悪夢
泣いても、叫んでも
地獄が終わらない
誰も守ってくれない
誰も助けてくれない
ここはどこかも
アレがなんなのかもわからない
ずるずると聴きなれた音が近づき
ぴたりと私の前で音を止める
ロッカーの後ろに隠れた私に、アレは気づくか
それとも開け放たれて同じことが繰り返されるか
苦笑する
結果は、もう何度も、体験した
ロッカーがなぎ倒される
鍵すらしまってない扉から衝撃で飛ばされる
冷たい床に顔から倒れ込む
悲鳴を上げる
そして見上げる
顔の左半分が焼けただれ
髪がところどころしか生えておらず
右目は真っ暗で
右半分の唇がなく骨が剥き出し
胸の中心がまっすぐに切り裂かれ
内臓や筋肉が丸見えで
ゆっくり迫る手には骨が突き出ていて
腕も足も、おかしな方向へとねじ曲がっている
そんなアレは、倒れた私に覆いかぶさる
そして血の味がするキスをし
どろどろになった舌を口内にいれてくるのだ
私はもがく。アレをどけようと力をいれる
しかし私の手はアレの体にふれると飲み込まれるように消えて
脚で腹を蹴るとその内臓の中にずぶりと埋まっていく
悲鳴をあげる
手も足もなくなった私をアレは容赦なく犯す
終われと願う
口内や体の中を蹂躙されても願うのを止めない
それに反するように私の体は徐々にアレに呑み込まれていく
「今日はコレデおしまイ」
しわがれた老婆のような声を最後に私は目を覚ます
ベッドの上で、手も足もある現実へと帰る
しかし、腹の中に感じたどす黒い感覚と、穢されきった口の感覚は消えない
何度も吐き、何度も泣き、腹を殴り、叫び叫び叫び叫び……それでも消えない
これが、毎日続く。毎日1から始まり少しずつ先へと進む
ロッカーの中で恐怖に怯え、抵抗した挙句に手も足もなくし
体内と体内が密着し、口がつながり、今日は私の舌が飲み込まれた
やがて私は消える。アレにすべてを飲み込まれる
今日で1週間だ
薬も効かない。寝ようとしなくても決まった時間、0時になると寝てしまう。
もう嫌で死にたくなった。自殺しようとした。そうなると、寝かされる
そして繰り返しと続きが始まるのだ
私はあきらめた。今から眠って、アレに呑み込まれようと思う。
もう疲れたのだ。怖がるのも、抵抗するのも、繰り返すのも。
何度いっても精神疾患だと言い切った先生と家族に、この遺書を残す
ロッカーに隠れている
アレが来て
私を引きずり出して
口の中を蹂躙されて
やめろと手を突き出して呑まれて
足を伸ばして飲み込まれて
犯されて、犯されて…
舌がなくなっていく
口がつながっていく
いやだ
こわいこわいこわいこわい
胸が繋がる
腹が繋がる
アレの足りない内臓を取られる
アレに皮膚も筋肉も肉も取られる
こわい、いたいいたいいいたいいたい
あたまがやききれそうな
内臓をかきまわされているような
痛い、繋がる、気持ちイイ、繋がる、気色悪い、繋がる
むさぼられて、むさぼって、喰って、喰われて
繋がる、繋がる、繋がる、繋がる、つながる、tながる
私かワタシか、なにが、なんだか、わからなくて
気持ちよくて、怖クテ、嬉しくて、痛くテ
足りない物が埋まった充実感と、奪わレテいく喪失感ガ
混ざって、混ザッテ、混ざって、混ざtttt
そこニ銀色のナニカが来タ
ワタシを引きはがし、私をぐっと抱えラレる
どくんどくんと心臓ノ音が耳に心地よクて、涙が溢れテきた
銀色の髪のカレは、私ノ名前を呼んダ
何度モ、何度モ、何度も呼んだ
私は、どこにも繋がってなくて、私一人で、彼に守られていた
銀色の彼は、アレの見た目に恐れることもない
吠えても、鬼の形相で睨んでも、臆することもない
そして、黒いなにかがアレを飲み込んだ
その瞬間に、私は目をさます
見慣れた病室の隣には青年がいた
見たこともない赤い眼の青年は、私の額や唇、下腹部を指でなぞる
私は抵抗なんてことも考えられず、吸い込まれるように赤い瞳を見つめていた
「ゆっくり眠れ。今日は傍にいてやるから」
彼はそう言った
遺書に続きを書くなんてばからしいけど
私は生きているし、今は怖い夢を見ていたという感覚しかない
内容も覚えているけど、きっと忘れていくんだろう
彼が言うように
遺書は取り消し、彼に渡す
死ぬ覚悟した書を丁重に葬むってもらうのだ
そしてもう思い出さない
思い出さないようにする
そして私は、彼に救ってもらった命を
めいいっぱい生きようと思う
陰湿な奴は嫌いだ