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【登山の日特別編】


「わっせ、わっせ」


「……アレ?」

「わっせ、わっせ、ぅん? どした?」

「ここは?」

「ああ、そういう。僕らは今、登山中だよ、カヌレ」

「登山……また特別な記念日?」

「話が早いね。今日は『登山の日』だよ」

「聞き馴染みないね。まぁ在ってもおかしくない記念日だけど……ん? そういえば、お彼岸とか中秋の名月(お月見)は?」

「もう十月だぜ? 過ぎてるよ」

「そ、そうなんだ……君がそんなメジャーなイベントスルーするなんてね。いや、私の記憶にないだけで実際は楽しんだのかもしれないけど。というか、お彼岸はイベントとはまた違うか」

「そんな事もあろうかと、それらを全て楽しめる場所に今向かってるんだよ」

「この登山で全てを?」

「まぁ付いてきて」


わっせ わっせ


「ふぅ……そういえば、今何時?」

「昼過ぎかな。お腹減ったなら休憩する?」

「いや、まだいいかな……にしても……深い森の中だ。聴こえるのは鳥の鳴き声だけ。道も結構荒れてる。登山道というより獣道のようだ。道はこれで合ってるんだよね?」

「答えは風の向くままさ」

「目的地あるんじゃないの……?」

「登山自体が目的でもあるからね。ほら、たまには体を動かすっ。最近、増えたお肉が気になってるんだろ?」

「ど、どこでそれをっ!?」

「いや、カマ掛けただけだけど」

「こいつ……」

「でも僕はプニプニしてる方が好きっていつも言ってるだろっ。痩せようとするなっ」

「君の性癖は知らんわっ。なら山登らせようとするなっ」


わっせ わっせ


「しかしカヌレ隊員よ。登山はいいぞ。気持ちいい汗、緑と土の優しい空気と香り、開放的な場所での食事……なんとも健康的な趣味だなっ」

「隊員ってなに……君、そんなに登山好きだったんだ」

「いや実際はそこまで。キャンプとか森歩くのは好きだけど、わざわざ高いとこ目指すヤツの気がしれんなっ、ガハハ」

「だから、じゃあなんで山登り選んだの……」

「記念日にかこつけて君と自然満喫デートがしたかった、って理由じゃダメかい?」

「……まぁ別に文句はないけどさ」

「あと川を見つけたら水着回が目的だ」

「そっちが本命かっ。こんな時期に水着になんてならんっ」


わっせ わっせ


「ふぅ。秋だというのに、まだ草木は青々とした緑色だね。東北とはいえ紅葉はまだ早いかな?」

「この山も場所によっちゃあ始まってるけど、まだ一部だけよ。まぁご存知の通り、市内には既に銀杏が落ちまくってクサイクサイだけども」

「風物詩といえば聞こえはいいけど、アレ、滑るし普通に危険だよね……」

「銀杏といえば茶碗蒸しだよね。好きだから無限に何個もいけちゃうよ」

「銀杏の食べ過ぎは(メチルペリドキシン)中毒で痙攣起こしたりするから普通ならダメ……だけど、君は丈夫だし問題ないんだろうね……。私は茶碗蒸しなら百合根が好きかな。ホクホクしてて」

「百合根……食べると同性が好きになる百合根を前にママンが見つけてたなぁ」

「表に出しちゃダメなやつだね……流通させないでよ?」


わっせ わっせ


「はぁ……マウンテンパーカーを着てるからか過ごしやすいね。まぁ木々の中で陽が入らないから肌寒いんだろうけど……ほんと、今年の夏……私の中では『去年の記憶の』、だけど……あっという間な夏って印象だったよ」

