水の村6
「あずみ!そんなに怯えるなよ」
そんなこと言われたって
うちには見るもの全部知らなくて…
「大丈夫だよ。ぼくらがいるだろ?」
…そうだけど
「その中でもぼくは負けたことの無い御堂家だ!安心して。ぼくが絶対守るから」
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「友達、か」
呟くなーくんに、うちは無言で頷く。
あの頃のなーくんはもういないのだ。
「何故私に記憶がない」
「この場所は特殊なの。ここから出ていくと、この場所での記憶は消える。
なーくんも以前ここに来てそれから出て行ったから記憶もないんだよ」
「仕組みについては後で聞こう。何故私はここに来た」
「…それは、言えない」
「……そうか。なら質問を変える。この場所はなんだ。なんの目的で存在している」
「それよりさ。その話し方やめない?堅っ苦しい」
「これが通常だ」
「えぇ…。じゃあ、しょうがないっか。
えっと、まずうちらも御堂家だよ。だいぶ古くからあって、負けたから分家にはなるんだろうけど。
目的はたぶん、なーくんの想像通り」
「詳しく聞かせてくれ」
「なーくんはどうしてここに来たの?というかどうやって見つけたの?」
「こちらの質問が先だ」
「…そうだね。わかった。
先祖は御堂家で、悪霊の存在を見ることができた。
そして彼らが人を襲い、死に至らしめることも知った。
だから、戦おうとして、そして負けた。
家族ぐるみで戦って、子供と旦那さんが死んだらしいよ」
「霊は、直接人は殺せないと聞いている」
「当時のことはわからないよ。
ただ生き残った先祖にとっては家族は皆殺しにされた。
精神的にそうなったのか、事故死なのかはわからないけどね」
「それで、ここができたのか」
「そうなるね。霊を放置できない。負けたままではいられない。
先祖は、悪霊のことを人の天敵だと言っていたみたいだよ」
「妖怪はどうなんだ」
「あんまり重視されてないかな。刀で斬ってどうにかなる存在は気にかけてないよ。ただ…正直、霊と妖怪の違いをわかってない部分はあると思う。どちらも敵は敵だ」
「それで、実際はどうなんだ」
「…実際、と、いいますと?」
「何をしている」
「……正直、ほとんど何もしてないよ。
うちなんて幽霊自体見たことない」
「………ん?」
「というか、うちは巫女だから。ほとんど何も知らないの」
「それでは、明澄は何をしている」
「祈る。とにかく祈る。
水と命あるものの平穏と人柱たちのためにね」