真名
「集まってもらって悪いな」
凛の家に全員が集まった。
龍川凛、朱鬼、御堂薙と御堂剣。
人間界における、人間の協力者たちだ。
「どうしたの?改まってさ」
「一応な。協力してくれるんだから俺も色々説明しとかないとって思って」
凛の作った鍋に箸をいれる。
ぐつぐつと温かい音が響いた。
「俺は、管理人。霊や妖怪の棲むあちら側の管理人だ」
「もう知ってる」
「はい、そこ。口出すのはやい。ネギでも食ってろ」
剣は黙って豆腐を口に入れた。熱さで悶えている。
「霊や妖怪の類は人間の世界に腐るほどいる。ただ、こちら側の生き物に迷惑かけてねぇだけだ。俺が取り締まるのは実害を及ぼす奴らで、目的は俺らの存在を明確にしないこと。あくまで曖昧な朧気な存在であることだ。
だから、人が死んだやら怪我しただとか、そういう誤魔化しがきかない害は好ましくない。
そういう問題な霊に関してはあちら側に叩き込んで閉じこめる。成仏してもらう。それでも無理なら消滅させる。方法としてはこの3つになる」
「成仏と消滅の違いは何だ」
「口出ししないと気が済まない血筋なのかよ、お前らは。成仏は輪廻に還るといわれてる正規ルートだ。だが消滅はその場で終わり。消えるだけだ」
俺としては消滅させるのは好ましくはない。
正規の楽なルートを踏み外してまで生き残った奴を無暗やたらに消したくはない。残ったなら残るだけの理由があると思ってる。
が、これは俺の考えで人間の考えではないな。
実害という範囲も、ただの体調不良だとか夢見が悪い程度ならどうとも思わない。恨みがあるのに恨むなという方が無茶な話だ。精神壊すまでやったりだとか、死ぬことを誘導しだしたら話は別だけど。
「お化けってどんなやつがいるの?」
「どんなやつ……色々いるが大まかにいうと、単純に死んだことに気づいてなくて彷徨う霊とか恨みだとか理由があって成仏せずに残った霊、あとは意思も何もかもがぐちゃぐちゃで何も選べなかったやつかな」
霊はいいんだよ
どうやっても所詮は死んだやつ
強い、弱いなら、弱い部類だ
ここは生者の世界だからな
「妖怪に関しては屈服させるか、殺すかの2通り」
朱鬼が頷く。
妖怪ってのはもはや別の生き物だ。霊のように弱くないし、死んでいるわけでもない。あいつらは基本的に弱肉強食の生き物だ。
「妖怪ってあたしでも殺せるの?」
「できるだろうよ。見えればの話だけどな。あいつらは見えないようになってるだけで、霊とは違って体がある」
そこ。猟奇的な目をするな
「それ踏まえて今回の失態。これは俺がやらかした」
呪詛のかかった霊を、人間の非道な方法で消されようとした霊を、俺は助けようとしてしまった。
助けるというか、例に倣って消すしかないのが嫌だった。
わざわざ死ぬ以上に苦しませて化け物にして、成仏すらなく消されるなんていいこと一つもねぇからさ。
まぁ、それが原因でコレだ。
俺の力が落ちたせいで管理が行き届かないし、
あちら側を封じる役目をしていた婆がいないせいで一筋縄ではないかない奴らが溢れだしている。
「ばか」
「はい。すみません」
正直朱鬼には一番迷惑をかけた。
必死で妖怪連中を説得して、あちら側が荒れないように動いてくれた。もしも妖怪まで流れ込んでたら手に負えなかっただろう。あいつらの本筋はやっぱり人を喰うことにあるからな。
朱鬼の体は人間の身だ。純粋に体力的に辛かったはず。
「あの土砂崩れも赤眼が原因ということか」
「ぶっちゃけそうです」
アレは、本来こちら側に流れるはずのないものだった。
婆の管理していた……山の神とでも言おうか。神といっても怒りの神だ。
山を削られた痛み、生き物の悲しみと恨みの集合体。
正直山が一つ崩れたくらいで済んでよかったとさえ思えるほどの大物だ。
「銀髪のせいでもないでしょ。怨霊かなにか知らないけど、そいつに負けた奴が悪い」
剣は相変わらずだな。
火山が爆発しても、火山の熱に耐えきれなかった奴が悪いって言うのかな。こいつ。
「それを踏まえて、いろいろ動かないといけない」
