134 会長と動物園
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わらびちゃんとのコラボ生放送が終わった。
僕はこの後もここに居たかったが、わらびちゃんは一人になりたい様子。
その要望を素直にきいてあげる僕。
「……あ、あっさり引き下がりますね……逆に怖いです」
「あん? 寂しくなったか? 押してダメなら引いてみろってね。まだ間に合うよ? 一緒に寝る?」
「き、杞憂でした……」
「あ、そうだ。説明するの忘れてたけど、これから僕らが会う時はさー」
「な、何の話です?」
デート相手と場所がランダム云々の話をしたら「し、知りませんっ」と家を追い出された。
くそ、絶対次に会う時は変なデートスポットに連れてってやる。
とぼとぼ……
うーむ、予定がどんどん狂っていく。
そもそも、今日担当のアンドナがどっか行った時点でアレになったんだが。
その日を共に過ごす『彼女』を決めるアプリも、役に立たねぇな?
……ふむ、ならバランスをとって、アンドナわらびちゃんと続いたこの後は、カヌレと過ごそう。
大事なのはバランス、アプリもその為の導入だったし。
まずは彼女を見つけないとな。
まぁ普通にスマホで連絡を取ればいいんだが。
「ターン終了といいつつ今日の僕はよく動くなー(スマホスッスー)…………もしもしカヌレー?」
『どしたのー?』
「今から会おうぜー」
「んー……『面倒くさくなりそう』だけど……まぁ、いいよ」
「不穏な言葉が聞こえたな? まぁいいか。どこいンの?」
『えーっとねー……』
「ああん? 『そこ』いるんなら僕も誘えよー」
指定された場所にバスで辿り着く僕。
そこは……動物園。
九木山動物公園。
開園60年を迎える、県民に長年愛されている動物園。
昔はママンに、セレスと共によく連れて行って貰った場所だ。
入場ゲートに向かう。
券売機……大人480円。
入場料も安い。
高校生は大人料金だが、それでも安い。
子供料金なんて120円だ。
ジュース代かな?
ゲートを潜り、園内へ。
直後、ムッと鼻を刺激する野性味溢れるかほり。
苦手な人も多いだろうけど、ザ・生き物のかほりという感じで僕は好きだ。
そして…………お?
「おーいっ、ハニーッ」
「そ、そんな大声出さなくても気付いてるからっ」
目的のカヌレを発見。
デニムパンツとグレーのTシャツという動きやすそうな爽やか夏コーデ。
……むむっ?
よく見れば、彼女の周囲に誰かしらいるぞ?
彼女の元へ向かう僕。
「やっほー。もう動物園はまわった?」
「え? い、いや、まだだけど」
「そっ。んじゃーこのままデートしようぜいっ」
「あっ、ちょっ、手引っ張らないでっ」
「ふぅん。聞いていた通りの強引な恋人ですわね。可愛らしさは認めますが」
「どこからまわるー?」
「もう君に任せるよ……」
「無視とは大物ですわね」
おっと、僕らに話し掛けてたのか。
絡んで来た女の子の方を見る。
……ピンク。
ピンク髪だ。
ピンクロングヘアーで高飛車そうな女の子。
しかし、なんだろう。
会うのは今日初めてだけど、この妖艶な雰囲気……ちょっとした既視感。
「どちら様? 現実離れなファンキー髪色してるけど」
「君も似たようなものだろ……、……彼女は仕事仲間『だった』子だよ。芸能関係の仕事をしてた頃のね」
「あら。わたくしは商売敵と思ってましたわよ? 常に先んじて前にいる貴方を、ね」
「いいねーそういうキャラ。古き良きライバリーな空気を感じるよ。お名前はなんてーの?」
「その様子ではわたくしをご存知無いのですね。テレビやニュースは見ない派です?」
「うん。カヌレが辞めてから見てないなー」
「そうですか、まぁいいです。わたくしは【アマン】です。初めまして、カヌレの恋人さん」
「クイニーアマン好きー。パン屋でいつも買うよ」
「それは結構」
「溶け込むの早いな……(グリッ)」
嫉妬かな? カヌレがアマンちゃんに見えないように僕の脇腹をつねる。
「そのお嬢様口調、山百合学園の子?」
「ええ。ですがこれは学園生だからな口調ではなく、元からです。学園の方はあまり通えてませんがね」
「大変なんだねぇ芸能人も。今日はオフかな? 動物園で骨休めだなんて可愛いね」
「……カヌレ、随分グイグイくる恋人さんですわね?」
「すぐに慣れるよ……普段はこんなもんじゃないから」
「そう……コホン。いえ、オフではなくこれも仕事です。周りに撮影クルーがいるでしょう?」
確認しろと促されたので周囲を見ると…… 複数のカメラマン、先端がモフモフな長いマイク、大人のおっさん達 ……これはもしや?
「エッチなビデオの撮影……?」
「一般客もいるのに白昼堂々するわけないだろ……」
「うふふ、興味があるのでわたくしは構いませんがね」
「おっ、ノリがいいね。ピンク髪は淫乱という話は本当か」
「そうですね」
「偏見を広めるんじゃない……映画の撮影だよ、映画の」
「ふぅん。動物園が撮影場所ね。動物達が人間達に反旗を翻すパニックものかな?」
「悪くありませんわね。シナリオの変更を監督と脚本家に提言しましょうか」
「君らが言えば変更されかねないからあまり困らせないであげて……」




