149 会長とバックアップ
カヌレと動物園デート中の僕。
途中、色々とゴタゴタがあったけれど、それも落ち着きデートを再開した矢先……
彼女の芸能人時代の同僚アマンちゃんの口から衝撃の事実。
「わたくし達『淫魔』からすれば──」
「ふむ。色々と話したい事は多いけど、流石に立ち話で済ませるのもね。カヌレ、家で改めて、でいいかい?」
小さく、どこか諦めたように肯くカヌレ。
「オッケー。じゃ、先に(置いてけぼり食らってた)ラクタちゃんを『森』に送らなきゃ、だね。一番は『空輸』かなぁ」
「キュ?」
「うん。こう、大きな鳥さんをここに呼んで運んで貰うんだ。途中、鳥さんがお腹空いたら食われるかもだけど頑張ってね?」
「キュ!?」
「森? ラクタさんを置けるような場所に、心当たりがあるのです?」
「……この子、(植物園の)グリーンボックスに送るつもりだよ」
「あの野生に? どんなツテが……」
「プランさんの息子だから……」
「……【三神】の関係者、でしたか。ならば、今までの事も辻褄が合います。『搾り取る』という分野であるならば、植物の方が上位種……淫魔の魅了に落ちないのも納得。逆に、何故彼は今まで、カヌレの素性を知らず一般人のような振る舞いを?」
「色々あるんだよ……だから、こっちも伝えるタイミングがあったのに……」
「いつまでグチグチと。アナタ随分と腑抜けましたわね」
「まーた二人してコソコソ僕をノケモノにして話してるっ。ヘイッ、鳥ちゃんおいでっ」
今度は僕が割り込むように ピィ〜 と指笛。
すると、十秒も経たずにあの時(僕を東京まで運んだ)の巨大なオオワシがやって来た。
ヒュン! と切れ味よく降下して来て、スッと僕の腕に止まる。
キッ! と凛々しいお顔。
「改めて見るとやっぱデケーなーおい。翼広げたら二メートル余裕で越えるから、僕らの中で一番デカいまであるな?」
「鋭い爪を持つ猛禽類を腕に留める時は普通、鷹匠の人みたいなサポーター必須なのに、君は平然と剥き出しの腕に……」
「その鳥さん、見た感じ、十キロ以上あるのではなくって?」
「小さい子供くらいの重さじゃんヨユーヨユー」
「(ジー)」
「「(ビクッ)キュッ!?」」
「こらっ、その小さいモル(アマンちゃんとこの)も大きいモルも餌じゃないよっ。でかい方のラクタちゃんもっ、車くらいデカいのに今更ビビるなっ」
さて……このオオワシちゃんにラクタちゃんを運ばせる手筈だけど、ワシちゃんが『持ち上げるのは可能』としても、少し目立つな……。
「あっそうだ。ラクタちゃん、今のままでも小さくもなれるでしょ? そうだなぁ、猫くらいの大きさでいいや」
「キュ? キュゥゥゥ……」
キュワ キュワ キュワ……
みるみるコンパクトにおさまっていくラクタちゃん。
見てて飽きないなぁ。
「よしよし。じゃあオオワシちゃん、この子を『森』まで運んだげてね。食べちゃダメよ?」
バサッ!
言われてすぐ、オオワシちゃんは大きな翼を広げ、「キュッ!?」むんずとラクタちゃんの背中を足で掴む。
ラクタちゃんも丈夫だから背中に傷は付かないだろう、剣士の恥になるしな。
「んじゃーラクタちゃん、近いうちに会いに行くからねー」
「キュー!」
…………………………あっという間に、空へと連れ去られてしまった。
オオワシちゃんの気が変わったらついばまれるかもしれんが、既に野生の試練は始まっているのだ、頑張って生き残ってくれ。
「アマンちゃんとこのミニラクタが『もしもの時』のバックアップ、みたいな事にならなきゃいいね」
「キュ、キュ〜」
「その時はその時で、この子も鍛えておきますわよ」
「死生観とは何かを考えさせるね……」
「さて……解散?」
「ですわね。今から撮影の打ち合わせ、な予定でしたが、日を改めましょう。連絡をしますので連絡先を」
「うぃー。ミニラクタちゃんもまたね」
「キュッ!」
「ほんとに出演するんだ……」
と、いうわけで、その場はあっさり解散。
流石にこれ以上、今日の持ちターンは僕には無い。
二人で動物園のゲートをくぐり、園外に。
昼過ぎにやって来たわけだが、時間はもう夕暮れ時。
夏だからまだ明るいけど、気を抜いたらすぐに暗くなる、そんな時期。
「んー……はぁ。楽しかったねー動物園」
てか、ミッションを終わらせた後に体を伸ばしてコキコキする流れ……なんか最近多い気な?
まぁ個人的にも『終わった!』って感じが出せて良いんだけど。
「動物園を楽しんだって扱いでいいのかな……ふう、どっと疲労感が。誰かさんを呼んだらややこしくなるって、少し考えれば分かる事だったのに」
「僕の介入でラクタちゃん『生存ルート』なった事はこの先の物語に大きな影響があるかもしれない……」
「今頃『森』で喰われてたら意味ないけどね……」
「あっ、それよりちゃんと今日中に動物園の壊れたとこ直すよう業者を手配してくれよ?」
「他人事みたいに……もう呼んでるよ」
「流石ー。むっ、そーいえば隣は遊園地だったね。カップルらしく観覧車でも乗っとく? なんとか残り1ターンなら絞れるぜ?」
「ターンってなに……今日はもう帰ろう」
「んー」
ジー 遊園地を見つめる僕。
「どうしたの? そんなに行きたい? そっちももう閉園近いよ?」
「いや。何か遊園地で『やる事があった』気が……思い出せないや」
「そうなの? 急ぎじゃないなら今度で良くない?」
「そだねー。帰ろ帰ろ」
遊園地を通り過ぎる僕達。
背後から『視線』を感じた気がするが、気がするだけだろう。