指をたてる。
「まず、あの鹿。あれの始末は最速でやらねぇと、ごまかしがきかない程の被害がでる。
今の所は災害で済んでるが、次はどうかわからない。俺らのような存在が確定付けられるのだけは絶対に避けないといけねぇ。
これについては、悪いが凛。お前が頼りだったりする」
「……僕っていうか、カガシだろ?」
「あとハクコもな。山の怒りは山の生き物が鎮めるしかねぇんだよ。
アレに関しては、俺がやるなら殺す気でいくしかない。勝てるかどうかも正直わからん」
「そっか。了解」
あっさりと凛は了承する。
いつもそうだが、こいつ嫌がらねぇのかな。
「次に、呪詛。これの解決。
あんなものがあるから色々乱れるんだよ。消しちまえ」
あれが原因で霊が荒れる。
あんなやり方だ。霊がこぞって怒って暴れだしたら手におえない。
ということでこれも急いで頑張ろう。
「あとは他にも大物の霊やら妖怪やらはいる。それぞれの対処。こんくらいだな」
言うのは楽だが、正直一つ目だけで吐き気がするほどキツイ。
俺は無敵でもなければ、最強でもない。普通に死ぬ生き物だってことも最近知った。
そんな中で、あの山神みたいなのが他にもいるって考えると過労死しそうだ。
…いや、神じゃねぇな。神じゃない神じゃない。
人間がそう崇めるせいでそうなっただけの、単なる霊体だ。ちょっと強くて恨みばっかが寄せ集まってるだけの。
神とか言うから気が滅入るんだな、うん。やめよう
神はいない。存在しない。
いるけど、この世界にはいない。
あいつらは傍観者だから。
「やっぱり調子悪いんでしょ。休めば?」
攻撃力のみ特化の剣
「今日は銀髪ですらないな。その山神と戦うなら休息も必要だろう」
ちょっと意味のわからない生き物の薙
「……大丈夫?」
守護と浄化に長けた朱鬼
「アカメさん、鍋食べて。おかわり作るから」
そして、俺の要望にいつでも応えてくれるオールラウンダーな凛
「……」
しょうがねぇわな。やるしかねぇんだし、元はといえば俺が悪いんだし。
巻き込んだからには、きっちり守りながら仕事をこなしてやる。
「じゃ、契約するな。お前らと」
「「「「は?」」」」
「実は最近死にかけてやっと俺が何なのか理解したんだわ」
「「「はぁ!???」」」」
力を宿す。髪が銀髪になり、瞳に更に力が宿る。
「俺が生きている限り、お前ら4人の命は保障する」
これは礼儀だ。俺の問題で巻き込んだ奴らを、俺が出来る限りは守ろう。
こいつらが死ぬくらいなら俺が死んでやろう。それくらいは、すべきだ。
「は?なにそれ馬鹿?籠の中で遊んで何が楽しいのさ」
「ちょっとそこの戦闘狂は黙れ」
「死にたくはないけど、安全圏で頑張ろうとは思ってないんだけど」
「え。凛までケチつけんのかよ」
なんだよ。この人間どもは。
人間って命大事な生き物じゃないのかよ。
「赤眼。不愉快だ」
「御堂家ふたりは言葉選べよ!!」
大丈夫。朱鬼は違う。小さいときから見てきた可愛いやつだし
「赤目さん。守る、は、わたしの仕事」
朱鬼はそう言って恥ずかしそうに笑った。
……なんだよ。ほんと。調子狂うな。
「…じゃ、訂正。みんなで頑張ろう。俺も頑張ります」
「素晴らしい契約内容だな」
ほんと黙れや、御堂兄
まだ終わりじゃねーよ
「俺の名を告げる。俺の側で何かあれば、俺の名前をだせ。
結構な加護になるし俺にも届く。やばそうならすぐに駆けつけるから」
「アカメじゃないの?」
「あれは通り名。本当の名はあんまり呼んだらいけないらしい」
「それってヴォル……」
おい、凛。魔法使うハゲじゃねぇよ、俺は。
杖持ってないし眼鏡少年を殺そうとも思ってない。
一呼吸おく。
誰かに名乗るのは初めてだな。
「俺の名は、鬼叉羅銀」
空間がひび割れる。凛と朱鬼の顔が青ざめ、勘の鋭い剣の眉がぴくりと動いた。
なるほどな。人間の世界で名乗るには少し強すぎるか。
「俺は人間でも妖怪でも霊でもない。数百年ぶりに生まれた新しい魔王だ」
ということで改めてよろしく
改めて
宜しく




