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魔王の手帳  作者: Karionette
第六章 妖怪来襲編
130/219

ぬらりひょん2




触れる


やわらかく、あたたかい


だが震えている


何事にも恐怖しないこの子が




ああ


遅れてしまった






「お、お父さま…」




「遅れました。すみません」




「いえ、お父さまはここにいては…」




「そんなものに迷いを覚えた父を許してください」






禁忌だった


人の世に行くことは許されていなかった


ましてや誰に呼ばれているわけでもないというのに




迷った


迷い、そのせいで娘は恐怖した


また一人で耐えた


我慢して 我慢して 過去と同じことをした






「すみません」






それは死ぬのと同義


娘は耐えた結果に、人として死んだのだから


声を失い、心を閉ざし、小さな身一つで耐え続けて


そして人の世からさることになった




わたくしは、変わらぬ小さな体の彼女に同じことを…






「お父さま。わたしはお父さまには来てほしくなかった」






傷ついた娘は、ぼろぼろと涙をこぼした






「ここに来てしまえば、どうなるかおわかりでしょう。


わたしはそんなこと・・・望んでおりません。


たとえわたしが死ぬことになったとしても、認めがたいものなのです。


お父さま。なんてことを。本当に、なんてことをしてしまったのですか……!!」






恐怖に震えるよりも


乱れた心が伝わってくる




ああ


どうしてこうもうまくいかないのだろうか




あのまま娘が死んでもよかったのか


父としてそれでよかったのか


――否だ




わたくしは罰せられ死ぬことになる


娘は寂しい想いをする それでよかったのか


――否だ




どうすればよかったのだろうか


いや、考えても仕方のないこと


あの時迷い、その上でこれを選んだ




これで、よかったとわたくしは思う








「俺を待てばよかったんだよ」






荒い息が天から聞こえる


若殿がひらいと舞い降りた


顔は、苦悶に満ちている






「お前がするからだめなんだ。俺なら許されるのに」






首を振る


若殿は間に合わなかった


若殿は管理者であり、それはわたくし達が人間に関わらないように。またはその逆が起きないように管理する立場の方




もしも娘が普通の人間ならば若殿は瞬時にここに現れ救っただろう


しかし娘は人としては曖昧で、若殿の力も十二分には発揮されない


娘に迫る死において管理人としての特別処置は適用されない




若殿もわかっている


わかっているからこそ、苦悶の表情をする




若殿は恐らく娘を救っただろう


またも己を砕いて救っただろう


それで死ぬか否かは未知のこと


傷を負おうか負わぬかはわかりきったこと




若殿が傷を負えば、娘は悲しむ






「赤目さん!お願いです!どうか、お父さまを……!!」




「……」




「どんな罰をも受けます。お父さまはどんな理由があったとしても規則を破ったことは事実。


ですので責めは受けます。どんなものでも、どのくらい時間をかけてでも受けます。だから、どうか……」






娘は、若殿の足元で泣き崩れた






「お父さんを、殺さないで……」






若殿は頭を抱える


悩み、悩み、泣く娘とこちらを見る




ため息をつく


そしてへなへなと崩れ落ち、耳に手を当てた






「……凛。悪い。ほんとに悪い。頼まれてくれ…」






若殿はそう言った。




もうほんと、俺は弱ぇなぁ


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