事後3
「なるほど。アカメ殺害計画はあながち失敗でもないのか」
「成功でもねぇがな」
事件から数日後。僕の家にはいつものメンバーが揃った
薙くん、剣ちゃん。朱鬼ちゃんにアカメさんだ
春だというのに未だにこたつに鍋を用意する
アカメさんって寒がりだよね
「あんたが一応でも生きてる時点でこっちの勝ちでしょ」
「勝敗でいくなら俺らの勝利だろうけど痛手がすごいから、あっちとしても失敗ではないんだよ。
大蛇が遊んだ時点であっちもタダじゃ済んでないだろうけどさ」
「八岐大蛇でもアレを屠れてないのか」
「あいつは人の創造の産物でもないし生きた妖怪でもない。
八岐大蛇っていう生き神が殺されて、今は単なる霊だからな。
強いことに違いはねぇけど、殺せるかっていったら話は別」
「ふうん」
「あいつは生物の殺し方は幾通りも知ってるけど霊の消し方は知らねぇよ」
そういうアカメさんはあの事件を終えて、もうこの家に3日いる
そう。3日
前にリミットと言っていた日数だ
「八岐大蛇がいるならスサノオノミコトもいるの?」
「色々説明すると長いから嫌だ」
「じゃ草薙の剣は?本物?」
「拒否!!」
こう話してると元気そうに聞こえるが、カガシが言うには相当負傷しているらしい
あれだけのことをしたのだから当たり前だけど
「はい。じゃ近況報告です」
鍋を平らげ、締めのおじやまでしっかりと食べつくしたアカメさんは湯飲みを掲げながら言った
「まず、婆が戻ってきます」
「ええええ!??」
僕は盛大に反応するも御堂家ふたりは興味なさげにお茶をすすった
そうだよね!知らないもんね!!
「まだ本調子じゃないらしいが峠は越したとさ」
「あああああ挨拶にいってもいいかな?」
「ダメじゃねぇだろうけど、婆は本来人間嫌いだからな。無視ってもいいと思うぞ。永久に」
これは朗報だ
お婆さんについて詳しくは知らないけど
霊界側で大きな力があると聞いてる
言い換えれば絶対権力者といってもいい
霊たちがなだれ込むのは止められてないのが現状だけど、お婆さんがきてくれたらそれも無くなる
………はず
「でもその代わり今回みたいな手は使えない。起きるはずのことを改変させるなんて婆が許すとは思えないしな」
「ほう?それほど無茶な策だったのか」
「在るべき形を変えるのは禁止されてる。
婆からすると何人死のうがどうでもいいし、どんな霊になろうが永遠に閉じ込めてやろうって考えだし。
なにより人間の世界で死んだことになってる伝説の生物をこっちに呼び出したとか…バレたら殺される」
アカメさんは具合が悪そうにこたつの机に突っ伏した。
なるほど。だから帰らないのか
「いや、だから帰らないんじゃなくてな。本題はそこなんだけど」
「うん」
「どうやら俺の体って、あちら側の力をこちらで使うと消耗するらしい」
「………」
アカメさんは手をグーパーグーパと動かし具合を確かめる
「こっちであちらの力使うほどに消耗してこっちで休んで、あっちでこっちの力使えばその分消耗するらしいんだ」
・・・・?
「銀髪。あっちこっちじゃ意味わからん」
「僕も」
「大丈夫。そのために薙だ」
まさかの丸投げの事態だが、表情ひとつ崩さず薙くんはうなずく
「まず、赤眼はふたつの世界に平等の時間を過ごす必要があるといった。
つまりはひとつの世界で活動することで、もう一方の世界でも活動できるようになるといえる。
その天秤が片方に傾くとバランスが崩れ、赤眼という生き物は不調をきたす」
ふむ
「人間側では霊側で作った体力を使って過ごす。そのなかで能力も使う。
過剰に使えばその体力が早く減るのは必定なことだ」
ふ、ふむ
「ということで、俺は今回人間側でものすごく力を使いました。使い果たすほど頑張りました。帰って休んだけど足りん。だから帰りたいです」
ふむ。なるほど。うん。
「早くもどらないとやばいってことだよね?」
「そうなんだけどな。戻りたいんだけど戻れなくなった」
「はぁ!?」
「ちなみに朱鬼も」
「ええええ!???」
咄嗟に朱鬼ちゃんを見る
あまり表情を変えない彼女だが、陰りのある目でうなずいた
「なんで」
淡々と御堂家兄妹は先を求める
「はい。続きはハクコ、よろしく」
”うん…”
ふわりと現れた白いきつね
やわらかい尻尾を力なく垂らし、悲しそうな顔をしている
「どうした?ハクコ。玉藻さんのとこにいたんじゃなかったのか」
”りん…あのね。霊界への道が閉じちゃったの”
「え?」
”わるいものがきたからとじこめられちゃった”
しくしくと泣きながらハクコが体を摺り寄せてくる
いや、ごめん。よくわからない。だけどいつも明るいハクコがこんなに…
「やっぱりなんだかんだで霊ってのはあちらから力得てるからな。
ハクコはさすがに消えたりはしないけど弱りはするか」
「ど、どういうこと?」
「俺や朱鬼とか妖怪とかは死んだ後に存在するタイプじゃないからまだいいけど、霊って呼ばれる死んだ後の存在はどんどん弱っていくだろうな」
「だからどういうこと!??」
気だるげに、億劫な目をしてアカメさんは言った
「どこの馬鹿がやったか知らねぇが俺ら側との繋がりを断ちやがった。
これじゃ俺も戻れねぇし、霊も成仏できない。
加えて俺は力が使えない普通の人間みたいなもんだ。
この3日間。徹底的にやれるだけやったが原因も、それをやった人間も、場所も。さっぱりわからん」
アカメさんは力なく両手を挙げて
「ヘルプ」
よわよわしくそう言った
稀に見る緊急事態です




