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【三章】16お嬢様学校ですのよ

【三章】



翌日、放課後。


「す、済まないウカノ君。今日はどうしても終わらせないとならない生徒会の仕事があって……」

「ぶー。また一緒に帰ってやろうとしたのにっ」

「ご、ごめんっ。後で、ね?」


生徒会室にて。

迎えに来てやった僕に、カヌレは『いただきます』するみたいに手を合わせてペコペコ。


「全く……ぁん? 見せもんじゃねぇぞっ」

「アンタが勝手に来たんでしょ(ペチッ)」


生徒会書記にはたかれた。

同時に、他の生徒会役員らは僕らからサッと視線を逸らす。


「ウカ、今日アレだけ学校を騒がせといてこれ以上好き勝手するな」

「なんだいセレス、僕は誰かに迷惑掛けたつもりなんてコレっぽっちもないぜ?」

「アンタはそういう奴」

「その持って回った言い方はなに?」

「別に遠回しに言ってない。人の迷惑も理解出来ない奴はサッサと消える(シッシッ)」

「なんて妹だっ、もう来ねぇよ!」


フンスフンスと生徒会室を去る僕。


「ウカノ君っ、後で連絡するからっ」という背後からのカヌレの必死な声にも僕は立ち止まらなかった。



「ぷんぷん、なにさなにさ、僕より仕事だってのかいっ」


面倒臭い彼女みたいな事を呟きつつ、肩を怒らせながら歩く僕。

機嫌が悪いのは、今日、学校で落ち着けなかったのもある。


カヌレと過ごしたかった静かで穏やかな時間。

だが、周りがそうさせてくれなかった。

ソワソワと落ち着かぬ空気。

皆、カヌレの『引退』をどこかで耳にしたようで。

その真偽やら今後やら側に居る僕の事やらと、気になって気になって仕方なかった様子。

二人で中庭で過ごそうにも、いつも以上の、全方位から浴びせられる視線。

中には『何故か』非難の目もチラホラ混じっていて……まさに針の筵。

それほどまでにカヌレの引退は衝撃的だったってのかい?


「全く……『見に覚えの無い逆恨み』は困るよホント。まぁ兎に角、今は校内で二人で落ち着ける場所だ。生徒会室を独占……はセレスがうるさいし……てか、なんで僕らが中庭から離れなきゃならんのだ。……いっそ、二人で『学校を辞めて』……うむ……それも悪くは……(ブツブツ)」


そんな風に夢膨らませながら歩いていた僕は、


アラアラ ウフフ ソウデスワネ ヨクッテヨ


「ん?」


気付けば、清楚で上品でそれでいて濃厚なかほりのする……まるで百合の花園のような空間へと迷い込んでいた。

あのセーラー服は……確かお嬢様学校こと『山百合学園』のもの。

こんな現代にも関わらず、漫画のような『ですわ口調』なお嬢様だらけ。

いつだったか、ここのセーラー服を着てセレスと共に高等部内部へと紛れ込む『遊び』をした事があったが、それはまた別のお話。


「中のカフェテラスのエッグベネディクトが美味しいんだよねぇ。暇潰しに少しお邪魔しようかしらん?」


フラフラと正門に近付く僕。

当然、お嬢様方の目に留まって。


「あら、貴方は?」「まぁ、お綺麗な方」「どこかでお会いしました?」

「学園を見学に来た者ですわ。カフェテラスのお食事がクッソウメェという噂を耳にしまして」

「あら、そうでしたの」「まぁ、お食いしん坊なお方」「……やはり既視感が?」


お嬢様と和気藹々する僕に、正門付近に立つ警備員の警戒心も薄れる。

これなら問題なく中でブラつけそう……なんて思っていた僕の、


スッーー


その横を、一人の少女が通り過ぎた。


「ん?」


立ち止まる僕。

今の子は……『なぜここに』?


「どうかなされて?」「案内しますわよ?」「ッ! 貴方! あの日学園に来た不審者を病院送りにした箱庭様では!?」

「あ、ごめん、ちょっと外すね。また来るよ」


残念がるお嬢様方に詫びつつ、僕は少女を追った。



駅前。

少女にはすぐに追いついた。

と、いうか、彼女が足を止められていたのだ。

彼女の周囲に人だかりが出来ていたから。

まぁ、例え目印が無くっても、僕は彼女を追えていた自信がある。

ーーにおいだ。

女子校に漂う清楚なソレとは真逆な、どこか甘ったるい官能的な香り。

僕はその香りを『ここ数日慣れ親しんでいた』。


「あ、あのっ、困りますっ……」


小さな悲鳴が人だかりの中から漏れた。


「カヌレさん! 引退は本当ですか!?」「熱愛相手に命じられたと耳にしましたが!?」「メガネ可愛いですね! おっぱい揉んでいいですかっ」

「ひ、人違いですっ……って、あ、貴方はっ!?」


少女が僕を見て目を見開く。

マスコミらしき集団に自然と紛れたつもりだったのに何故かバレた。

バレたなら仕方ない。


「じゃ、行こっか」

「えっ? えっ?」


手を繋いで彼女を連れ出そうとする僕に、


「な、なんだチミは!」「本当に誰だっ」「というか凄い美人さんだな! カヌレさんのご友人? 芸能界に興味ない?」


ごちゃごちゃガヤガヤと立ち塞がる集団。

ーーはぁ。

ここでもか。

僕は落ち着きたいだけなのに。

いい加減、


「邪魔」


ザワ……

街路樹が揺れる。

風は吹いてない。

シン…… 草木以外の雑音がピタリと止む。

行き交う車も人も消えた。

駅前だというのに。


ジリジリ ジリジリ ジリジリ


代わりに、『彼ら』がやって来てくれた。


「な、なんだ? 犬? 猫?」「む、虫と、鳥も!」「な、なんでこんな場所に集まり出したんだ!?」


ネズミ、ムカデ、ハチ、トンビ、ヘビ……色んな子達が一堂に、『空気の読めない集団』を無表情で見つめている。

この先の行動は僕の指揮棒タクト次第。


「じゃ、今度こそ行こっか」

「えっ? えっ?」


このどさくさを利用しない手は無く。

僕らはその場をスタコラサッサと後にした。


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