91 会長(?)と裏シナリオ
ゲーム研究部自作の恋愛ゲーをしながら、部長の前でイチャつく僕達。
「ハハ、私からすれば、同志くらいの積極性と肉食性を彼(同じ部の助手君)に分けて貰いたいくらいさ」
笑いながら手をひらひらさせる部長の振る舞いは、どこか余裕を感じさせる。
「部長、そんなウカウカしてていいのかい? この(実在の登場人物をモチーフにした)ゲームの構成を見るに、彼には現実に他にもヒロインが複数居るんだろう?」
「ああ、手強い子達だよ。そのゲームは彼女達のクセの強さを表現出来てると思う」
「ふむ、確かに、こ慣れた文章だ。普段から趣味だかで物書きでもしてるのかい?」
「ああ。まぁ、趣味というか『ラノベ』で商業デビューもしているよ。同人ゲームもいくつか出している。ええっと……(スマホいじいじ)このラノベと同人作品、知ってるかい?」
「おー、見た事あるかも。どっちも結構売上凄いねぇ。ふぅん、プロかぁ。今やってるこのゲームも発売予定?」
「や、流石にモデルが身近に居るのは、ね。バレないとは思うけど」
「まぁ確かに、コレは『売れない』だろうね。『面白さ的にも』」
「……ほう。宣言通り辛口だね。理由を訊ねても?」
目を細め鋭い眼光を寄越す部長。
ヘラヘラしつつも否定されて熱くなるのはプロとしての矜恃か。
「ちょっと、ウカノ君……」と隣の彼女は止めようとするが、僕と部長は目を逸らさない。
「まず、だ。この子達はキャラが弱い。さっきも言ったように日常ラブコメを否定しないけど、にしたって中身が無さ過ぎる。作者の都合の良い操り人形(舞台装置)だ。助手君のキャラデザは見事なのに、学祭用だからって手抜いたの? あ、でも売れないってのは言い過ぎだね。『部長の信者』ならお布施的な意味で買ってくれるだろうさ」
「ふふ……矢継ぎ早に言ってくれるじゃあないか。まだ最後までプレイしてないだろう?」
「現時点で興味を唆られないとねぇ。『手を抜く』のは良くないぜ?」
「ほう。私の実力不足では無く、手を抜いてる、と評してくれるのかな?」
「これは明らかに作為的な『穴抜け』だ。野菜炒めに肉を意図的に入れてないようなもんさ。あるんだろう? このヒロイン達からワザと抜いた『バックストーリー』が……!」
「……どうやら私は、同志を甘く見過ぎていたようだ(ニヤリ)」
「なんですかこの台本がありそうなクサイ遣り取りは……」
ふぅ、と部長は首を小さく振り、
「君の指摘通り、私は意図的にヒロインのストーリーを抑えている。例えばこの幼馴染みキャラ。明言はしてなかったが、彼女には双子の姉が存在する」
「ああ、そういえば、幼馴染みキャラの部屋にはベッドが二つあったな。それが?」
「正確には『いた』。幼馴染みは自分を『死んだ姉だと思い込んで』生活してるんだ。自身を守って事故死した姉だとね。彼女が名乗ってるのは死んだ姉の名だよ」
「いいねっ、素晴らしいバックストーリーだ! ……(チラリ)」
「いや、(私達姉妹の)どちらかが実は死んでるとか無いですから」
「次にこの妹ヒロイン、実は義妹だ」
「うーん……好きな属性だけど、少しパンチが足りないんじゃ? (真)幼馴染みルートの破壊力に合わせるなら、寧ろ実妹で背徳路線とか」
「まぁ焦らないでくれ。実はこの義妹、助手君の本当の妹の『親友』でね。本当の妹はこの親友が原因(と自身を責めている)の事故で寝たきりになっちゃって。結果、親友は妹の代わりになるという、助手君への歪な贖罪を始めた。髪型も性格も、元気な頃の妹に合わせて、ね。本来の親友ちゃんは快活キャラとは真逆な寡黙キャラだよ」
「いいね!」
「トレース系多くないですか……?」
「次にこの後輩系ヒロイン、実は殺し屋で……いや、この話はいいか」
「面白そうなのスルーするねぇ」
「最後に、残ってるのは私だが……言うほど『恥ずかしいエピソード』はないんだ」
「今までのヒロイン達の悲しき裏事情を恥ずかしエピと一蹴する部長……流石だぜっ」
「というか、その中心にいる助手さんの存在が謎過ぎますね……」
「私が彼をおもって自らを慰めた話でもいれるかい?」
「エロゲ化するなら是非挿れたいね」
「他二人との温度差がひどい……」
「当然、成人ゲーム化の際には、絵師でもある助手君の為に参考資料的な意味でひと肌脱ぐのもやぶさかではないよ」
「物理的な意味でか。ふむ、そのシチュでワンイベント作れるね」
「描いてる最中、助手君が興奮してそのまま、か。まるで画家と裸婦との関係のようなエロスを感じるね」
「話が脱線してません……?」
「あとは、そうだな……恥ずかしい過去……黒歴史的な意味で言うなら、『助手君の父が原因で私の父が自殺したから彼を憎んでた時期がある』とかかな」
「いいのあるじゃねぇか……!」
「サラッと漏らす過去ですかそれ……」
言った本人はさほど気にした様子もない。
既に解決済みな過去なのだろう。