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魔王の手帳  作者: Karionette
零章 アカメの日記帳
35/219

見舞い


「凛さん」

「朱鬼ちゃん。久しぶり……。というか声!」

「はい。人の世では体の問題ですので声は出せませんが、精神の世界であるここでなら違います。とはいっても、わたしもここにくるのは初めてですが…」


辺りを見渡すも何も無い

あの後電話を切ったら、急にコレだ

迎えを寄越すと言ってたけど、それは朱鬼ちゃんのことだったらしい


音もなく匂いもない

肉体の概念がないからか、腕を触ったつもりでも感触はなかったし呼吸もしてない

見えるものは朱鬼ちゃんだけで、あとは暗闇のみ

深い深い水の中にいるみたいだ


「朱鬼ちゃんはいつもこんなとこで生活してるの?」

「いえ、わたしの居場所は妖怪たちのような生者の居場所ですので、人間の世とそう変わりません。景色もありますし、体があるので呼吸も感覚もあります」

「それならここは死者の都ってとこなのかな」

「居場所であることは間違いありません。精神世界ですので、思考することが行動となります。赤目さんのもとへ行きましょう」



上も下もない

進んでいるかどうかもわからない

そのなかを「アカメさんの所へ行く」という気持ちだけを持つ

これだけでいいらしい


「着きました」


そこにあるのは大きな門

重々しいそれは人の力で開くものとは思えない


重々しい扉は人の力で開く大きさではなく、拒絶されているみたいで僕とは住む世界が違うのだと言われているようだった


「入ります」


朱鬼ちゃんが扉に触れる

それだけで扉はゆっくりと開いた


ここにアカメさんがいる


中は今までのような真っ暗で何もない空間とは違い、簡素な家具がある小さな部屋だった

そこの中心にいたのは、銀髪の青年

サンドバックを殴りまくる青年だった


ん?

えっと、もう1回


サンドバックを殴りまくる青年だった


「アカメさん!?????」

「あ?え。凛と朱鬼!?なんでここに…」


え。なんでだ

なんで死にそうって言われた人がトレーニングしているんだ

意味が分からない


あれか。だまされたのか

いや、それならそれでいいんだけど


とか混乱していたら、隣の少女がつかつかと歩み寄りアカメさんに突撃した


「ばかばかばかばかばか!!赤目さんのバカ!!わたし死んじゃうなんて知らなかった!あんな呪文で死ぬなんて知らなかった!知ってたら、あんなことさせなかったのに…。

赤目さんも赤目さんです!命をかけてまで、死んだ人を助けてどうするんですか‼いつも言ってますよね!生きている者が優先だって!」

「お、おう……」

「それに何してるんですか!!傷だらけだったでしょう!命に関わる重傷と聞いています!なに動いているんですか!じっとしてください‼」


身長140くらいの少女に引きずられるアカメさん

真ん中にあるベッドへ投げられる

精神世界では体の大きさも筋力も関係ないらしい


「わ、っと。朱鬼、落ち着けよ。じっとしていようが変わらねぇんだって。それに俺もあんなんで死にかけるなんて知らなかったんだよ」

「いいから動かないで‼‼」

「……はい」


有無を言わさぬとはこういうことか

女の人って怖い


「わたしが知っているのは傷だらけで回復もしない赤目さんが最後です。あの時は無理やり帰されましたので以後を知りません。

状況を教えてください。今の赤目さんは、どんな状態なんですか?」


ベッドに押し倒されたアカメさんはそのまま考え込む

ちらりとこちらを見てきた

救いを求められた気がしたけど、僕は首を振る

僕だって知りたいのだ


「…死にかけてるのは本当。ここは精神の世界だから、そもそも死ぬっていう概念がない。

だから存在はしてるが…よくわからねぇが、壊れていってる気がする」


アカメさんは大きなため息をつく


「霊を壊す呪文だった。あれで、俺が消したあいつは、壊れた。霊は死んでるからもう1回死ぬことはできない。どんな痛みだろうがな。

あの呪文は、それを…普通なら死ぬからできないことを、してた。

結果、あいつは狂って恨みに染まって、人に害をなす怨霊になったんだよ」

「それは…わたしも立ち会いましたから、わかります。あれはひどい行為でした」

「あいつはあんな奴じゃない。人を恨んでないし未練もなかった。

ただ、成仏ってかたちで消える勇気がなかっただけだ。だから、助けたかったんだよ。俺は。

やったのは肩代わり。痛みがなければ、あいつも戻れると思ったんだがな」


霊を壊す呪いの、肩代わり

だからアカメさんも壊れ始めている


「でもなんでそんな呪文があるんだよ」

「簡単だ、それは。ああいうのは単純に、霊を消すためにある」


…は?


「人間にも霊が見えるやつはいる。凛みたいにな。

人間からすればそこにいる霊が"消える"のも"去る"のも変わらない。

その場からいなくなれば解決だ。

だから、手段なんてどうだっていいんだよ」


「でもその呪文で消えることはないんでしょ?霊は死ぬことはないから…」


「結果的に消えたじゃねぇか」


僕は息をのんだ

そう、結果的にその霊は消えた


人に危害を与える存在になって、アカメさんが消すことによって


「ああいう本物は存在したら駄目だ。消し去らねぇと、こっちのバランスが崩れる。

俺に消させることで解決する呪文も呪具も全部いらねぇ」


アカメさんから怒気がにじむ

アカメさんができることは、成仏するよう誘導することと、消し去ることだ。

その消し去るという行為は、人でいうなら殺すこと

霊とはいえ、確かに存在しているヒトを邪魔だからと殺すことだ


「…まぁ、今回は俺の判断ミス。まさか俺にこんな影響あると思わなかった。

痛みくらいなら引き受けられると思ったんだけど、壊れるのが全然止まる気がしない。

それに、人間と違って俺みたいな奴は2人といないからな

肉体と精神とを行き来できる。どちらにも存在できるモノ。

だから、どうなるかなんて…婆にも俺にもわからねぇんだよ」


アカメさんはそう力なく言った。




壊れる

崩れる


これが、俺にとっての、死ぬってことか?



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