犯人
「っくく」
赤眼は、貸している端末を揺らしながら笑った。
「犯人はお前なんじゃねぇかってさ。面白いな、人間は」
「私が?」
「被害者にお前の名前があったから、かの有名な御堂家ならばだとさ」
「………」
私、か。
力量を称えられるのは誉れとすべきだが、私が何でもできる人物だと認定されているならば困った話だ。
何故世間から国を相手にしているだとか、未解決事件を起こしているのが私だとか、私を殺すならば核兵器が必要だとか。
なぜそのような噂が立ったのだ。そこまで表立って動いてはいないはずなんだが、一部ではまだそう囁かれているようだ。
「剣は?」
「寝ている」
「……いつのまに」
「おまえの目の前にいただろう。気づかなかったのか」
「………」
なるほど。
影響は出ていると考えてよさそうだ。
それにしても、御堂家か。
「赤眼。私の実家に行く気はないか?」
「え。なんで」
「確かに御堂家ならば成し得ないこともできるからだ」
「…まさか本当にお前らがやったのかよ」
「私はしていないが、他はわからん。もし元凶でないとしても、古い武家の一族だ。
仮想データに残っていない知的産物は少なくない。剣を起こせ。さっそく支度する」
「今からか?」
「そうだ」
薄手のコートを赤眼に放り、適当な上着を羽織った。
「私の父と母はごく普通の一般人だ。当てにはならん。
古い知識となると本家大元を頼ることになる。
父に取り次いでもらうにしろ、私や剣がするにしろ時間はかかる。
ゆっくり待つ余裕はないだろう?」
「だな。でもコートはいらん。でかすぎんだよ」
赤眼はそう言いながら、ソファーで眠る剣に蹴りを放つ。
当たる前に飛び起き、剣も槍のような一閃をするが赤眼は腕でそれを抑えた。
「銀髪。殺されたいの?」
「ただの性能チェック」
納得したのか、軽快な動作で赤眼はひらりと窓枠に足をかけた。
「車ないなら他の乗り物だろ?俺、バスとか乗れねぇからバイク回してくる」
「そのまえに止まれ。ここは一桁の階数じゃないぞ」
「・・・・・・」
いつもの癖だったのだろうが、その体で20階建てのマンションから飛び降りるのは自殺行為だ。
「それに足ならある。車、飛行機、バイク、馬。どれがいい?」
「無難に車でしょ。一台で済むし」
「そうだな。用意する」
「おいちょっと待て。絶対におかしいものがあったろ」
「……そうだな」
「だろ?」
「飛行機は確かに効率悪いからおかしい」
「それじゃねぇよ」
何がおかしい?どれもスピードがあり、目的の達成に向いている。
おかしいもの……。おかしいものか……。
「うむ」
「…わかったかよ」
「そういえば人力車を忘れていた」
赤眼は何も言わずに玄関から出て行った。
馬だよ!!




