事故5
ずるり、と巻き付くなにか
ぬるり、と べたり、と
まっくらで 足元だけはまっか
電車が衝突した
それだけは覚えてる
急に景色が暗くなって、そしてぶつかったんだ
だから これは死後の世界なのかもしれない
ずるずる べたべた どろどろ
気持ち悪い 吐き気がこみ上げる
触手のような ツタのような
それらは体に巻きついて 撫でつけて
ずるずると ずるずると ずるずると
まわりで悲鳴が上がる 泣き叫ぶ
そこに女も子供も関係ない
笑い声が響く
狂った誰かの声か 人でない何かの声なのか
ダイジョウブ
コワクナイヨ
ダイジョウブダカラ
人ではない
こんな人間はいない
子供の落書きでもここまでひどくはない
悪臭と 異音と 未知な感触が
僕の体をなぞる
順番が きたようだ
きゃはあはははあっははハハハはははははははハハはははあああっはは
あっははははははははははははははははははあああっはははははははは
はははははははギゃぁっはっはああはあっはあっははははははははは‼‼
耳を貫くような奇声
崩れる体
まるで雪の塊のように
ぼろぼろ ぼろぼろ
叫んだ声が自分のものとは思えなかった
そのときだ
黒い何かが表れて
銀色の光が貫いて
痛みが消えて 音もにおいもなくなって
最後の最後に恨みがましい声だけが耳に残った
「これ、で、最後だな」
うっすらと開いた視界には血の海を作った青年がいた
「こんだけ血を流したんだ。使わない手はねぇよなぁ」
青年は赤い眼を光らせる。全身を恐怖心が貫き、そのまま意識は途絶えた




