平和なある日1
「暢気なものですねぇ」
お父さまがこちら側にいて
りんさんが妖怪たちと一緒にいて
何処か懐かしい穏やかな一面に
三日月を口に張り付けた悪魔がいた
「…お久しぶりです。ベリアルさま」
「ええ。立派な結界でしたよ?妖怪小娘。あれでは踏み入れれぬ人間も出てくるのでは?」
「無用な人間には来てほしくはありませんので」
「そうですか。門をくぐれば弱い霊なら吹き飛びそうですねぇ」
「好都合です」
「…以前から思っていましたが、何故ワタシを嫌うのです?」
「本能です」
そうですか、と嗤いながらベリアルさまは本堂に進む
結界は更に強化しているが、この大悪魔にはやはり効かないらしい
「お初お目にかかります。大妖怪サマ。
ああ、虫けらにそう呼ばれ続けただけの名ばかりの大将サマでしたね。失礼いたしました」
お父さまはゆっくりと動き、ゆっくりとお辞儀した。
そして終わったと言わんばかりに目をそらす。
「無反応ですか。面白味がなくていけませんねぇ。
愛する娘に手を出せばお話ひとつもしてくれますか?」
あ。
言葉が終わった瞬間、お父さまはわたしの前で笑っていた。
小さな茶菓子をそっと手に乗せてくれている。
「あ、ありがとうございます」
細かく飾られた綺麗なお菓子だ
食べるのが勿体ないくらい
「ちょ!ぬらさん。それまだ試作品段階なんだけど!」
「え。これ凛さんが作ったんですか?」
「あ、うん。妖怪たちに洋菓子のイメージはないからさ」
だからといって作ってしまうのか
す、すごい……
「食べれないです…」
「いや、食べない方がいいよ。確実に砂糖いれすぎたから」
「そうじゃなくて、勿体ないからです」
「そう?ありがとう。
でも食べないで!甘すぎて毒だから!
そういうのはアカメさんに食べさせとけば……っていうか、べりくん来てたんだ」
それにお父さまはわたしに美味しくないものとか体に悪い物は持ってこない
ちらりと父さまを見ると頷きながら笑ってる
…あとでこっそりいただこう
「ぬらりひょん。コソ泥に近い生き物と思いきや、よもやそういうことでしたか。
気配は皆無、音もなし。瞬間移動というには簡単すぎますかねぇ。いやはや、感服感服…」
「べりくん、ぶつぶつ言ってどうした?」
「ああ、主サマ。いえ、別に何でもありませんよ。ただ、一ついいたいことがありましてね」
そしてベリアルさまはまたも三日月を顔に浮かべる
「たるんでます」
悪魔はそう言った