107 会長(?)とBSS
学園祭夜の部。
もう学園祭も終わりが間近で、残すイベントもあと僅か。
特設ステージにて神楽をやらされる事になった僕は、本番まで誰もいない教室で『彼女』とサボり中。
「芸能人かぁ。君のそんな肩書きも、最早昔の事だね(しんみり)」
「まだ一週間前後しか経ってないけどね……まぁ、忙しさからは解放されてるよ。『何故か』最近は活動時より心体的疲労があるけど」
「大変だ、いっそう僕のおもてなし力を解放しないと」
「まだ本気じゃなかったのか……」
どうやら僕の愛が過小評価されてるようだ。
「今からでもあのステージで君へのオリジナルラブソングを弾き語り出来るぜ?」
「辱めやめて……フラッシュモブに通ずる公開処刑だよっ」
「学園祭ライブ出演は男子学生の憧れだぜ? 男子のこの時期リビドー(欲望)はやばいからね。性欲が原動力と言ってもいい。バンドしてモテモテになって女の子と恋だの愛だのムフフだのとパンクロックの歌詞みてぇな事してぇんだよ」
「そ、それは……別に、君ならわざわざそこまで目立つ事しなくても……(ブツブツ)」
「カーッ、イケメンな自分がつまらんわー。努力しなくてもモテるから青春味わえないわー」
「すぐに調子にのるなぁ……」
彼女も僕と同じイケてる面な境遇だから共感出来る筈だけどなぁ。
「しかし事実として、僕らはイケてる存在だぜ? この学園『では』君の方がモテモテだけどね。僕はアウェイだから大変なんだぜ? 男子からの罵詈雑言が。『NTR』だの、『BSS』だのさ」
「BSS……? なにそれ」
「BSS(僕が先に好きだったのに)ってジャンル? カテゴライズ? 性癖? だよ。奴らと来たら、『彼女は僕と付き合う筈だったのにー!』って、横取りされたかのような物言いさ。いや、NTRもおかしいけどね」
「ぅぅん……まぁ、好きな人が他の人と付き合い始めて嫉妬する、とか、胸がずきりと痛くなる、なんて経験は誰にでもあるだろうし……あ、そういえば、私も『君の隠れファン』に似たような事を……」
「えっ、なになに!? 僕のファン!?」
「……やっぱり言わない」
可愛く唇を尖らす彼女。
「んだよー。『アンタ、あーしのウー君に粉かけてんべ? 調子のんなし』とか言われたんだろぉ?」
「なんでギャル……?」
「あ、ちょっと君のギャルスタイル(メイクとかファッションとか)も見たくなってきたなぁ」
「ギャルっぽい子好きなの……? や、やらないからね?」
「頭悪そうな喋り方とかアクセつけてぇ!」
「やらないからっ」
「おっと、脱線したね。だからさ、BSSってほざくンならせめて告って振られたんなら分かるんだよ? けど大抵は、行動も起こしてないのに、だぜ? まぁ、ブツブツ文句言うだけならまだいいよ? 最悪、ストーカーに発展する可能性だってある。君も気を付けなよ?」
「何の話してるんだっけ……?」
「一般人の扱いは難しいよねって話」
まぁ、ストーカー云々に関しては、『僕のヒロイン』には引き続き(動物達の)監視の目を付けてるから安心して欲しい。
「そーそー、一般人って噂によるとさ、一日の終わりに『脳内で反省会』するらしいぜ? やれ『今日は好きな子と楽しく話せたな!』とか、『余計な事言ったー!』とか。面白いね、人間って生き物は不完全で」
「なんで上位種みたいな目線で……反省会、ってほどじゃないけど、考えるくらいなら私もするよ? 主に、君と絡むようになってから」
「ほんとぉ? ふぅむ……君がお風呂に入りながらボーッと僕の事を考えてるってシチュ、いいね」
「どこからお風呂出て来たの……」
「『うふふ、明日はどんなエッチな悪戯しようかな? 彼のドギマギした顔見たいなぁ』とか、そんな事考えたり?」
「私と君のキャラをチェンジさせないで……普通に、『好き勝手させないようにしないと』って気合い入れてるのっ」
「くっ、だからいつも好き勝手出来ないのかっ、ガード硬いよっ」
「私、奮闘出来た記憶無いんだけど……?」
「まぁ言われてみたら僕も寝る前に君の事考えてるから他の奴らを馬鹿には出来んな。え、エッチな妄想じゃないからネッ」
「君が取り繕う基準が分からないよ…………ふんっ、どうせ、『私以外』の事も考えてるんだろうね」
プイッと、彼女はそっぽを向いて髪の先っぽをイジイジ。
やだ、かわいい。
「クンカクンカ」
「ッ!? なんで急に嗅ぎ始めたの!?」
「君の髪から火薬の匂いがね。あの花火のせいだけど」
「そ、そう。まぁこういう場ならみんな匂い付いてるだろうし……気にしないよ」
「むしゃむしゃ」
「なんで髪食べ始めたの!?」
「香ばしさが加わって味が変わるかなと」
「変わるって、元の味を知ってるみたいな言い方……た、食べるの禁止っ」
「口寂しさを紛らわすのにピッタリなのに。なら代わりにこの柔らかそうな耳とかうなじを頂く事になるが? (ツンツン)」
「んっ(ピクッ)……なんかチクチクするけど、爪伸びてる?」
僕の手を取り指先をサワサワし出す彼女。
「んー、そう? というかこの暗がりでよく見えるな?」
「外の明かりで大体把握出来るから」
そこまで明るくは無いんだけど……彼女のトレードマークでもある『瞳』の力を疑わざるを得ない。
暗がりでも妖しく光る、紅玉の瞳。
夜行性な生き物のように夜目がききそうなその瞳は、『夜の支配者』たるあのサキュバスを思い出させた。
「これ、オシャレで爪伸ばしてるわけじゃないよね?」
「ん。気付いたら切ってるね」
「なら今切っちゃおうか。踊るんだから身なり整えないと」
「誰も爪なんて見ないよぉ。ましてや外は暗いんだよぉ? というか、ここに爪切りなんて無いでしょ?」
「あるよ(スッ)。女子は基本、こういうの持ち歩いてるから」
「こまめだねー。ん? 女子……?」
「なんで疑問顔なの……ほら、手ェ出して」
「ふええ……積極的だよぅ、僕は攻められると弱いんだよぉ」
「つべこべ言わず手ェ」




