118 兄妹と神楽 8
箱庭神楽ももう終盤。
暴れていたロボットも、流石に堪忍袋の尾が切れたドリーに捕らえられ、絶体絶命。
プシュン!
ロボットの首元から出る煙。
あの辺りが操縦席なのだろう。
分離させて脱出するつもりだ。
……が。
『くっ……くくっ……分離出来ん。よもやこの木、ただ腹を貫いただけではなく、超兵器内を侵し回路をも支配するとは……既に、超兵器は操り人形というわけだ。本当に、容赦が無い』
バギッ! ボギッ!
ドリーがロボットから(掴まれていたロボットの腕ごと)引き抜くと同時に、ロボットは全身を発光させ始めた。
この流れは……
『くくっ、合点がいった。我々はまんまとこのステージ(舞台)へと誘い込まれたわけだな。全て、お前達の手の平の上。所詮、我々はショーを盛り上げる為の演者。道化でしかなかった』
神楽に乱入しに来た関係の無い者達……
と思われたが、蓋を開ければ、兄妹やドリーとは因縁が有ったのだ。
報復されるだけの理由も有る。
無かったのは、それを実現する為の力。
ロボットから発せられる光は、益々強くなっていく。
『我が国を襲ったのも計画の内か? まるで、無邪気で残酷な子供に見つかったトンボの気持ちだよ。そうやってお前達はこれからも、神のように振る舞うのだろう。精々……呪わせて貰うぞ』
発光がピークに達したと思われた瞬間、
ギュン!
ロボットは天へと飛翔する。
腕も無く、まるでロケットのようなシルエットで空を突き抜けて……
カッ!!!
……
…………花火はついさっきやったのだが。
「もう、無茶苦茶よ……」
「ふぅ。色々と茶々が入ったけれど、これでやっと、まともに神楽を鑑賞出来る」
「さっきまでのを茶々って貴方……」
……ん?
ああ、それも叶わなそうだ。
『主役』がおかんむりでいらっしゃる。
ついさっきまで『蚊帳の外』だった彼。
それに対しての怒りもあるだろうが……
一番は、『勝手に玩具を壊した事』。
彼の怒りは、『見た目』で分かりやすい。
猫が毛を逆立たせるように、彼は『髪色』を変える。
銀髪から……徐々に『翡翠色』に。
見た目がより一層、プランさんへと近付く。
あの人に近い存在……
その字面だけで『知っている者』は地球の裏側まで逃げ出すだろう。
いや、本当に知っている者なら、裏側に逃げても意味が無いと悟って逆にその場に留まりそうだ。
ただ怒るだけならば、彼の髪色もこうもすぐに変わらない。
神聖な気で満ちるほど踊り明かしたこの神楽の場、だからこそというのもある。
皮肉なものだ。
怒れば怒るほど、プランさんに近付いた彼は、周囲の世界は清らかに変えていく。
ああ、なんと居心地の『悪い』事か。
彼の本来の姿は、私のような『邪な存在』には眩し過ぎる。
近付けば、身を焦す。
比喩で無く。
いつの間にやら、ドリーの酔いは覚めていた。
紅潮していた身体も本来の自然な色に戻っている。
激昂する彼に青ざめた?
逆だ。
アレは、そう、成長を喜ぶ『祖母』に近い。
立ち位置的に、ドリーは『姉』に近いのだが。
……神楽の終焉は目の前だ。
カンカン! ドコドコ! ベンベン! ダカダカ!
演奏の盛り上がりも最高潮。
今まで、ドリーの愛を避ける為に飛び跳ねていた彼は、
グッ
と脚に力を込め……思い切り地面を蹴る。
その一度の跳躍は、一気に、巨木なドリーの樹冠の下……顔に当たる部分まで到達し。
チリンッ
彼が木刀を一閃。
今までで一番大きく、鈴が揺れて。
ズズズ
ズウウウンンン……
ドリーの首(?)の落下音で、神楽(演奏)は締めくくられた。
………………
…………
……
「はぁ。終わった様子ですので、私は行きますね」
「(ぽけー)」
一応挨拶してから去ろうと思ったが、隣の彼女からの返答は無い。
放心状態の彼女。
それは彼女に限らず、観客らも同様で。
ライブで盛り上げた空気を、随分、ガクッと盛り下げてくれたものだ。
同じ箱庭家のプランさんの行った植物紹介は(比較的)一般人にも分かりやすくエンタメ性に富んでいた……
が、今の神楽は『脳をこねくり回す拷問』に近い。
やっていた事は単純に演奏と舞踊、だけれど、情報量が多過ぎた。
脳が処理し切れず、パンクし、今の彼らのように放心してしまう。
途中、ロボットらが茶々を入れに来て、ある意味正解だったかもしれない。
一拍も入れずノンストップで視聴していたなら、観客の殆どが廃人化もあり得た。
その後のケアも、プランさんは用意してたろうが。




