12辞める会長
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映画も見終わり、感想を言い合いながら市内を歩く僕達。
外はもう夕暮れ。
「いやー、まさか最後に主人公が振られてアル中になって肝臓を壊すバッドエンドとはねぇ。タイトルに伏線が隠されてたってわけだ」
「……カップル向けじゃあ無いよね。流れ的に違和感は無かったから作品としては良かったけど」
「あー、お腹減った。煙りモクモクな炭火焼肉行く? それとも『ホテルのルームサービス』にする?」
「どんな二択なんだ……普通に『家で食べる』から」
「肉の気分だったのになぁ。……おや?」
駅前のペデストリアンデッキを歩いていた時、丁度、L◯FT向かいの建物にある大型ビジョンに、動く会長の映像が。
海沿いを駆ける会長。
服装は夏制服姿(勿論我が校のじゃ無い)。
走るのを止め、手に持っていたスポーツ飲料をゴクゴク。
それから海を眺めるカットでCMは終わる。
何とも、夏らしい爽やかな映像。
まぁ爽やかさよりも、汗に濡れる彼女の妖艶さというかエロさが勝ってるけど。
足を止めて魅入る一般人もチラホラ。
「あ、余り凝視しないでくれ……恥ずかしい」
「水着バージョンは無いの?」
「あるわけないだろっ。……そ、そう言う仕事もNGなんだよ(小声)」
「コイツ昭和のアイドル並みにNG多いな……。しかし、海、いいねぇ。今度二人で行こっか」
「水着が見たいだけだろっ。……ま、まぁ、いいけど」
「ちょろいアイドルだなぁ」
僕らは大型ビジョンに背を向け、再び歩き出す。
「そーいえば、なんで芸能活動なんてしてるの? 自分の可愛さを世間に晒さずにはいられなかった?」
「そこまでの自己顕示欲は無いから……。まぁでも、当たらずとも遠からずだよ。芸能界に限らず、生徒会長に立候補したのも、『自分の可能性に挑戦したい』だのと耳触りの良い理由を私は皆の前で言った。けれど、それは『表向き』」
「ふぅん。実際は違う、と」
「ただ一人に見て貰いたかった。少しは堂々と人前に立てるようになった私を、ね」
遠い目でボンヤリと呟く会長。
「んー? 会長、実は過去、コミュ障陰キャだったとか?」
「そうだね。けれど、その人が鼓舞してくれたお陰で、私は今の私に成れた。コレが成長なのか『逃避』なのかは分からないけれど」
「へぇ、それはそれは。見て貰いたいが為に、目立つよう生徒会やメディアで露出してたって事か。当時の気弱会長にも興味が出たね。ーーで、肝心の話、『見て貰えた』の?」
「ああ。『好評』みたいで安心したよ」
「ならもう続ける意味ないよね」
「え?」
ポカンと目を見開くカヌレ会長。
「だってそうでしょ。目的は果たしたんだから、続ける意味ある?」
「……それは」
「考えてみな。芸能人辞めて普通の女の子になったらさ、コレから一杯、一緒に遊べるね」
「…………確かに。『それはいいね』」
会長は肯いた後、おもむろにスマホを取り出して、
「あ、もしもし、社長? うん、私今日いっぱいで仕事辞めるね。……うん、そう。『もう大丈夫』だから。うん。よろしく」
ピッ
「……辞めちゃった」
ペロッと、会長は舌を出した(カワイイ)。