145 彼とUMA2
ウカノ君と動物園を回っていた私。
どうしてだか今も解らないが、彼と大量のモルモットUMAラクタヴィージャが戦う流れになった。
彼に強さが認められれば、ちゃんとした住処を紹介して貰えるという一応の理由付けはあるけれど……彼が遊びたいだけ、という割合の方が大きそうだ。
戦況は、当然ながら一方的なウカノ君。
個一匹のモルモットがワニを捕食出来る実力がありそれが千以上一斉に攻めてくるという状況でも、彼にとってはモフモフなカーペットと同じ。
さて……ラクタに打開策はあるのか……
「しかし、そろそろラストチャンスだ。デートの続きがあるしねり出し惜しみは無しだぜ?」
楽しげなウカノ君。
実際楽しんでるのだろう。
ラクタは真剣そのものだが、相手が遊びでやってるのも理解しているはず。
それでも、悔しげな様子は無く、寧ろ自信に満ち溢れている。
次が彼の要求通りの、最後の、とっておきの一手なのだろう。
「むっ! ……ふふ、乗り気だね。期待してるよ、君のラストランっ」
「「「キュウ!」」」
三度目の、そして最後の攻防。
ドンッ!
不意を突くラクタ集団のロケットスタート。
以前までには無かった速さ。
地を蹴るだけでは実現しない速力。
後方を走る自身の分身をオーラに変換し、爆発させ、推進力と膂力を得ているのだ。
先程、空中でウカノ君を殴りつけた拳も、この原理。
だが……。
「良い速さだ。でも解っている筈だよっ、それは効かなかったと! ……ぬっ!?」
どうやら今度は、奇抜な作戦は取らないらしい。
軍で走っていたラクタが集約していく。
ここまでは同じ。
だが、徐々に、それは一つのモノへと形を成していく。
今度は大砲か? 剣か?
違った。
成していくのは『自分自身』。
集団は、いつの間にか一つの個へ。
今までのような寄り集まった形ではない。
アレは……巨大なモルモットだ。
サイズは軽自動車くらいに納まる。
全てのラクタが合わさればもっと大きくなりそうなイメージだが、あのサイズがベストと判断したのだろう。
「も、モ◯カーだ! モル◯ー来た!」
言うとは思ったが、触れないようにしよう。
ボンッ! ボボンッ!
オーラを爆発させ、更に加速。
このまま突っ込むつもりだ。
対して、ウカノ君の対応は……。
「来いよ。モフってやるぜ」
当然避けるつもりなど無く、腰を落とし両手を広げ、迎え入れる体勢。
お互いの意思が合致した瞬間。
単純な、力と力の勝負。
「ヴイイイイイイイイイイ!!!」
火の玉のように発光しながら叫ぶラクタ。
ニヤリと笑うウカノ君。
ドンッッッッ!!!
衝突。
衝撃。
砂煙。
果たして、決着は…………。
↑↓
………………
砂煙が晴れると、目の前にはラクタちゃんの大きな顔。
その顔を抱き締める僕。
ヒクヒクヒク
ラクタちゃんのお鼻が動く度に胸部がくすぐったい。
もっと味わっててもいいが……先延ばしはキリが悪い。
この真剣勝負を締めよう。
「ふんっ! (グイッ)」
「キュ!?」
ドゴンッ!
ラクタちゃんを持ち上げ、ジャーマンスープレックス。
背中から地面に叩き込んだ。
「キュ〜」
目を回し気絶するラクタちゃん。
試験(圧迫実技面接)、終わり!
「はぁはぁ! な、なんとか抑えたぜ!」
「白々しい……暴れすぎたよ」
「そうかい?」
カヌレに言われ、足元を見る。
ラクタちゃんを受け止めたのが原因で、僕の足が地面にめり込んでいる。
しかし、『この程度』、だ。
僕が受け止めなきゃ、あの勢いのままラクタちゃんはどこまでも暴走運転を続けただろう。
現時点でのこの子に、自身の運転を制御するだけの余力は無い。
起こり得た動物達や設備への被害を考えれば、
『僕が頭を突っ込んだ時に出来た穴』と『さっき出来た足元の穴』と『今出来たラクタちゃんがめり込んでる穴』
この程度の損害で済んでるのは、褒めて貰いたいくらいだ。
「そうかい?」
「そうだよ。そもそも君がラクタを煽ったんだからね?」
「必要な事だったんや……あの子の成長の為にね。動物園の補修は当然、夢先がしてくれるんだろう?」
「それは勿論だけど……なんだか釈然としないな……」
「いっそ豪華に全体をリニューアルしない?」
「それはあの園長が望まないんじゃないかな……」
「確かに」
広くなれば、それだけ人手も必要になる。
僕らが協力すれば、諸々の問題は解決出来るが、それを望む園長ではないだろう。
このこじんまりさでしか得られない満足感も、確かに存在する。
ひっくり返ってるラクタちゃんの広いお腹を撫でる僕。
こっちもモフモフで可愛い。
ふと、カヌレが、
「君は『この結果』を狙ってたんだね」
「結果とは?」
「ラクタの成長を、だよ。この元の姿に戻してあげたかったんだろう?」
「まーね。でも狙って出来たもんじゃないから、何らかの形で成長してくれたら儲けもんさ。これならまぁ、僕んとこの『庭』でもすぐには喰われないでしょ」
「『あそこ』で生き残られるって、この世界の生物としては結構な『上澄み』だからね?」
「僕ら兄妹にとっちゃ昔からの遊び場だけどなぁ」
「君らは一生気にしないでいい、下の世界の話だからね……」




