御堂兄妹
御堂薙
御堂薙とは僕の同級生だ。
モデルのような高身長と中性的な顔立ち。スポーツも勉強も何でもできた。もちろん女性からの人気は高い。
彼は不思議な人間だった。
どんな物言いをしても納得させられる不思議な声色。高い順応性からかできないことはなかった。
ただし、感覚的なものが鈍い。どうしようもないほどに。
「付き合ってください」の言葉には「どこに?」と答え、
「好きです」の言葉には「ありがとう」とだけ答える。
人から向けられる感情に鈍すぎるのだ。
それだけではない。彼はどうしようもなく感覚も鈍い。
小学生のときは犬に腕を噛まれたまま登校し、中学のときは交通事故のことをこけたと言って体育の授業にでた。
ちなみにそのとき足が折れていたそうだが、バスケで最多点数を獲得していた。
どうしようもなく鈍いが、どうしようもなく完璧だった。
彼には年の離れた妹がいる。
御堂剣。こちらはどうしようもなく敏い子供だった。
雨が降ることを察知するのは当たり前。告白される前に断りをいれ、人に触れられる前に振り向く子供だった。
あまり人との関わりを持つことのない物静かな子ではあったが、そつなく無難に何でもこなす。
その子は敏いだけではない。
ものすごく凶暴かつ強かったのだ。
「剣ちゃんって…」と言われた瞬間殴る。「おまえさー」と言われた瞬間蹴る。
彼女にはその後続く悪口が先んじてわかっていたのだ。
そして諦めない。相手が泣くまで止めない。そこに先生がいようがいまいが関係なかった。
小学生の女子が中学3年生の男をタコ殴りにして、がくがく震えて泣いていたのが中学生の方だったんだから印象は強烈である。
どうしようもなく敏いが、どうしようもなく凶暴。
どうしようもなく鈍いが、どうしようもなく天才。
これが御堂兄妹である。
彼ら御堂家はどこかおかしい。
僕は、薙に家のことについて聞いたことがある。
御堂家は武家で、鎌倉時代くらいから続いている。でも名を残した武者はいないのだ。
子孫に武具の名前をつける風習があり、必ず子供は2人以上産まなければならないようだ。
30歳になるまでに相手が見つからなければ、分家や他の武家から子孫を残す相手としてつれてくる手取りになっているらしい。
いい相手がいないなら子供だけは残せ、という感覚に近い。
僕は尋ねる。それは何故かと。彼はあまり表情のない顔で淡々と言った
御堂家はどこにも属さない孤島のような家だ。あの家は己と家の勝利しか考えていないからな、と。
彼や妹である剣が時折口にだす言葉がある。
―御堂家に敗北は許されない―
僕は彼がそう言って、暴走族15人を相手に大立ち回りをしてみせたのを覚えている。
妹が先生に怒鳴られながらクラスメイトを殴っているときにぶつぶつとそう言っていたのも知っている。
御堂家は
「え。なにこれ。こんな自己紹介ある?」
「わかりやすいと思ったんだが」
僕の寺に来てくれたのは御堂薙。妹の剣ちゃんは学校があるからと今は不在、夜には後から来るらしい。
彼は自分のことを伝えるためにとこれを持ってきたのだ。
え?もう一度言うけどナニコレ。
「私が説明するよりも簡略化されていてわかりやすい」
「君の同級生、君についてレポートしてたの?」
しかも途中で途切れてるし。
「剣が見つけて取り上げた」
なるほど。南無。
それにしても意外だ。
薙くんは、戦闘とは縁のないモデルのような見た目だ。線も細いし色だって白い。
暴走族相手に大立ち回りってまじかよってなる。
色々と鈍いのは納得だけど。自分の腕が折れたり潰れたりしても平然としてたらしいし。
鈍いけど、精神力鋼だよね。うん。気の持ちようで幽霊見えるようになるとか実際ありえないし。
薙くんにかかると、気の持ちようで何でもできてしまいそうで怖い。
剣ちゃんは…まぁ納得。
あの子も見た目はモデルみたいな高身長で大人びた顔してるけど、強そうと言われれば強そう。弓道とか似合いそうな雰囲気。
実際は大斧振り回しちゃったりするらしいが。
異界のモンスターに出会って逃げるでもなく立ち向かっちゃうんだから、あの子も精神鋼だよな。
うん。御堂家は精神鋼。
「私はともかく剣はおかしい。時折人間じゃないのではないかと思う」
妹に酷い言い方だな!
「武において、本来強者と戦えば負けたところでそれを越すために人は努力するものだ。だが、剣が相手だと違う」
「…要するに悔しさをバネにするってことだよね。違うというと?」
「あいつを相手にした武者は一人残らず、武から手を引いている」」
…?
