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魔王の手帳  作者: Karionette
零章 アカメの日記帳
13/219

名前・新


新しいやつな

割り込ませてみたわ笑










名前を呼んではいけない




ばあちゃんから聞いた


おれはそう聞いて、それを守っていた


子供の時からずっと




何故呼んではいけないのかと聞いた


教えると攫われてしまうからだとばあちゃんは言った




おれの家にある井戸


そこで呼んではいけないのは人の名前


呼ばれた人は、攫われてしまうのだ






おれはやってしまった


やってしまったのだ




軽い気持ちだった


むしゃくしゃしてた


酔っぱらっていた


なにも深く考えてなかった




おれは昨日そこで名前を呼んだ


妻の名前を呼んだ


妻はいなくなった


ゆくえふめいだ


メモも何もなく消えた


消えたんだ


何処にもいない


きっと連れていかれた


ばあちゃんの言うように攫われてた




誰にも言えない


こんなこと言えない


言っても罪には問われないけど


おれは消えてほしいわけじゃなかったんだ


ただ、軽い気持ちで




どうすればいい


警察に行ってもめんどくさそうに書類をだしただけだ


行方不明届


そんなものでみつかるだろうか


不安だ 不安でしょうがない


それになんだ あの警察


家庭内暴力はありませんでしたか?


ふざけんな!


きつかったのはおれだ


仕事から帰って相手をしろだ家事をしろだ手伝えだ


子供が欲しいから頑張れ


金が足りないから昇進しろ


新しいバックが欲しい


どうしてかまってくれないの


うるさいうるさいうるさいうるさい


消えちまえって思うさ


思うことだってあるさ


でも言ったことない


言わない




そうだ


おれは名前を呼んだだけだ


大丈夫だ


偶然だ


単なる偶然なんだ




それなら喜ぼう


久々に小言を言うやつがいないんだ


おれは自由だ


酒をのんで、裸でベッドを占領して


好きなチャンネルみて女の写真でも見よう


そうだ そうしよう


こんなもん書くのもやめだ
















1週間がたった


妻は戻らない




おれは仕事をやめた


手がつかない


おれはわるくないのに罪悪感がとまらない


体からあふれて景色を真っ暗にする


鬱だ


病院にいくことにしたけど


起きた事実が変わらないから


頭がぼんやりしようが、忘れない以上変わらないだろう


こんなにあれが気になって気になってしょうがない人生を送るのか


妻がいなくなったことばかりを考える毎日


おれはあいつを愛していたんだと痛感する










昨日の日記をみて笑った


薬がきいていたのだろう


なにが愛していただ


おれを縛るのは罪悪感だけだ


あんなやつしらん


どうでもいい


それよりいなくなったせいで世間の眼がきびしいんだよ


追い出したんじゃないだろうか


DVがあったんだろう


女の一人も守れない男


愛想つかして出て行った


エトセトラ


うるさいうるさいうるさい


頭から出てけ


でていってくれ


井戸もばあちゃんも妻もあの日も










だめだ


限界だ


きつい


あれから1か月だ


よくがんばった


せめてはっきりさせることにした


おれのなまえを呼ぶ


あそこで呼ぶ


それでおれが消えたら妻はおれが消した


それでおれが存在したら妻は勝手に出て行った


すばらしい


名案だ














車でむかった


井戸は変わらずたたずんでいた


薬をがぶ飲みして


おれは名前をいった


井戸の中に俺の名前は吸い込まれて




すぐに表れたのは赤色だ


赤い眼だ


真っ暗な景色のなかその目は舌打ちする






「消えたいなら勝手に死ねよ馬鹿。


わざわざこっち側の方法使うな」




赤い眼の男はそう言った


なにがなんだかわからないおれだ


想像していた


怖いことが起きる


化け物が出てくる


襲われて切り刻まれてそして死ぬ




だがどうだろう


ここは単なる暗闇だ






「めんどくせぇ。井戸に向かって名前を言うと反響するだろうが。


こっち側に召喚されたんだよ。おまえは」






言っている意味がわからなかった


首をかしげる俺に赤い眼の男はため息をつく






「名前を呼ぶのは()ぶことなんだよ。


あの井戸が若干こちら側にあるからこんなことが起きるんだけど。


自分で名前を言うことがこっち側でお前の名前が呼ばれたのと同じことが起きる。


あー。めんどくせぇ。とにかく理屈はいいんだよ。この馬鹿。


お前みたいな不純物質は追い出してやるから安心しろ。お前の女も同じだ。


ただ時間はいる。こっちの時間とお前らの時間は一緒じゃねぇからな」






まくしたてるように言う彼は銀色の髪をかきあげる




そうか


ばあちゃんの言うことは本当だった


名前を呼ばれたら消えてしまう


でも戻れる


妻も戻ってくる


日常が返ってくるのだ


そう安心した






「馬鹿が。召喚には代償が必要なんだよ。平和な日常なんてくるわけねぇだろうが」






彼のその言葉を最後に意識は途切れた


そしてきづけばベッドの上で


右手しかなかった




妻はいたけど去った


面倒見切れないと去った


妻は自分がいなくなっていたことを知らない


周りも知らない


何をしていたかは覚えていないらしい




そしておれは


勝手におかしくなって、仕事もやめて


井戸に落ちて手足を失ったらしい


おれがあの日井戸にいってから3年も経っていた






笑える


妻はいなくなっていた


それをおれは言った


全部暴露して訴えた


妻はおぞましいものを見る眼でおれをみた


その次の日に妻は出ていって


おれは声すら出なくなった




ああ、わかるさ


おれだって3年前の同じ月に何をしていたかなんてわからないけど


この世にはいた。確かにいた。具体的じゃなくてもわかる


妻のはそんなかんじなんだろう




でもおれは


おれはどうだ


おれはきおくが消えていない


ずっと妻を消した罪悪感もある


自分を消そうとした感覚もある


そして、末路がこれだ


もう鬱憤を晴らすことさえできない不自由な体




あの男は代償と言っていた


そうか。代償か


だからと納得できるか


できはしない


だが、納得できないからといって何ができるか


何もできない




苦しい


苦しい




残った右手が痛い


使いすぎたせいなのかわからない


痛くて痛くてたまらない




手足がなくなって 声もでなくて


最後に残った腕すら奪うのか


いやだ


もう書くことしかできないのに


それしか残すことができないのに


そんn










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