの二人は『異物』だった。
なんだか、さっきから私の語り口が、怖い話をしてる時のようなソレだけれど、感覚は近いかも。
宇宙人とか異世界人を見たようなもんだから。
前に私が『彼は化け物なの?』と言って、彼女が『言い得て妙』と答えた意味を、ようやく理解した。
しかし、そうか。
どちらかが彼女の、思い人、か。
……いやいやいや。
あんた、アレは想像以上だって。
どっちが男の子なの? とか、どっちも女の子でしょ? とか、そういう常識的な思考は置いといて。
嗜好がズレてるとか趣味が悪いとか、そういう次元でもなくって。
まさか、異世界人(暫定)を見せられるとは思わないじゃん。
そりゃあ、そこらの人類が敵わない筈だ。
地球人の男に飽きたところよ! ってか?
友人としては、地球人で我慢しとけよ、と言いたいが。
……見たところ、二人は時折、ボソボソ会話をしている様子。
殆どが生徒会長に魅了される中、なびかないのが当然のように、二人の世界。
と、思いきや、
ふと、髪の長い子の方がステージ上の会長に指を向けた後、自らの胸元に手を当て、何かのジェスチャーをする。
こう、起伏を、出っ張りを現すようなジェスチャー。
普通なら、
『乳でっか! ねぇアレ見なよ! 乳でっか!』
と解釈するだろうが、そんなアホなメッセージでは無いだろう。
何か深い……邪悪なメッセージの筈だ。
学園の乗っ取りを企てていても不思議じゃない。
ペシッ
髪の短い方に頭をはたかれた、髪の長い子。
乗っ取り計画はまだ早い、と止めたのかもしれない。
どちらにしろ、我々が理解出来る言語では無いだろう。