「黒帯まで上り詰めた柔道家、オリンピック記録保持者、日本一位…。剣が相手にした全員が、同じ道を歩むことはせずその場で下りた。
指導者にすらならない。完全に違う道を選んでいる」
「……なんで?」
「私にはわからないが、あれが言うには植えつけた恐怖が消えないんじゃないかと笑っていたな」
まじで怖いよ剣ちゃん。
「私も武道の試合に負けたことはないが、あれのようにはいかない。
最後には試合として礼があり、感謝や対抗心がある。私の技を認めて、完敗だと笑う者もいた。
だが、剣が試合を行えば相手の意識が無い事の方が多いが、あったとしても一礼する余裕すらない程に泣いて逃げ出してしまう」
「………」
「おそらく私の家の者だけだ。剣と試合して平静を保っている人間は」
そりゃ霊も消飛ぶわけだ。たぶん怖すぎて成仏するんだろう。
こんな世界もういやだ!怖すぎだろ!サヨナラ!!!って。
「龍川。気を付けた方がいい。あいつは時折思考すら読むからな」
「……はい」
「私も人並み外れていると指摘されるが、正直妹はそれ以上だ」
……いや、どうかな。それは。
聞いたよ?土砂崩れから自力で這いあがったとか、幽霊見えるように自分でしたとか。
例の駅では体死にそうになっても、死なないはずって考えで生き残ったんでしょ。
それに頭良すぎてチャットの異常事態にもすぐに気付いたみたいだし。
うん。君ら二人はちょっとずれてるんだね。よし。
「僕が普通に思えてきた」
「蛇神を守護霊につけて神使を友のように扱う人物が何を言う」
え。でもな。僕はやっぱりバックが強いんだよ。ハクもカガシもアカメさんも。
僕自身は大したことないもん。
「凛、気づいてなかったのか」
ここで急にアカメさん登場。いつの間にこたつ入ってんの。
「お前って人間だけど霊に近いんだよ」
「…………」
「霊っていうか、妖怪?」
「…………………はぁ!????」
なにそれ初耳なんだけど!!!
「死ぬはずだった、カガシが守護して生き延びた。実はこういうことが10000回以上起きてる」
「まじで!!!?」
「だから生きてるけど、本来なら死んでる。運とかそういうレベル超えてな。
正直、お前の記憶消したことないのも消えないからなんだよ」
「……」
「記憶消去は、人間にしか使えない」
「………」
「それもあって凛は霊や妖怪に好かれる。だからお前の言う事聞いて成仏もしてくれる。霊や妖怪も手を貸してくれる。
つーか俺がただ視えるからってだけでここまで巻き込むかよ。OK?」
「…………」
OKなわけあるかーーーーーー!!!!!!
「人間のくせに、霊を成仏させるのも消滅させるのもできるっておかしいだろうがよ」
「うっせ!!」
「カガシみたいなデカイ霊を体に宿してほぼ無影響とかおかしいだろ。あと、ハクコがお前のとこに来た時も俺なんもしてないからな」
「いろいろしたって言ってたじゃん!!」
「しようと思ったんだけど、しなくてもするするできてたから結局何もしてない。ハクコとカガシの力の使い方だけわかりやすくしただけ」
なにそのカミングアウト。今更すぎないかな!?
てか僕ってそんなに死にかけてたの!?ありがとうね!カガシ!!
「凛はたぶんいくらでも守護霊増やせるよ。器に制限がない。まー、気に入られたらだけど。嫌われないから増えるかもな」
「いや、いいよ…。もうカガシがいるもん…」
ちなみに御堂家2人は守護霊がつくことは絶対にないとのこと。
霊たちも必要性を感じないよね。うん。
「ということは赤眼に関わる人物は至って通常ではないってことか」
「まぁな。でも御堂家2人は、人間としては異常かもしれねぇけど、こちら側としては只の人間だからな。
俺や霊のことをすぐに忘れるし普通よりもこちら側とのつながりは薄い。なにせ俺が思い出させてやらなきゃ二人とも知らないままだったわけだし」
異界に行ってモンスターを何体も狩った剣ちゃん、死体の山を見ながら自分の腕がつぶれたり折られたりする経験をした薙くん。
どちらもきれいさっぱり忘れられるって逆にすごい気がする。
「もうすぐ朱鬼もくる。あいつ少し喋れるように、この寺改造していいか?」
「アカメさん側みたいにするってこと?別にいいよ」
「あとカガシ。お前は姿だすなよ。剣が暴れそうだから」
カガシ。絶対に出てこないでね。お願いだから。
いや、負けるとは思ってないんだけどホントやめてね。怖いから。
「それにしても、なんで僕のとこ集まったの?」
「寒いから鍋食いたいなって思って」
待て。材料ないから。
急なその大人数対応できないって。
アカメさん人より食べるの自覚してないのかな?
「あと、顔合わせと説明。これから忙しくんなるから」
そう言ってアカメさんはこたつに潜っていった。
鍋がすき




