事故4
ここは大きな駅だ
踏切に並んだ車は10台程度
炎が近く前方の車ほどに危険度は高い
既に炎が近づいているからだ
「兄貴」
車の上にひらりと飛び乗った妹
待て。その下に人がいるんだぞ
「怪我したんだ」
「咄嗟にシートベルトを外して飛び出したらな」
「バカなの?」
だが車内でつぶれるよりいい
可能性ではあるが、足がつぶされて抜け出せなくなることもあるのだ
「乗客、みんな気を失ってるね」
「あれの仕業だろう」
大きな事故とはいえ、本来なら後方車両に害があるはずもない
衝撃は緩和されるからだ
しかし乗客は全員気絶し、車はもれなくガソリンが漏れ出ている
これにより、爆発で殺す予定だったのだろう
「剣。爆発まで遅らせることはできても止めることはできない。全員助け出すぞ」
「車はどうやって開ける?」
「壊せ。私が引きずり出す」
あいわかったと剣は刀を手に炎に向かう
前方の車から手をかけてくれるらしい
私も行かねばならないが、どうにも体が動きにくい
「薙さん。お手を」
小さな少女の掌が重なる
なるほど。気配のかけらもないか
「シュキ。状況は」
「電車は赤目さんと黒妖犬さま方が対応しております
100%とはいかずとも十分な成果でしょう
懸念されるとしたら、あの赤目さんが無理をされてるところですが…
リンさんが向かわれましたので、良好するかと思われます」
「わかった。火の状況は」
「玉藻前様により食い止められておりますが、時間の問題かと」
「玉藻前。あれが九尾の狐か。3大妖怪までいるとは恐れ入ったな」
「薙さんや剣さんに見えるのは、おそらく化けていらっしゃるからでしょうね」
なるほど
だが、それでも起こりうる事実を止めることはできないか
「痛みを除きました。一時的ではありますが動けます」
「ああ。ありがとう」
効率よく動こう
長く動ける体ではないならなおさら
車の開放はすべて剣に任せて、私は救助に徹する
剣にやらせたら一人当たり骨の2,3本は折れる
「あ…」
隣の少女から声が漏れ、そして深々と礼をする
その視線の先を見ても、何も見えない
なんだかもやりとはしているが
「何かいるんだな」
「はい。ご無沙汰しております。都市伝説の皆様」
都市伝説
ああ、貞子やメリーさんといった怪談たちのことか
なるほど
「手を貸していただけるそうです」
「それは助かる。私からも礼を言おう」
はっきりと見えもしないが
「ここは彼女たちに任せていいそうです。怪我をしている薙さんは下がって待機を」
「わかった」
朱鬼はその都市伝説たちと車へ向かい、すぐに車から人が引きずり出された
非人道的な方法だが死ぬよりかはいいだろう
「兄貴。暇になった」
「そうだな」
一気に車の天井が吹き飛んでいく。剣のやることもなくなったらしい。
「…なんか知った匂いがする」
険しく、それであって嬉しそうな目つきをする妹を放っておいて体の調子を確かめる
アバラが2本程度か。朱鬼は若干の治療効果もあるらしいが侮れないな
「兄貴。暇だからさ」
あんな事故で上位の霊が憑いているわけでもないのに無傷な妹は、
怪しくにやりと笑った
「元凶の悪霊。退治しに行こう」
聴かなければよかった




