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13中はダメな会長

「まさか即決するとは、流石は会長、凄い行動力だね。怒られなかった?」

「うん。元々社長……ウチの母は私の芸能活動を良く思って無かったからね。寧ろ喜んでたよ」

「売れっ子な娘をアッサリ切るか。余程お金に余裕がある事務所なんだね」

「いや、事務所、っていうか……ウチは『凡ゆるエンタメを仕切る会社』だから」

「どゆこと?」

「言うなれば、全て『自給自足』って感じかな。タレントも、作家も、テレビ局も、ネット関係の配信者も、出版もーー凡ゆる全てを我が社で行ってる。だからこそ、今まで私は我儘を言ってこられた。他の局の番組や出版社の雑誌にだって、一度も参加した事が無いし」

「さっきのCMのジュースも自社製品?」

「そうだね。エンタメ以外の事もやってるね」

「ふぅん。それだけやりたい放題して成功してたら敵よりも媚びてくる相手の方が多そうだね。ま、そんな面倒くさい業界、もう会長には関係無いわけか」

「そうだね。……、……よ、呼び方」

「ん?」


僕が振り返ると、会長(メイド服)は唇を尖らせていて、


「私は、時期が来たら生徒会長も辞める」

「まぁそうだよね」

「つまりもう、決定事項。つまりもう、会長じゃ無いのと同じ」

「そうかな?」

「だから……名前で呼んでくれないか?」

「OKカヌレ」

「カヌッ……! き、君は本当にっ、年上だろうと関係無く……!」

「因みに明日の学校じゃあみんなの前だろうとカヌレって呼ぶからな」

「ウカツだった!」

「すげぇ……生徒会も芸能界も辞めさせたとか、僕、あの『凛としてたカヌレをしおらしく調教したドS男』みたいに恐れられるやん……(ゾクゾク)」

「ま、間違ってないだろ……ドSなとこも……」


悶絶するカヌレに満足したので今日のデートはここまで。

僕らは駅に向かい、帰りの電車に乗ってーー


地元の駅へ到着した頃には、もう一九時過ぎ。

都会な街中へは数駅だけの距離感だが、ここは随分と落ち着いた地域。

この駅からアパートまでは歩いて行ける距離だ。


「はぁ……やっと家に帰れる」

「オメーが誘った癖になに被害者面してんだ(ペチペチッ)」

「ぅぅ、そうだけど……太ももペチペチしないでくれっ」

「……(もみもみ)」

「無言で二の腕揉まないでっ」

「注文が多いな全く。でも、疲れたのは本当だね。僕ら今日何度(男女問わず)ナンパされたか。今度遊び行く時は目立たない格好するとかの対策しないとねぇ」

「君がこんな目立つ格好させたんだろ……」

「けど、途中からメイド服に文句言わなくなったね?」

「……もう慣れた。というか、逆に制服姿だと変に目立つからね。生徒もどこで見てるか分からないし」

「誰に見られてたって関係ないでしょに。けど、いいの?」

「ん? なにがだい?」

「コスプレも珍しくない賑やかな街中なら兎も角、こんな落ち着いた地区じゃあ田舎の村よろしく普通に『おかしな格好した女が歩いてたべ』なんて噂広がりそうだけど」

「……今からマスクとサングラスすれば大丈夫だろう(スチャ)」

「わー、不審者メイドだー。流石は元芸能人、変身セットもバッチリだね。カヌレ、メイド服はもう余裕そうだし、次はもっと過激なコスプレ用意しなきゃだ」

「さっき言ってた事と矛盾してるぞっ。もう変なのは着ないからなっ」


和やかに会話しながら……気付けばアパート前に。

途端、スンッと静かになるカヌレ。


「えっと、その……」

「さ、中に入ろ(ズンズン)」

「ちょっ! なに躊躇無く部屋に向かってるの!」

「ああん? 客なんだから茶くらい出せよ?」

「厚かましいっ。きょ、今日はダメだからっ。少し話を聞いてっ」

「それこそ中ですればいいのに」


僕の言う中とは、勿論『カヌレの部屋』という意味で。


「えーっと、なに? 君がここで一人暮らしする事になったのには深い事情や悲しい過去があるの? (耳ホジホジ)」

「興味無さそう! ……い、いや、そこまで説明しづらい事なんて無いよ? ただ……そう、一人暮らしに興味があっただけだよ?」

「たまたま? こんなボロアパートに?」

「た、たまたま」


目を泳がせるカヌレ。

本心を隠してる気満々な反応だけど……それは僕にとって重要じゃない。


「なら神様に感謝だねっ。いつでもお互いの部屋に行き来出来るよっ」

「えっ……? それだけ?」

「それだけ。じゃあ早速君の部屋に」

「だからダメだって! ち、散らかってるからっ」

「コレからもっと散らかるんだから関係ねぇだろっ」

「なにするつもり!? あ、明日っ、明日ならっ。女の部屋は色々あるんだっ」

「しょうがねぇなぁ」


納得してやった僕は扉から離れた。


「じゃ、明日から朝は一緒に登校だね」

「き、君がいいなら……うん」

「したばねー(ヒラヒラ)」

「ーーウカノ君っ」

「ん?」


「わ、私は今日、自らが培って来たモノ殆どを捨てた。歌の仕事も映画もドラマも途中でほっぽった。みんなに迷惑を掛けた。もう後には戻れない。……責任、とってくれるよね?」


「そう聞くと、急にカヌレのブランドイメージが暴落したなぁ」

「ひどくないかい!? ま、まさか見捨てるつもりじゃあ!」

「んなわけあるかい。僕は元々、周りの評価や君の実績なんてどうでもいい。君に興味を持ったキッカケも、その『丈夫な子供を産めそうな躰』だからね」

「なんか複雑だよっ」

「それとも何かい? そんな不安を吐くなんて、捨てたモノの方が僕より上だと思い直したかい?」

「まさか」


カヌレはスッキリしたような顔で、


「何も後悔なんて無いさ」

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