11会長とデート
ーー大型雑貨店では、
「ぅぅ……恥ずかしい。周りの視線が……」
「ガハハ、何を顔赤くしてるんだ。似合ってるよ、『メイド服』」
「そ、そう言う『君も着てる』じゃないか。私以上に似合ってて……か、可愛いよ」
「僕もノリで、ね。着るのは初めてだよ。会長は仕事で着慣れてるでしょ?」
「そんな仕事はした事無いっ」
「いいよねー、夏仕様の半袖ミニスカメイド服。胸元は控えめな露出だったのに会長の恵まれた躰のせいでボンッと肌色多めになって。その格好で給餌するとか世の中のメイドさんに対する冒涜でしょ……」
「私は悪く無いっ」
「まーまー。それより、折角ハ◯ズに来たんだ。メイドとして便利調理器具や便利生活用品のチェックはしとかないと」
「か、家事か……余り『得意とは言えない』な」
「そうなんだ? なら『料理とか洗濯とか掃除』が苦手って事だね。なら君にピッタリなお店だ。ふんふん……これなんか一つ有ると便利だよ」
「うん? 何の道具だ? 先端に円柱のクッキー型のようなモノが付いてる……持ち手もあるから、何かの掃除用具か?」
「とうもろこしの実をごそっと綺麗に取ってくれる道具」
「……便利だろうが、使う機会が限定的過ぎる。一家に一台、というなら……そう、こういう『トースターと目玉焼きが作れそうな鉄板とコーヒーメーカーが一つになった』ような機械じゃないか?」
「そういうのは器用貧乏すぎてね。慣れると普通にフライパンとかの方が早いから、結局トースター機能だけ使う様になるよ。……おっ、鍋の焦げ付きがすぐ取れる強力ブラシだってよっ」
「人が鍋を焦がしまくる前提で話してるね……?」
「おおう、ダンボールで出来る燻製セットだってよっ。燻製マスターメイドを目指してくれ、単純に僕が燻製玉子とかシシャモ好きなんだ」
「メイド服に燻香が付くのはちょっと……」
「文句ばっかりだなこのダメメイドがッ。何も出来ないポンコツドジっ子メイドでも目指してるのかッ」
「ぅぅ……理不尽な怒られ方だ……」
「むっ、これ買おうかなぁ。電気とかガスの元栓とこ鍵を閉めたの確認したらツマミを上げるキーホルダー型チェッカー」
「……便利は便利だけど、指差し確認云々で良くないか?」
「指差し確認したっけ? とかなるからね。うーん、でもこれ、次の日とかになったら『リセットしたっけ?』てなって混乱しそう」
「君が日常生活をきちんと送れてるか心配になるよ……」
「ダメイドな君と同棲始めたら悲惨だなガハハ」
「そ、それはそれで楽しそうだけど……」
ーー映画館では、
「どれ見よっかー。丁度数作品がすぐに見られる時間だよ」
「映画……久しく見てないな。君は普段どんなジャンルを見てるんだい?」
「青春系アニメ映画とかホラーかなぁ。お、噂をすればホラーあるやん? 【ゆびきりげんまん】ってタイトルか……いいねぇ、香ばしいB級臭がするよ」
「で、デートにホラーはどうかな?」
「割と定番だと思うけど? いや? まさか、我らが会長が、まさかまさかホラー苦手とかないよねー?」
「も、勿論だともっ。馬鹿にするなっ」
「んじゃー二人分買うねー。タッチパネルはあそこかー」
「ま、待って! (ガシッ)けれど、今、私はこの恋愛映画がみたいかなー、なんて」
「えー、恋愛映画とかむず痒くなるよー。……ん? これ、会長も出てるの?」
「わ、脇役で、だけどもね」
「ふぅん。会長なら主役余裕で取れたでしょや」
「それは……まぁ。私、恋愛シーンはNGにしてるから」
「へぇ。事務所の、じゃなくて会長の判断なんだ。ま、会長が演技とはいえ僕の見てないとこで他の男とイチャイチャしてるとか嫌だからその方針は大歓迎だけどもね」
「そ、そう……(赤面)」
「ポプコンとかジュースはいる?」
「いや、要らないかな。『夕飯』が食べられなくなるし」
「会長の今日の夕飯は?」
「『冷蔵庫の中身次第』だね」
「じゃ、改めて、この青春アニメ映画【僕の肝臓が叫びたがってるんだ】見よっか」
「さっきのやり取りの意味は……?」
「にしても、なんかこういう作品って『普段はオタクを気持ち悪がってるけど世間の空気で受け入れられてる空気だからセーフ』みたいな感じで一般人にも見られてるよね。絵柄も萌え萌えしてないし主題歌も人気バンドってのもあるから『ジ◯リ枠』みたいなもんなんだろうけど」
「……なんだか君も色々と一般人に偏見の目があるね」