「それは今年もだね。雨の日多かったからか、暑い日の印象が薄かった。だから、な? 夏を感じたいだろ? な?」

「なに急に……嫌な予感するから断っとくよ」

「このリュックの中にはちゃあんとっ、君の水着が入ってるからね?」

「なんでだよっ、どんだけ川遊びしたいんだっ」

「海+水着って組み合わせもいいけど、紅葉or雪原+手袋とニット帽+水着な組み合わせも好きなんだよっ」

「凍え死にさせるつもりかっ」


わっせ わっせ


「登り始めて一時間は経ったかな? 少し腰を下ろそうぜ?」

「え? まぁいいけど、何かあるの?」

「今はオヤツの時間前だぜ? 糖分補給タイムさ(パンパン)」

「急に手を叩いて何を……(ゾロゾロ)ええ……クマとか猪とか鹿とか猿とか……なんか色々持って来たね」

「柿、梨、葡萄、あけび、サルナシ……秋のフルーツてんこ盛りだよっ。ホントは焼き芋とか焼き栗もしたかったけど、流石に時間が掛かるしね」

「ま、まぁ、十分じゃないかな、これだけあれば」

「さ、座ろ座ろ」

「おあつらえ向きに座るのにちょうど良い切り株が二つあるね……よいしょ」

「(コポポ……)はい、そば茶」

「水筒まで持参して……至れり尽くせりだね。ふぅ、あったかい。蕎麦屋以外で飲むのは初めてだから変な感じ」

「んー(剥き剥き)……今の若い子ってあけびとかサルナシ見た事あるのかしら?」

「ウチらも若いでしょ……まぁ、山近くに住んでる子なら知ってんじゃないかな」

「独特な果物だよねぇ。サルナシはまんまキュウイだけど、あけびはなんだろ……ねっとりした少し苦味のある柿味? ビジュアルも変わってるし、皮に肉を詰めて食べる料理のインパクトも凄いし」

「好き嫌い分かれるだろうね。特に、食べる物が多いこの現代じゃあ」

「もし世界が滅んだら、好き嫌い言ってられねぇよなぁ?」

「どんな前提……?」

「少なくとも、山で遭難した時は知識の量が生存率を上げるからねぇ。食べられるキノコやら野草は把握しておかないと。僕がいる限り、いつ遭難しても安心だよ? (ニッコリ)」

「君がいて遭難なんて事が起きたら、100パーヤラセを疑うからね?」


わっせ わっせ


「ふぅ…………なんやかんやで、目的地に到着っ」

「……頂上? 随分、人が多くいるね。他の人達も同じようなルート通って来たんだろうか?」

「いや? ハイキングコースだと思うよ。普通は軽装で登れるような緩やかなルート選ぶし」

「ええ……なんでわざわざハードコース登らせたんだ……」

「まぁまぁ、登山の日、だからね。頑張った甲斐あってか、この上からの絶景もひとしおだろ?」

「……まぁ、まばらな紅葉の景色も悪く無いね。てか、この周囲に咲き乱れてるのは……彼岸花? 西日本ならまだしも、十月の東北にこんなに?」

「なんでだろうね。前にママンが植えたとかいう特殊な『枯れない』品種だからかな」

「それしかないでしょ……ホントに枯れないだけの品種なの? 他に変な効果ない?」

「さぁ? よっと(バフン)」

「……どうしたの? 急に彼岸花畑に仰向けに寝転んで」

「アニメでよく見るシーンの再現。彼岸花って死のメタファー的な意味で酷使されるよね」

「いや、よく分からないけど……」

「(ムクリッ)よし満足っ、これでお彼岸要素回収だっ」

「したかな……」

「よしっ、次はお月見要素だっ」


トコトコトコ


「すぐそこの、街を一望出来る展望台に来たぞ。おーい! とやまびこでも一緒にやろうか?」

「い、いいよ、この歳になって恥ずかしい……」

「恥じらう顔を見るのが目的だが?」

「やらないよっ」

「夜に来たらキラキラとした街を一望出来るんだろうね。彼岸花もライトアップされて雰囲気もいいはず。アベックのスポットとしても有名だよ」

「アベックて…………で、お月見要素は?」

「焦るなって(パンパン)」

ゾロゾロ

「また動物呼んで……今度は何? 何かの道具の部品? それを組み立てて…………天体望遠鏡?」

「そ。これなら明るくても宇宙のムーンが眺められるぜっ。僕的にはここにテント張って夜まで二人で寝るのもいいんだが?」

「こっちでいいよ……」

「ほらっ、動物達が月に向きを合わせてくれたから、覗いた覗いたっ」

「全く……」


ジー


「……うん、見える見える」

「月見団子も欲しいとこだけど持って来るの忘れちった。代わりにぶどうとかウズラの卵食べる?」

「さっき食べたからいいかな……(ジー)……日本だと月の模様はうさぎに例えられるけど、他の国だと色々違うんだよね」

「うん。おばさんとかワニとかライオンとかね。子供の頃ママンに聞かされた昔話だと、実際色んな種族が月に暮らしてるらしいぜ。『子供騙しだなぁ』と聡い僕は呆れてたよ」

「(ボソッ)まぁ事実なんだけど…………ん? アレは……あの光るやつ…………まさかっ」

「ん? どしたん? 面白いの見える?」

「ちょっ、ちょっと電話掛けるねっ」

「なになにー(ジー)……おっ! 月の真横に飛んでるあの光の球は……まさか隕石!? しかも軌道は地球! もう終わりダァ! …………いや、まてよ? 荒廃した世界……僕と彼女『ら』が生き残って……理想郷が……(ブツブツ)」

「何をブツブツと……あ! プランさんですか! 今宇宙そらに……え? あ、把握してる? あ、はい、そうですよね……じゃあお願いします」



ピッ ────── カッ!



ワッ ナガレボシカ?

ソラガヒカッタゾ!

ハナビカ?


「あ、ああ……なんて事を……アダムとイヴズ計画が……」

「何を企んでたんだ……」


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