戦争・新
おねがい
おねがいたすけて
あついよ
あつい
くるしい
みんなおばけみたいだ
川が死体で埋まってる
熱い
おなかすいた
皮がだらってなってる
こわいよ
こわい
飛行機の音と
爆発の音と
燃える音と
泣く声とうめく声
もういやだよ
いやだいやだいやだ
わすれたらだめだ
繰り返さないために
でもこわいよ
忘れたいよ
ずっとずっとこわい
たすけて
だれか助けて
おかあさんをたすけて
おねぇちゃんをたすけて
いたいよ
いたいよ
「さき子」
あつい いたい
忘れたらだめだ
こわいよ
こわいこわいこわい
おじさんも溶けちゃった
おかあさんは?
おかあさんはどこ?
「さき子。頑張ったな。もう休んでいい」
だれ?
やすむ?
だめだよ
あぶない
おにーちゃんもあぶない
あたし頑張るから
にげて
あついよ
「大丈夫。俺は大丈夫。もう戦争は終わったんだ。
お前ももう楽になれ。俺についてこれるか?」
いやだ
いやだよ
おかあさんを助けないと
くるしい
くるしいよ
たすけてほしい
でも忘れたらだめだから
苦しかったことを覚えてないと
「母親も死んでる。命は助かってないが今は苦しんでない。
だからここにいる理由はないんだよ」
ああ
お母さんたすかったの
いたくないの
よかった
よかったよ
「道がみえるか?」
おねがい
道はみえない
眼がやけてしまったの
道も家もやけてしまったの
おぼえていて
わすれないで
苦しかったことわすれないで
「・・・」
いっぱいいたの
いっぱい痛かったの
くるしくてつらくて
死にたいほどいたかった
忘れないで
忘れないためにいるの
ここから動けないの
苦しい
痛い痛い痛い
「さき子。おまえは責任感がつよいな。それで動けないのか。
もう戦争は終わったし、人間も忘れないように努力してる。
役目は終わってるんだよ。
お前がここにいなくても、人間は忘れねぇから」
おにーちゃん
いたいよ
頑張るけどいたいよ
くるしい
あつくてたまらない
「もう大丈夫だ。大丈夫だからな」
・・・おにーちゃん?
まっくらだよ
なんだか こわい
こわいけどいたくない
熱くもない
おにーちゃん
ありがとう
助けてくれたんだね
お母さんもあたしも助けてくれたんだね
ありがとう
少しこわいけど痛くもあつくも苦しくもないよ
「ああ。お疲れ様」
忘れないのも必要だけどさ
忘れてやることも必要だと
俺は思うよ




