御堂家2
「よーとー?なんじゃそら」
父は赤眼の持つ刀を見ながらそう言った。
表情を観察する。なるほど、嘘はついていないらしい。
「槍…こんなやばそうな雰囲気なものを我が家にいれるとか頭どうかしてるの!?」
勘の鋭い母とどこまでも鈍い父。どうやら私は父に似て、妹は母に似たらしい。
スリッパで頭を叩かれながら父は首を傾げ続ける。
「つっても家の下に武器いれとくのは常識だろ?」
それは常識ではないし、そんな風習が稀にあったとしても妖刀の類を入れる家がどこにある。
「儂は知らん!」
「あんたが建てた家でしょうが!」
「ここに建てるって決めたのは儂でも、金槌持って建てたのは儂じゃないわ‼」
確かにそれはそうだ。
不器用な父だ。家を建てるなんて、剣が武道を辞めるよりありえない。
「赤眼。それはそうと、それはどうする」
「………」
私の目では只のぼろぼろの刀だ。
しかし汗だくになっている龍川や殺気を漂わせる妹の様子から見て、異常なモノなのだろう
「持って帰らねぇとな。これは。中に居すぎて会話にならねぇし、今の俺じゃ消せない」
「そもそも妖刀って何だ」
「定義はねぇよ。妖怪が封じられたパターンもあるし、付喪神がいるものとか、ただそう呼ばれてるだけのものとか。
これは斬られた人間の恨みだけが宿った、ある意味妖刀らしい妖刀だな」
なるほど。好奇心で触れていいものではなさそうだな。
刀好きの剣が一度も触らないだけある。
「凛。大丈夫か?」
「……いや、ちょっと、やばい」
「お前はほんと感受性豊かというか、電波がいいというか」
「人をね、スマホみたいに言わないで」
龍川凛は、妖怪や霊に好かれやすいと聞く。
よいことにも思えるが、それゆえに影響を受けやすい。
顔は蒼白になっており、今にも倒れそうだ。
「タツ。気合気合」
「…え?」
剣の手が振り上げられ、それが龍川凛の背中に向かう。
しかし、その前に彼の緑の目が光った
「・・・?」
寸前でとどまる剣。
「……龍川凛の力を知りたいと言っていたな」
「お?それがどうした」
「今の彼を本気で襲ってみればわかる」
父は生粋の御堂の人間だ。実力のない人間の話は聞きもしないが、私の言葉は違う。
私の言葉を聞いて間をおかず襲い掛かり、そして父は2部屋向こうまで吹き飛ばされた
「……おい、カガシ。相手は人間だぞ」
赤眼が刀から目を離さないまま、ため息まじりにそう言った
それに対し、龍川の声が帰る
「王。その刀は我が食らう。そう近くにあってはリンが壊れる」
「過保護すぎんだよ、お前は。心配しなくても凛はそのくらいじゃ潰れねぇよ」
「凛は自然と意識を手放した。それが無事というのか」
「ああ。お前がいるからな」
「………」
龍川凛、いやカガシと言うべきか。彼はゆっくりと歩き、吹き飛ばされた父のもとへ向かった
父は吹き飛ばされた先で受け身をとったようだが額から一滴の血を流している
「貴様に用はない。御堂槍」
カガシは間を詰める。
「大元へ我らを連れ行け。否定するならば5体満足ではいられんぞ」
母が唾をのむ。剣は狂喜に目を光らせた。
危機的状況だ。危機察知能力が低くとも、私は知的観点からそうわかる。
しかし父は違う。知識もなければ、感覚も鈍い。
「手前…。ひょろっこい野郎と思えばやるじゃねぇか。儂に喧嘩売ってんのか?」
ため息をつく。
ダメだな。話が進まん。
御堂家というのは、なぜこうも度し難い行為をするのか。時折理解できない。
「ぷげらっ!?」
しかし、それ故にやり易くもある。
「御堂槍。神に勝負を挑むとは無礼にもほどがある。
祖父にあわせろと言ったのは私だ。否というならば、私と勝負し負けてくれ」
「神に無礼というが、父親に何するんじゃ!手前は!!背中を踏むな馬鹿たれ!!!」
「身内に礼なぞ要らん」
後ろ手でコインを投げる。それを剣が捕えた。
「コイントスを。御堂槍、先に選べ」
「父さんと呼べ!!おとうさんと!!」
「私に勝てたらな」
父が叫ぶ。表と。ならば私は裏だ
つまらなさそうに剣がコインをはじき、難なくそれを手の甲に乗せた
「はい、裏。兄貴の勝ち」
「はぁ!?これで10戦10敗だぞ!?なんでだあああああああ!?」
それがわからないから勝てないのだ。父は
剣に渡した時点で、あいつが空中を回るコインの表裏を理解していないはずがないだろうに
たとえ剣が私に協力しないとしても、コインの飛んだ高さと回転速度から確率を出すことなぞ造作もない。
「早くしろ。御堂槍。電話だ」
「くそがぁあああああ‼」
父が受話器に向かって走り去る。母は土産の用意を始めた。
変な家




