【二章】10避けてくる生徒会長
【二章】
1
「お、おはよう、ウカノ君」
先に口を開いたのは会長だ。
何事もなかったように、日常会話を切り出す。
「おはー。そーいえばさっきテレビで会長見たよ。朝にドラマ撮影してそのまま学校行くとか体力おばけだね」
「いや、あれは普通に前に撮影したやつだから。生でドラマ放映とかロック過ぎるだろ」
「なぁんだ。因みにあのドラマのエッチな回はあと何話先にあるのかな?」
「無いから! 朝からそんなもん放送出来るか! ……ま、全く。君には本当に乱される。そ、それじゃあ、私は学校に急ぐから」
「ーーで。いつから下に住んでたの?」
ダッ!
あ、走って逃げた。
「バカ正直だなぁ」
誤魔化す方法なんて幾らでもあるのに。
親族や友達の家に泊まってたとか、彼氏の家に泊まってたとか。
最後のはなんか許せんけど!
「ま、続きは学校で訊けばいいか」
逃げて行く会長の残り香が僕の鼻をくすぐる。
ウチのシャンプーと同じ香りだった。
ーー学校で会えるから良いや、なんて僕の考えは、あちらも想定済みだったようで。
「あっ、会長」
「ッ!」ダダダ!
廊下、生徒会室、お昼の巡回……
学校内では全て避けられる始末。
その光景には、周囲も『なんだなんだ?』と困惑していて。
あの何でも生徒の悩みを聞いてくれる会長が逃げ回ってる姿に、皆は僕に対して『何やったんだ』と畏怖した。
「アンタ何したの」とセレスは直接訊いて来たが、僕も「わがんね」としか返せない。
ーーそのまま、放課後。
今日は無理かなぁ、まぁ会長の部屋の前で待ってりゃええかぁ、なんて思いながら校門を出た時、
「あ、あのっ」
「ん?」
真横から声を掛けて来たのは……件のカヌレ会長。
「おぅ、丁度良いとこに。話があったんだよ」
「わ、私もだっ」
言いながら、挙動不審にソワソワする会長。
ソワソワし過ぎて乳が小刻みにシェイクしている。
何事かと他の帰宅生徒も僕らをチラチラ見ているが、会長にそれを気にする余裕は無い。
「す、少し、歩こうか」
「うむ」
並ぶように歩き始める僕達。
目的地でもあるのだろうか?
それともただのブラブラ?
どっちでもいいんだけどね。
そうして、気付けば若者が溢れかえる市内に。
その間、特に会話は無くって。
僕はふと、
「これ、デート?」
「ち、違うからっ」
「なら今からデートにしてやるよっ(ギュ)」
「はぅ!?」
無理矢理手を繋いでやると、会長はカチンと固まった。
ウブな反応。
僕は構わず歩き出す。
デートをリードするのは男の務めだからね。
「ッ!? ちょ、ちょっとこっち来て!」
「むぎゅ?」
唐突に会長に手を引っ張られ、抱き寄せられ、押し付けられ。
現在地は駅と繋がる若者向けな駅ビル内。
誰かから隠れるかのように、周りの死角となる壁へと誘導される。
ンフー、僕の口元や鼻と密着する会長の豊満な肉塊。
このクラクラする感覚の原因は、彼女の甘い香りか酸欠か。
「あ、あれは……化粧や髪型で変装してるようだが、風紀委員長……? アイツ、風紀がどうとか言っておきながら、隣に居るチャラそうな男をどう説明する気だ……? あ、あんなに胸を露出したような私服なんか着て……」
「ぷはっ、ふー。成る程、そういう状況ね。よく(エロ)漫画で見る展開だ。以外アンバランスに見えて上手くいくんだよ、あーゆうカップルは」
「そ、そうなの?」
「しっかし、その風紀委員長とやらも会長には劣るけど男の目を引く恵まれた体型してるね。思うに、あのセクシーボディ故に昔から嫌な思いをして育ったからこそ、それを身の回りだけでも正す為に風紀委員として活動して来たんだろうさ」
「う、うーん、一理ありそうだね」
「創作の風紀委員がスケベだったり風紀を乱すようなナイスバディなのもそういう理由だと思う」
「それは知らないけど……」
「ま、でも彼の前じゃあ堂々としてるのを見るに、そのコンプレックスは払って貰ったようだね。一体、彼はどんな手を使ったんだと思う?」
「ぅぅ……そ、それは……」
「顔赤くしちゃって、何想像したんだか。うーむ、しかし、変装か。良いアイディア貰ったよ。行こっか」
「え? ど、どこに?」
ーー服屋では、
「わぁ! お世辞抜きにお二人とも綺麗可愛いですねー……というか、こちらのお客様はテレビにも出てて……?」
「店員さん、我々は今プライベートなのだよ。先ずはこの子に合った店の服を見繕ってくれたまへ」
「かしこま!」
「えっ? か、買うのかい? (キョロキョロ)『この店の服』を?」
「そうだよ。普段会長が『着なさそう』な【民族衣装】の専門店だけど何か?」
「い、いや、買って貰う必要性が……第一、お金を出して貰うのは……ね?」
「気にしないで。僕は『お金持ちの坊ちゃん』だから」
「それは気にしない理由にならないんだけど……」
「はいはーい! コチラとかどうですかー?」
「ぅぅむ……アオザイ、チャイナ、ディアンドル……どれも職人が力を注いだであろう良い出来だね?」
「そりゃそうですよ! 私は中途半端なものは売りません!」
「一番『おっぱいボンッ!』な民族衣装はあるかい?」
「えーっとですねー!」
「ちょっと待って!?」
「なんだい?」
「い、如何わしい服は着ないからねっ。というか、何故に民族衣装というチョイスを……」
「そりゃあ目立つからよ。カヌレ会長には学校で僕をさけた罰として目を引く服を着て注目を浴びるという辱めを受けて貰わないと」
「それはゴメンて!」
「もぅわがままだなぁ。そんなにエッチな格好したくないのぉ? なら、【コレ】は?」
「こ、コレは……」
「お目が高いですねっ。お客様ならお似合いになる事間違いなしですっ」
「でしょ? 少し前までコスプレの定番扱いされてたけど、今は逆に一周回って新鮮だよね」
「そーですそーですっ」
「見てみたいなー、会長がコレ着たとこー」
「……明らかに譲歩的交渉術だよね」